日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年神審第36号
件名

貨物船吉福善丸漁船冨士丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年5月11日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(阿部能正、黒田 均、西田克史)

理事官
野村昌志

受審人
A 職名:吉福善丸甲板員 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:冨士丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
吉福善丸・・・右舷前部外板に擦過傷
冨士丸・・・船首上部に亀裂を伴う凹傷

原因
吉福善丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守 (主因)
冨士丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協 力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、吉福善丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る冨士丸の進路を避けなかったことによって発生したが、冨士丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年2月18日11時45分
 徳島県橘浦

2 船舶の要目
船種船名 貨物船吉福善丸 漁船冨士丸
総トン数 374トン 4.87トン
全長 61.14メートル 15.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 77キロワット

3 事実の経過
 吉福善丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.9メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成11年2月18日11時25分徳島県橘港を発し、同県粟津港に向かった。
 ところで、船橋当直は、主として徳島県内の各港間を航行することから、時間帯を定めず、船長、一等航海士及びA受審人の順に、単独の3直輪番制を執っていた。
 11時35分A受審人は、舟磯灯標から210度(真方位、以下同じ。)1,780メートルの地点において、出航操船を終えた船長から当直者としての注意事項を引き継いで船橋当直に就き、針路を045度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.1ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。
 A受審人は、操舵室中央部の操舵輪の後方に立って見張りに当たっていたところ、11時42分舟磯灯標から107度530メートルの地点に達したとき、右舷船首21度1,450メートルのところに、西行する冨士丸を視認し得る状況で、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、左舷側近距離で操業している漁船に気を取られ、右舷側の見張りを十分に行わなかったので、冨士丸の存在に気付かず、速やかに同船の進路を避けることなく、続航した。
 その後、A受審人は、冨士丸が方位にほとんど変化がないまま更に接近したが、依然見張り不十分で、これに気付かないまま北上し、11時44分半青島沖合に向けて転針することに決め、針路を自動操舵の針路設定つまみで035度にしたところ、冨士丸が230メートルに迫っているのを初めて認め、衝突の危険を感じて左舵一杯を取るように同つまみを左に大きく回したのち、機関を停止し、汽笛を数回鳴らしたけれども、11時45分舟磯灯標から067度1,150メートルの地点において、吉善丸は、000度を向き、8.0ノットの速力で、その右舷側前部に、冨士丸の船首が直角に衝突した。
 当時、天候は雨で風はなく、視程は1.7海里であった。
 また、冨士丸は、底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日04時00分橘港を発し、同港東方沖合6海里付近の漁場に至って操業したのち、いか5キログラムを漁獲し、11時00分伊島灯台から020度3.3海里の地点を発進して帰途についた。
 発進直後、B受審人は、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.0ノットの速力で、雨が降っていたので両色灯を点灯したのち、操舵室中央部の操舵輪の後方に立ち手動操舵により進行した。
 B受審人は、操舵室前面中央部の旋回窓を作動させ、時折同窓を通して前方の見張りに当たっていたところ、11時42分舟磯灯標から076度1.0海里の地点に達したとき、左舷船首24度1,450メートルのところに、北上する吉福善丸を視認し得る状況で、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、他船が全く見当たらなかったことから、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、左舷側の見張りを十分に行わなかったので、吉福善丸の存在に気付かず、続航した。
 11時44分B受審人は、吉福善丸が方位にほとんど変化がないまま470メートルに接近したが、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき、機関を全速力後進にかけるなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行するうち、同時45分わずか前左舷方に汽笛の吹鳴を聞くと同時に同船を左舷船首至近に初めて認め、機関を全速力後進にかけたが及ばず、冨士丸は、原針路、7.0ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、吉福善丸は右舷前部外板に擦過傷を、冨士丸は船首上部に亀裂を伴う凹傷を生じたが、のち修理された。

(航法の適用)
 本件は、徳島県橘浦において、北上中の吉福善丸と西行中の冨士丸が衝突したものであるが、吉福善丸が衝突の30秒前に左転しているので、以下、航法の適用を検討する。
 事実の経過のとおり、吉福善丸は針路045度及び速力9.1ノット、また、冨士丸は針路270度及び速力8.0ノットで航行していたもので、衝突の3分前から吉福善丸が冨士丸を見る方位及び距離を作図上求めると以下のとおりとなる。
 11時42分 右舷船首21度 1,450メートル
 11時43分 右舷船首20.7度 970メートル
 11時44分 右舷船首20度  470メートル
 11時44分半 右舷船首19度  230メートル
 一方、冨士丸は衝突まで原針路のまま進行していることによって、両船の方位の変化は1分間に0.8度でほとんどなく、衝突のおそれがあったものと認める。
 また、吉福善丸が衝突の30秒前に左転しないで直進した場合、両船が最も接近する距離は11時44分55秒に吉福善丸の船首と冨士丸の左舷側とが約10メートルとなり、吉福善丸の船体の大きさ等からしてこの状況を無難に航過する態勢とは認められない。
 したがって、両船の運航模様から吉福善丸は冨士丸を右舷側に見ており、冨士丸は一定の針路、速力で進行し、両船の針路が交差して衝突のおそれがあり、更に、避航動作をとるに十分な時間と余地がある衝突の3分前の時機をとらえ、本件は、海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用して律するのが相当である。

(原因)
 本件衝突は、徳島県橘浦において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、吉福善丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る冨士丸の進路を避けなかったことによって発生したが、冨士丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、単独で船橋当直に就き、徳島県橘浦を北上する場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷側近距離で操業している漁船に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、冨士丸の存在とその接近に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して冨士丸との衝突を招き、同船の船首上部に亀裂を伴う凹傷を、自船の右舷前部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、操船に当たり、徳島県橘浦を西行する場合、他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方には航行の妨げとなる船舶はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、吉福善丸の存在とその接近に気付かず、警告信号を行わず、更に間近に接近したとき、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:43KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION