(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年1月11日13時05分
北海道室蘭港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船びるたす |
総トン数 |
6,327トン |
全長 |
134.60メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
13,386キロワット |
3 事実の経過
びるたすは、青森県八戸港と北海道室蘭港との間の定期航路に就航する、2基2軸、固定ピッチ推進器翼及びバウスラスタを装備する船首船橋型鋼製旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか22人が乗り組み、旅客12人を乗船させ、車両12台を積載し、船首4.86メートル船尾5.57メートルの喫水をもって、平成12年1月11日05時45分八戸港を発し、室蘭港に向かった。
12時50分A受審人は、室蘭港外で、船橋当直中の二等航海士から操船を引き継ぎ、機関を全速力前進にかけ、折からの西北西風を左舷方から受けながら、15.0ノットの対地速力で北上を続けた。
13時01分A受審人は、室蘭港南外防波堤灯台(以下「南外防波堤灯台」という。)から229度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点に達したとき、入港スタンバイを令し、甲板手を操舵、一等航海士を視覚による見張り、二等航海士をレーダーによる見張り、及び三等航海士を機関操縦盤にそれぞれ就け、いつものとおり針路を北外防波堤と南外防波堤との間の港入口に向ける038度に定めた。
定針時、A受審人は、外防波堤沖に敷設された室蘭港口灯浮標を右舷船首5度に視認していたことから、このままで同灯浮標を右舷に替わして航過できるものと思い、折からの強風により同灯浮標に向けて圧流されないよう、同灯浮標を十分に離す針路を選定することなく、原針路のまま西北西風の影響により5度右方に圧流されて進行した。
13時03分A受審人は、南外防波堤灯台から233度0.8海里の地点に達したとき、降雪により視界が約200メートルに狭められ、肉眼やレーダーで室蘭港口灯浮標が確認できないまま原針路、原速力で続航中、同時04分半船首少し右約200メートルのところに同灯浮標を視認し、急いで機関停止、スタビライザー格納、次いで左舵15度を令するも及ばず、びるたすは、13時05分南外防波堤灯台から250度0.3海里の地点に敷設された室蘭港口灯浮標に、ほぼ原速力のまま023度を向首した同船の右舷前部が衝突した。
当時、天候は雪で風力6の西北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
灯浮標衝突直後、A受審人は、室蘭海上保安部に本件発生を通報した。
灯浮標衝突の結果、びるたすは、右舷前部に擦過傷を生じ、また、キックを利用して室蘭港口灯浮標を替わそうとして右舵一杯をとったとき、同灯浮標の繋止用鉄鎖が右舷推進器翼に接触し、同推進器翼に曲損を生じ、同灯浮標が損壊したが、のちいずれも修理・復旧された。
(原因)
本件灯浮標衝突は、強風下の室蘭港に入航する際、針路の選定が不適切で、室蘭港口灯浮標に向け圧流されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、強風下の室蘭港に入航する場合、室蘭港口灯浮標に向けて圧流されないよう、同灯浮標を十分に離す針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針時同灯浮標を船首少し右に視認していたことから、いつもの入航針路で同灯浮標を右舷に替わして航過できるものと思い、同灯浮標を十分に離す針路を選定しなかった職務上の過失により、折からの強風により圧流され、同灯浮標との衝突を招き、推進器翼に曲損などを生じさせ、同灯浮標を損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。