日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年広審第97号
件名

貨物船グレート プレステージ貨物船クリスタル サンブ衝突事件
二審請求者〔理事官安部雅生〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年5月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(竹内伸二、中谷啓二、横須賀勇一)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:グレート プレステージ水先人 水先免状:内海水先区

損害
プ 号・・・右舷船首部に破口と凹損
サ 号・・・船首部を圧壊

原因
サ 号・・・船員の常務(前路進出)不遵守

主文

 本件衝突は、水島港港内航路を南下中のクリスタル サンブが、右転して航路の右側を北上中のグレート プレステージの前路に進出したことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月12日07時05分半
 岡山県水島港

2 船舶の要目
船種船名 貨物船グレート プレステージ 貨物船クリスタル サンブ
総トン数 27,251トン 2,501トン
全長 190.01メートル 97.56メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 7,796キロワット 1,912キロワット

3 事実の経過
 グレート プレステージ(以下「プ号」という。)は、船橋から船首までの距離が約160メートルの船尾船橋型バルクキャリアで、インド人船長Gほか中国人などの外国人船員20人が乗り組み、とうもろこし43,452トンを積載し、平成12年1月24日アメリカ合衆国タコマ港を発し、岡山県水島港に向かい、同年2月11日23時50分神戸港沖合でA受審人を乗せ、船首11.18メートル船尾11.44メートルの喫水をもって、その後同人のきょう導の下、瀬戸内海を西行した。
 翌12日06時20分ごろA受審人は、水先業務に従事して与島沖合の備讃瀬戸北航路を航行中、入港支援の引船ながと丸を前方警戒業務に就け、その後G船長在橋の下、三等航海士がエンジンテレグラフの操作に、甲板部員が操舵にそれぞれあたって水島航路に入り、同時40分ごろ六口島東方において、引船若田丸を前方警戒業務に加え、係留予定のパシフィック グレンセンター ドルフィン桟橋に向かった。
 06時54分A受審人は、水島航路から水島港港内航路(以下「航路」という。)に入り、同時57分水島港西1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から130度(真方位、以下同じ。)1.75海里の地点で水島港港内航路第3号灯浮標(以下、水島港港内航路各号灯浮標については「水島港港内航路」を省略する。)を左舷側に航過したとき、折から南東方に流れる潮流を勘案し、真針路が340度となるよう針路を336度に定め、機関を半速力前進にかけ、右方に約4度圧流されながら航路に沿って8.6ノットの対地速力で進行した。
 06時59分半A受審人は、第4号灯浮標を右舷側150メートルに航過したとき、右舷船首12度1.3海里に前路を左方に横切って航路に入る態勢で南下するクリスタル サンブ(以下「サ号」という。)を初認し、間もなく同船の出港支援に従事していた引船あき丸の船長から、VHF無線電話により、出航船のサ号がプ号の船首方向を横切り航路内では左舷対左舷で航過して差支えないかとの問合わせがあったので、差支えない旨の返事をするとともに、できるだけ直角に横切るように告げ、07時02分微速力前進に減じるとともに、右方への圧流がほとんど認められなくなったので針路を340度に転じ、7.8ノットの対地速力で航路中央の少し右側を続航し、その後サ号の方位が左方に変わることから、そのまま同船が船首方向を横切ったのち、左転して左舷対左舷で航過するものと判断し、同じ針路・速力のまま進行した。
 ところがA受審人は、07時02分半サ号が右舷船首4度1,130メートルに接近したとき、前後のマスト及び船体の見え具合から同船が左転していることに気付き、何の連絡もしないままあき丸から聞いていた進路と異なる動きをしているので不審に思い、短音5回の警告信号を発してしばらくその動向を監視したところ、サ号がゆっくり左転を続けてその右舷側を認めるようになった。
 こうしてA受審人は、07時03分サ号が右舷側を約50メートルで無難に航過する態勢に変わったので、同船が前路を横切ることを中止したものと思い、同時04分少し前同船を右舷船首4度630メートルに認めるようになったとき、航過距離を大きくするため左舵一杯を令するとともに短音2回を吹鳴して左回頭を始めたところ、同時04分530メートルに近づいたサ号が右転して前路に進出する態勢となったことに気付き、衝突の危険を感じて再び短音2回を吹鳴し、機関を全速力後進にかけるとともに舵中央を令して進行中、07時05分半防波堤灯台から092度1,630メートルの地点において、プ号は、320度に向首して5.0ノットの速力となったとき、サ号の船首が、プ号の右舷前部にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で、風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、日出は06時54分であった。
 また、サ号は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、韓国人船長Eほか12人が乗り組み、アクリロニトリル3,901トンを積載し、船首5.0メートル船尾6.0メートルの喫水をもって、同日06時55分水島港旭化成8号桟橋を発し、中華人民共和国ニンポウ港に向かった。
 桟橋を離れた後E船長は、出港支援作業に従事したあき丸に、航路内の警戒は業務に含まれていなかったものの、第8号灯浮標南方で警戒にあたるように告げ、三等航海士をテレグラフ操作に、甲板長を操舵にそれぞれあたらせて自ら操船の指揮をとり、船橋備付のVHF無線電話を16チャンネルとして三等航海士に聴守させ、あき丸から貸与された携帯式VHF無線電話を17チャンネルとして自ら同船との連絡に使用し、第8号灯浮標南方300メートルのところで航路に入る予定で港内を西行した。
 06時56分E船長は、第8号灯浮標の東方450メートルばかりのところに達したとき、上濃地島東方の航路を北上するプ号を初認し、そのころ前路の航路内に北上中の小型貨物船数隻と防波堤灯台東側の航路外に入航船2隻を認め、これらの動向が気になったので予定地点での航路入航を中止してしばらく航路外を南下してから航路に入ることとし、同時57分防波堤灯台から056度1.2海里の地点において、針路を187度に定め、機関を微速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で進行した。
 07時00分E船長は、防波堤灯台から066度1,930メートルの地点に達したとき、機関を半速力前進とし、間もなくあき丸からのVHF無線電話で「スターボードチェンジ」という声を聞き、右転するよう告げていると理解したものの、そのころ航路外の入航船が気になっていたのでそのまま南下し、同時01分半航路境界に達したあとも航路を斜航する針路のまま続航し、同時02分半プ号を左舷船首23度1,130メートルに見るようになったとき、あき丸からさらに「クリスタルサンブ、スローダウン」という声を聞いて何らかの危険が迫っているものと判断し、同船に無線電話で操船意図を連絡しないまま、機関を微速力前進に減じるとともに、プ号の右舷側を航過するつもりで左舵10度を令して左転を始め、同時03分防波堤灯台から080度1,740メートルの地点で、針路を161度に転じて航路の左側端に寄って南下する進路とし、航路の右側を北上するプ号と互いに右舷を対して無難に航過する態勢となって進行した。
 ところがE船長は、07時04分少し前プ号が右舷船首3度630メートルとなったとき、航路外の入航船が気にならなくなったので、プ号の前路を横切って航路の右側に寄ろうと思い、右舵10度を令してゆっくり回頭を始めたところ、同時04分プ号の前路に進出する態勢となり、間もなく同船が左転しているのを認め、衝突の危険を感じて右舵一杯、全速力後進を令したものの、サ号は、230度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、プ号は右舷船首部に破口と凹損を生じたが、のち修理され、サ号は船首部を圧壊した。

(原因)
 本件衝突は、岡山県水島港において、航路の左側端に寄って南下中のサ号が、右側に寄ろうとして右転し、無難に航過する態勢で航路の右側を北上中のプ号の前路に進出したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:46KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION