(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年10月6日13時50分
山形県酒田港
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第二十八庄内 |
被押台船海竜 |
総トン数 |
19トン |
1,033トン |
全長 |
13.30メートル |
46.80メートル |
幅 |
5.20メートル |
19.00メートル |
深さ |
1.90メートル |
3.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
1,176キロワット |
|
3 事実の経過
第二十八庄内(以下「庄内」という。)は、2基2軸の鋼製押船兼引船であるが、被押台船海竜の船尾部に設置された凹部材に船首部をかん合し、同台船と一体となった状態(以下「押船列」という。)で、山形県酒田港南部の埋立地における護岸用消波ブロックの据付工事に従事していたところ、平成11年10月6日13時25分その日2回目の作業を行うため、A受審人ほか6人が乗り組み、海竜に消波ブロック60個を積載し、付属作業船を横付けし、庄内が船首1.00メートル、船尾2.50メートル、海竜が船首1.60メートル、船尾2.20メートルの喫水をもって、酒田灯台から030度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの船だまり内の岸壁を発し、作業現場に向かった。
なお、海竜は、甲板上前部に起重機のほか、船首及び船尾にサイドスラスター(以下「スラスター」という。)を備え、押船列の全長は57.6メートルであった。
ところで、埋立地は酒田灯台から214度1,270メートルの地点を基点とする112度及び202度の方位線の内側となっていて、作業を行う地点は酒田灯台から198度1,250メートルの埋立地外縁であり、そのため押船列の船首をこの位置に近付け、海竜の船首両舷からの係留索と船尾両舷からの錨索により係留することとしていた。
A受審人は、操船に当たり、酒田港波除堤灯台を通過後南下し、13時38分酒田灯台から233度1,050メートルの地点に達したとき、機関をそれまでの全速力前進から半速力前進に減じるとともに左転し、係留準備を指示し、同時40分同灯台から219度1,080メートルの地点で、針路を埋立地から北方に延びる離岸堤に向く112度とし、3.0ノットの対地速力で進行した。
13時42分A受審人は、120度に向けて離岸堤に近付き、同時44分離岸堤まで約70メートルとなったとき、右舷船尾の錨を投じるとともに右舵一杯とし、左舷機を前進微速、右舷機を後進半速とし、船首スラスターを右方へ、船尾スラスターを左方へかけ、右回頭を始め、そして右舷船尾の錨索を延ばさせ、わずかな前進行きあしをもって離岸堤に平行となるように接近し、同時47分離岸堤と約10メートル隔ててほぼ平行になったとき、左舷船尾錨を投入し、両舷機を前進微速にかけ、船尾スラスターを右方にかけ、間もなく両舷機及び船首尾の両スラスターを止め、惰力で前進した。
ところが、A受審人は、そのころ右舷側からの風の影響により離岸堤に接近し過ぎる状況であったが、乗組員2人が移乗した作業船に船首両舷の係留索を渡そうとする作業に気をとられ、風圧に対する配慮を十分に行わなかったので、右舷船尾錨索を延出させたまま、延出の加減を担当乗組員に指示しないでいるうち、13時50分酒田灯台から196度1,160メートルの地点において、押船列は、240度を向き、前進行きあしわずかの状態で、庄内及び海竜の左舷船尾がそれぞれ離岸堤に衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
離岸堤衝突の結果、庄内は左舷船尾船底外板に凹損を、推進器に曲損を生じ、のち修理され、海竜は左舷船尾角部に擦過傷を生じた。
(原因)
本件離岸堤衝突は、山形県酒田港において、埋立地外縁に消波ブロックを据え付けるため、船首を係留索により、船尾を錨索により係留する際、風圧に対する配慮が不十分で、風上側の右舷船尾錨索の延出が続けられ、押船列船尾部が風下側の離岸堤に接近し過ぎたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、酒田港南部の埋立地外縁に消波ブロックを据え付けるため、船首を係留索により、船尾を錨索により係留する場合、風下側の離岸堤に接近し過ぎないよう、風圧に十分配慮すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、作業船に係留索を渡す作業に気をとられ、風圧に十分配慮しなかった職務上の過失により、風上側の右舷船尾錨索延出の加減を担当乗組員に指示しないでいるうち、押船列船尾部が離岸堤に衝突する事態を招き、庄内の船尾部船底外板に凹損を、推進器に曲損を、海竜の左舷船尾角部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。