(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月23日10時00分
沖縄県那覇港
2 船舶の要目
船種船名 |
引船ガジュマル |
起重機台船ガラマン |
総トン数 |
19トン |
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登録長 |
11.48メートル |
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長さ |
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56.60メートル |
幅 |
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22.00メートル |
深さ |
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3.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,176キロワット |
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船種船名 |
漁船原丸 |
総トン数 |
2.4トン |
登録長 |
8.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
ガジュマルは、2基2軸固定ピッチプロペラを装備した鋼製の引船で、専らガラマンの曳航作業に従事し、A受審人ほか1人が乗り組み、船首0.7メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、曳航索約180メートルを延出し、捨石800トンを積載して船首尾とも2.5メートルの等喫水となったガラマンを船尾に引き、引船列とし、平成11年2月23日06時00分沖縄県糸満漁港を発し、同県那覇港三重城小船溜築造工事現場に向かった。
一方、ガラマンは、作業責任者D及び一級小型船舶操縦士の海技免状を受有している作業員Cほか作業員1人が乗り、ガジュマルに引かれて同工事現場に向かった。
ところで、三重城小船溜築造工事現場は、那覇港新港第1防波堤南灯台(以下「防波堤灯台」という。)から128度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点から035度方向に、長さ345メートル、幅145メートルの小船溜を築造中で、その入口から130メートル内側の同小船溜の西岸から長さ約50メートルの防汚フェンスが125度方向に張られていた。
A受審人は、約1年3箇月前にガジュマルの船長として初めて乗船し、始めの数航海ではガラマンの投錨地点を指示したこともあったが、ガラマンのD作業責任者がその指示に従わず、同作業責任者自らの判断でガラマンの投錨地点及び錨ワイヤの伸出量の指示を行っていたので、その後ガラマンに投錨地点等の指示をしないまま、運航を重ねてきた。
一方、D作業責任者は、平成7年にガラマンの作業員として乗り、平成10年2月同船の作業責任者となり、投錨地点、投錨時期及び錨ワイヤの伸出量を自らの判断で指示して目的地に停止させていた。
また、A受審人及びD作業責任者は、引船列を構成して前記小船溜に数回入航したことがあり、同受審人は、港外で曳航索を20メートルに短縮し、防汚フェンス付近まで機関を極微速力前進とし、その後停止と極微速力前進を繰り返して曳航索が張らないようガラマンの前路を先航し、D作業責任者は、自らの判断でガラマンの錨の投入及び錨ワイヤのブレーキ操作を指示して目的地に停止させる操船法を取っていた。
A受審人は、発航後機関を全速力前進に掛け、4.0ノットの対地速力で、手動操舵により北上し、防波堤灯台の北北西方約1,100メートルの地点で停止し、南西の風浪が大きかったので曳航索を35メートルに短縮して那覇港防波堤内に進み、同灯台の東方400メートルの地点で再度停止し、曳航索を20メートルに短縮してガラマンの左舷前部に取り直した。そして、このとき、前回の曳航索短縮作業時にガラマンの右舷後部の錨ワイヤが切れて右舷後部の錨を無くしたことを知っていたものの、左舷前部及び左舷後部にそれぞれ錨を装備していることを知っており、糸満漁港を出港したときD作業責任者と前回と同じ要領で入航することを打ち合わせしていたので、改めて打ち合わせの必要も感じないまま、三重城小船溜築造工事現場に向かうこととした。
こうして、A受審人は、再度発進し、09時52分那覇港第5号灯浮標の南方70メートルの地点で、三重城小船溜築造工事現場の入口に向けて左転を開始し、同時53分には同入口に向首して3.0ノットの行きあしで進行した。
A受審人は、09時55分半防波堤灯台から122度1,150メートルの地点で、針路を043度に定め、前進行きあしを2.0ノットとし、曳航索が張らないよう機関を使用して続航した。
一方、D作業責任者は、ガラマンの左舷前部に位置してC作業員を左舷後部に配置し、09時57分少し前ガラマンの後部が防汚フェンスを通過したころ、C作業員に向かって右手を上から下に振って投錨の合図を送ったが、同作業員はその合図を見落とした。
C作業員は、09時58分自身の判断で左舷後部の錨を投じてブレーキを掛けた。そのころ、D作業責任者はガラマンの行きあしがいつもより強いと思ったものの、そのうちに停止するだろうと思い、行きあしを弱めるために左舷前部の錨を投入しなかった。
A受審人は、いつものようにガラマンが停止するものと思い、曳航索が張らないように機関を操作し、同船の前路を先航する態勢で進行中、09時58分少し過ぎガラマンの行きあしがいつもより強いと感じたものの、水域が狭くなんの援助もできないまま、ガラマンの左舷前方に位置して同船との衝突を避けた。
ガラマンは、減速するも、行きあしを止めることができないまま、岸壁に係留中の原丸に向けて接近し、09時59分D作業責任者が左舷前部の錨を投入したが、10時00分防波堤灯台から111度1,220メートルの地点において、船首を003度に向け、わずかな行きあしをもって、その右舷前部が原丸の左舷中央部に後方から58度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力5の南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、原丸は、Fが船長として単独で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水で、同日07時より三重城小船溜築造工事現場の警戒船として業務を開始した。
F船長は、09時30分衝突地点付近の岸壁に船首を305度に向けて右舷着けし、機関を中立として岸壁上のタンクローリーから補油作業を開始し、10時00分少し前補油を終えて燃料油取入口の栓を閉めていたとき、左舷至近に迫ったガラマンを初めて認めた。
原丸は、F船長が急ぎ前後の係留索を外し、機関を後進としたが効なく、前記のとおり衝突した。
衝突の結果、ガラマンに損傷はなかったが、原丸は左舷中央部に破口を生じ、のち廃船となった。
(原因)
本件衝突は、那覇港三重城小船溜築造工事現場において、待機のため錨泊する際、ガジュマル引船列の投錨措置が不適切で、被引船ガラマンの左舷後部の錨の投錨時期が遅れたうえ、左舷前部の錨の投錨時期を失したことにより、行きあしを止めることができなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人の所為は本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。