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平成13年横審第8号
件名

遊漁船第七深田丸プレジャーボート(船名なし)衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年6月12日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(長谷川峯清、小須田 敏、花原敏朗)

理事官
古川隆一

受審人
A 職名:第七深田丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:プレジャーボート(船名なし)乗組員 

損害
深田丸・・・魚探の送受波器昇降用鋼管を曲損
岡本号・・・左舷船首外板を破損

原因
深田丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
岡本号・・・見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、第七深田丸が、動静監視不十分で、前路で停留中のプレジャーボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、プレジャーボート(船名なし)が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月16日10時30分
 神奈川県長者ケ埼西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第七深田丸 プレジャーボート(船名なし)
総トン数 12.5トン  
全長 16.84メートル 3.52メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 257キロワット  


3 事実の経過
 第七深田丸(以下「深田丸」という。)は、船体中央に操舵室があるFRP製遊漁船で、A受審人が1人で乗り組み、釣客4人を乗せ、あおりいか釣り遊漁の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成12年4月16日07時00分神奈川県佐島漁港を発し、同県三浦半島西岸北部沖合の釣場に向かった。
 A受審人は、発航後佐島漁港沖合の小田和湾で約2時間、神奈川県葉山港沖合の逗子湾南部で約1時間それぞれ漂泊して釣りを行ったが、いずれも釣果がなかったので、同県長者ケ埼沖合に移動することとした。
 ところで、深田丸の操舵室には、船首側の中央に舵輪、左舷側にレーダー及び右舷側に主機遠隔操縦装置がそれぞれ配置され、同装置と舵輪との間にカラー魚群探知器(以下「魚探」という。)の表示画面が上向きに設置されていた。また、A受審人は、釣場の移動時には魚探の後ろに立って前路の見張りに当たりながら操舵操船を行い、魚探を見て釣場の目安としている水深20メートル付近の海域に至れば減速し、釣場を決めたのち漂泊して釣客に釣りを行わせていた。
 10時25分A受審人は、葉山灯台から239度(真方位、以下同じ。)940メートルの地点で、長者ケ埼北方に十数隻の手漕ぎのプレジャーボート(以下「手漕ぎボート」という。)群を認め、同ボート群を替わしてから釣場の漂泊地点を決めることとし、針路を長者ケ埼西方沖合約500メートルに向く144度に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの速力で、魚探の後ろに立って右手に主機操縦ハンドルを持ち、左手に舵輪を持って手動操舵により進行した。
 10時28分半A受審人は、葉山灯台から180度1,600メートルの地点に差し掛かったとき、左舷船首17度400メートルのところに前示ボート群の一番南側に位置している手漕ぎボート(船名なし)(以下「岡本号」という。)を認め、岡本号の船首が風上に向いている様子などから停留していることを知り、同船と長者ケ埼との見通し線上に至ったら減速して左転し、同埼沖合の釣場に向かうこととして続航した。
 10時29分A受審人は、葉山灯台から176度1,770メートルの地点に達したとき、左舷船首33度210メートルのところに停留している岡本号の船首と長者ケ埼西端とを一線上に見通したので、機関を微速力前進に落として7.0ノットの速力とし、針路を同船の船首に向く111度に転じ、岡本号に近づいてから同船を避けるつもりで進行した。
 その後A受審人は、このまま続航すれば岡本号に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、転針時に減速したので同船を避ける動作を取るまでにはまだ時間の余裕があるものと思い、引き続き岡本号への接近状況についての動静監視を十分に行うことなく、このことに気づかず、釣場の目安にしている水深を確認するため、下を向いて魚探に表示される水深の監視に当たり、同船を避けないまま続航中、10時30分葉山灯台から170度1海里の地点において、深田丸は、原針路、原速力のまま、その船首が岡本号の左舷船首に前方から69度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮侯は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、衝突に気づかないまま続航しているうちに魚探の表示映像が消えたことから、顔を上げて周囲を見回したところ、右舷船尾方に無人の岡本号及び左舷船尾方にB指定海難関係人がそれぞれ浮いているのを認め、ようやく衝突に気づいて事後の措置に当たった。
 また、岡本号は、FRP製の手漕ぎボートで、B指定海難関係人が荒井ボートと呼称する貸しボート店から借りて1人で乗り組み、あおりいか釣り遊漁の目的で、船首5センチメートル船尾10センチメートルの喫水をもって、同日10時12分同店の船外機付きボートに曳航(えいこう)されて葉山灯台から143度1.25海里の海岸を発し、同時20分前示衝突地点に至ってシーアンカーを投入したのち、停留して釣りを始めた。
 ところで、B指定海難関係人は、これまで約3年間にわたり、ほぼ毎週1回荒井ボートで手漕ぎボート及び笛が付いた救命胴衣を借り、前示海岸の西方沖合約1キロメートルの釣場に赴き、夏から秋にかけては同店が設置した浮標に係留してサバなどを、冬から春にかけてはシーアンカーを投入してアオリイカをそれぞれ対象として釣りを行っていた。
 また、岡本号のシーアンカーは、縦横の長さが各1.2メートルのビニール生地の四隅に取り付けたそれぞれ直径10ミリメートル長さ約2メートルのナイロンロープに、船首端の鋼製リングに固縛した直径15ミリメートル長さ約5メートルのナイロン製シーアンカーロープを連結して船首方に伸出するもので、投入して船体が風に立つまで約3分間、手作業による回収に約5分間を要した。B指定海難関係人は、仕掛け作りの小型はさみ以外に刃物を持たないまま乗船していたので、緊急時にシーアンカーロープを解き放つことも、切断することも困難な状況であった。
 こうしてB指定海難関係人は、風や海潮流によって圧流されないまま船首を風に立てて000度に向け、カッパの上に救命胴衣を着用し、右舷方を向いて船体中央にあるシートにまたがって腰掛け、右舷側に長さ1.6メートルの釣竿を張り出し、釣糸を長さ27メートル伸出して釣りをしながら、停留を続けた。
 10時29分B指定海難関係人は、前示停留地点で、同じ姿勢で釣竿をしゃくりながら釣りを続けていたとき、深田丸が左舷船首69度210メートルのところで転針し、その後自船に向けて衝突のおそれがある態勢で接近するのを視認できる状況であったが、航行船が停留している自船を避けていくものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、深田丸の接近に気づかず、同船に対して救命胴衣の笛を吹くなど有効な音響による注意喚起信号を行わないまま停留中、同時30分少し前ふと左舷方を見て自船に向首接近する深田丸を初めて認め、衝突の危険を感じ、釣竿を振って大声で叫んだが効なく、岡本号は、船首が000度に向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、深田丸は、魚探の送受波器昇降用鋼管を曲損し、岡本号は、左舷船首外板を破損したが、のちそれぞれ修理された。また、B指定海難関係人は、衝突直前右舷前方の海中に向かって飛び込んだ際、シーアンカーロープが左足に絡み付いて左膝複合靭帯損傷を負ったが、間もなく深田丸に救助された。

(原因)
 本件衝突は、神奈川県長者ケ埼西方沖合において、釣場を移動中の深田丸が、前路でシーアンカーを投入して停留中の岡本号への接近状況についての動静監視が不十分で、同船を避けなかったことによって発生したが、岡本号が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、神奈川県長者ケ埼西方沖合において、釣場に向けて移動中、前路で停留している岡本号に向けて針路を転じた場合、同船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、岡本号への接近状況についての動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、岡本号を避ける動作を取るまでにはまだ時間の余裕があるものと思い、引き続き同船への接近状況についての動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船を避けないまま進行して衝突を招き、深田丸の魚探の送受波器昇降用鋼管に曲損を、岡本号の左舷船首外板に破損をそれぞれ生じさせ、B指定海難関係人に左膝複合靭帯損傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、神奈川県長者ケ埼西方沖合において、シーアンカーを投入したのち、停留して釣りを行う際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対して勧告しないが、今後手漕ぎボートで遊漁を行う際には、見張りの重要性を認識し、周囲の見張りを十分に行わなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。



参考図
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