(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年6月11日08時00分
宮城県石巻港
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十三浅川丸 |
総トン数 |
499トン |
登録長 |
60.24メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十三浅川丸(以下「浅川丸」という。)は、主としてクレオソート油の輸送に従事する鋼製油送船で、A受審人ほか4人が乗り組み、停泊用発電機の修理を行う目的で、空倉のまま、船首2.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成12年6月11日06時45分石巻港東海カーボン専用桟橋を発し、同港港域内の石巻漁港の魚市場前の岸壁(以下「魚市場岸壁」という。)に向かった。
ところで、魚市場岸壁は、ほぼ東西に延びる長さ約1,200メートルの岸壁で、同岸壁東端から南方に延びる長さ約400メートルの先端に石巻漁港東防波堤灯台が設置されている東防波堤、同岸壁西端から南方に延びる長さ約300メートルの岸壁及びその岸壁南端から東方にくの字型に延びる全長約1,300メートルの先端に石巻漁港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)が設置されている西防波堤により囲まれていて、両防波堤の入口幅は約350メートルであった。
また、浅川丸の主機は、操舵室右舷側に設置された操縦スタンドで遠隔操縦ができるようになっており、同スタンド上の右側の操縦ハンドルを中央の中立位置から前方に倒すと前進、後方に倒すと後進となり、倒す角度が大きいほど機関の回転数が上がるようになっており、同ハンドルの位置はスタンド側の歯車とハンドル側の歯車がかみ合うことによって固定するようになっていた。
A受審人は、発航時から1人で操舵操船に当たり、石巻港南側の港界付近を東航して、同港南東側の港界の南方1海里ばかりのところで北上を始め、07時30分西防波堤灯台から127度(真方位、以下同じ。)780メートルの地点(以下、各地点は浅川丸の正船尾端の位置とする。)に至ったとき、船首尾に乗組員を配置して入港準備とし、針路を東防波堤南西端と西防波堤南東端の中間に向く316度に定め、機関を微速力前進にかけ、4.0ノットの対地速力で進行した。
07時40分半A受審人は、西防波堤灯台から327度520メートルの地点で、針路を270度に転じ、同時42分半同灯台から312度640メートルの地点に達したとき、右舵一杯とし、機関を種々使用して右回頭を始め、同時46分同灯台から320度680メートルの地点で右舷錨を投じ、続いて左舷錨を投じたのち、魚市場岸壁に船尾付けの態勢で両舷錨鎖を延出しながら同岸壁にほぼ直角に2.0ノットの行きあしで後退した。
A受審人は、07時59分半魚市場岸壁までの距離が30メートルとなったとき、後進行きあしを止めるため操縦ハンドルを極微速力前進としたところ、主機操縦スタンド上の前部左舷寄りに設置された主機警報盤の前進を表す緑色の表示灯が点灯したので機関は前進にかかったものと思い、同岸壁への接近模様を監視するため右舷ウイングに出たが、同表示灯の右側に設置された主機回転計を見るなどして機関の運転状態の確認を十分に行わなかったので、同スタンドの歯車と同ハンドルの歯車とがかみ合わず、機関が前進にかかっていないことに気付かなかった。
A受審人は、08時00分わずか前浅川丸の後進行きあしが減じていないことに気付き、直ちに操舵室に入り機関を全速力前進としたが及ばず、08時00分西防波堤灯台から329度820メートルの地点の魚市場岸壁に、船首が188度を向いたとき、わずかな後進行きあしをもって船尾部が衝突した。
当時、天候は雨で風力3の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
岸壁衝突の結果、船尾部外板に凹損を生じ、魚市場岸壁の車止めコーナー部等に損傷を生じ、のちいずれも修理された。
(原因)
本件岸壁衝突は、石巻港港内を転錨して魚市場岸壁に船尾付けの態勢で後進行きあしをもって着岸する際、操縦ハンドルで機関操作を行うにあたり、機関の運転状態の確認が不十分で、機関が前進にかからず、行きあしの停止が行われなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、石巻港港内を転錨して魚市場岸壁に船尾付けの態勢で着岸中、後進行きあしを止めるため操縦ハンドルで機関操作を行う場合、機関が確実に前進にかかるよう、機関の運転状態の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前進表示灯が点灯したので機関は前進にかかったものと思い、主機回転計を見るなどして機関の運転状態の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、機関が前進にかかっていないことに気付かず、後進行きあしをもって同岸壁に衝突し、船尾部外板に凹損を生じさせ、同岸壁車止めコーナー部等に損傷を生じさせるに至った。