(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年11月5日09時30分
北海道野寒布(のしゃっぷ)岬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第三坂本丸 |
台船坂本201号 |
総トン数 |
51.30トン |
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登録長 |
19.87メートル |
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全長 |
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35.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
735キロワット |
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船種船名 |
漁船第十正栄丸 |
総トン数 |
19トン |
全長 |
24.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
3 事実の経過
第三坂本丸(以下「坂本丸」という。)は、港湾工事に使用する台船などの曳航作業に従事する鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、無人で喫水船首0.65メートル船尾0.70メートルの台船坂本201号(以下「台船」という。)を化学繊維製ロープで船尾に引き、坂本丸の船尾から台船後端までの長さを約250メートルの引船列とし、マストにひし形の形象物1個を掲げ、船首0.7メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成11年11月5日08時00分北海道稚内港を発し、礼文島の船泊港に向かった。
A受審人は、発港操船に引き続いて単独の船橋当直に当たり、08時55分稚内灯台から000度(真方位、以下同じ。)1.6海里の地点で、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、5.5ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
09時25分A受審人は、稚内灯台から300度3.2海里の地点に達したとき、右舷船首11度1.1海里のところに、第十正栄丸(以下「正栄丸」という。)を初認し、間もなく同船が前路を左方に横切る態勢にあることを知り、手動操舵に切り替えて様子を見ていたところ、同船が船首を振って少し左転したように見えたことから、このままで台船の船尾方を無難に替わるものと思い、正栄丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、同船の方位が明確に変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けることなく進行した。
A受審人は、09時29分半、正栄丸が坂本丸の右舷側至近のところを航過したのち曳航索に向かっていることを認めて危険を感じ、電気ホーンにより短音数回を吹鳴し、次いで機関を停止したものの、09時30分稚内灯台から296度3.6海里の地点において、台船の船首から約15メートル前方の曳航索に、正栄丸の船首が前方から16度の角度をもって衝突したあと、台船の左舷船首角に正栄丸の左舷船首が衝突した。
当時、天候は曇で風力4の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、正栄丸は、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が弟の甲板員と2人で乗り組み、操業の目的で、船首1.1メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、同月4日16時00分稚内港を発し、礼文島ゴロタ岬西方1海里ばかりの漁場に到着して操業を行い、いか約1トンを獲て操業を終え、翌5日06時00分同漁場を発進し、多数の同業船とともに同港に向け帰航の途についた。
ところで、B受審人は、平成11年7月下旬から稚内港を基地とし、毎日夕刻出港して夜間操業を行い、翌朝に帰港する形態で操業を繰り返しており、越えて10月からは荒天の日以外は定休日なしで出漁を続け、漁場への往復航の船橋当直をほとんど自ら行い、漁場で短時間仮眠をとるだけで連日操業に当たっていたことから、疲労が蓄積し睡眠不足の状態となっていた。
B受審人は、漁場発進前に短時間仮眠をとっただけで操舵室後部の寝台の上に渡した板(以下「渡し板」という。)に腰を掛けて単独で船橋当直に当たり、06時40分金田ノ岬灯台から325度4.9海里の地点で、針路を096度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの西寄りの風浪を船尾方向から受けて船首を左右に振りながら、9.0ノットの対地速力で東行した。
08時00分B受審人は、それまで見掛けていた操業中の漁船も見当たらなくなり、また同業船も自船を追い越して先に離れていったことから、渡し板からカーペット敷の床に下り横になったところ、蓄積した疲労と睡眠不足から眠気を催すようになったが、付近に他船がいないから大丈夫と思い、賄室で食事の準備に当たっていた甲板員と当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとらないでいるうち、やがて居眠りに陥った。
B受審人は、09時15分稚内灯台から292度5.9海里の地点に達したとき、船位がGPSプロッターの予定針路線から左方に偏位したことを知らせる警報音を聞いて目覚め、眠気でもうろうとしたなか自動操舵のまま針路を106度に転じ、再び床に横になったところ、間もなく深い眠りに陥った。
09時25分B受審人は、稚内灯台から293度4.3海里の地点に達したとき、左舷船首5度1.1海里に坂本丸と同船に曳航された台船を視認でき、その後坂本丸引船列が前路を右方に横切り、その方位が明確に変わらず衝突のおそれがある態勢で接近していたが、居眠りしていたので、警告信号を行うことも、更に同引船列が間近に接近しても機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作もとらないまま続航中、正栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、坂本丸引船列は、曳航索を切断したほか、台船の左舷船首部防舷材を破損し、また正栄丸は、左舷船首部外板に凹損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、北海道野寒布岬西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、坂本丸引船列が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る正栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、正栄丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、台船を船尾に引き野寒布岬沖合を西行中、右舷前方に前路を左方に横切る正栄丸を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同船が船首を振って少し左転したように見えたことから、このままで台船の船尾方を無難に替わるものと思い、正栄丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがあることに気付かず、その進路を避けることなく進行して同船との衝突を招き、曳航索を切断させたうえ、台船の左舷船首部の防舷材を破損させ、正栄丸の左舷船首部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、単独で船橋当直に当たって漁場から稚内港に向け自動操舵により帰航中、蓄積した疲労と睡眠不足から眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、賄室で食事の準備に当たっていた甲板員と当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、付近に他船がいないから大丈夫と思い、賄室で食事の準備に当たっていた甲板員と当直を交替するなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、操舵室の床で横になって居眠り運航となり、坂本丸引船列が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近した際に警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行して同引船列との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。