(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年11月16日11時14分
広島県竹原港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船芸予 |
総トン数 |
699トン |
全長 |
59.54メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,206キロワット |
3 事実の経過
芸予は、2基2軸を装備した旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか6人が乗り組み、旅客15人及び車両11台を載せ、船首1.9メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成10年11月16日10時35分愛媛県大三島の宮浦港を発し、広島県竹原港に向かった。
発航後、A受審人は、在橋して船橋当直中の一等航海士と打合わせを行い、11時06分半竹原港竹原外港防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から154度(真方位、以下同じ。)1,050メートルの地点に達したところで、同航海士から当直を引き継いで甲板長を手動操舵に就かせて針路を323度に定め、機関を徐々に減速しながら進行した。同時08分少し過ぎ防波堤灯台から173度470メートルの地点で、入港部署配置を令し、針路を355度に転じ、さらに竹原外港防波堤(以下「防波堤」という。)の手前で8.0ノットの極微速力前進にして続航した。
11時10分半A受審人は、防波堤を左舷正横60メートルで通過したのち、機関を微速力前進とし、同時11分少し前防波堤灯台から014度200メートルの地点に至り、中四国フェリー岸壁まで約400メートルになったところで機関を停止し、針路を013度に転じて惰力で進行した。
A受審人は、岸壁の可動橋まで約60メートルとなったところで、バウスラスター、機関及び舵を使用して左回頭を始め、船首がほぼ西方に向首したとき、右舷船首から空気式係船索発射機を使用して係留索1本を船首にとり、同索を緩めたまま、左舷機を極微速力後進にかけ、右舷機を極微速力前進と停止を繰り返し、回頭を続けながら岸壁に沿って後進した。
ところが、11時14分少し前A受審人は、後方の護岸に接近したとき、船尾配置に就いていた一等航海士から護岸まで約10メートルに近づいたので前進を要請する報告があったが、まだ護岸まで距離があるのでそのまま後進し続けても大丈夫と思い、機関を適切に使用することなく、行きあし過大のまま後進を続け、その後、同航海士から過大な速力で護岸に接近していることを報告されたので、急遽右舷機を半速力前進にかけ、左舷機を停止したものの、効なく、芸予は、11時14分防波堤灯台から016度620メートルのところの護岸に、約3.0ノットの後進速力で船尾ランプが衝突した。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
護岸衝突の結果、芸予は船尾ランプに擦過傷を生じたのみであったが、護岸は上部に欠損及びひび割れを生じ、のち修理された。
(原因)
本件護岸衝突は、広島県竹原港において、中四国フェリー岸壁に機関を後進にかけて出船着岸する際、機関の使用が不適切で、後進行きあしが過大のまま、護岸に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島県竹原港において、中四国フェリー岸壁に機関を後進にかけて出船着岸する場合、護岸に過大な後進行きあしで接近することのないよう、機関の使用を適切に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、護岸まで距離があるのでそのまま後進し続けても大丈夫と思い、いったん後進行きあしを減速するなどの機関の使用を適切に行わなかった職務上の過失により、過大な後進行きあしで護岸に衝突し、自船の船尾ランプに擦過傷を、護岸の上部に欠損及びひび割れを生じさせるに至った。