(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月19日08時57分
熊本港西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海宝丸 |
漁船みさと丸 |
総トン数 |
4.97トン |
4.8トン |
登録長 |
12.29メートル |
11.23メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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253キロワット |
漁船法馬力数 |
70 |
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3 事実の経過
海宝丸は、FRP製漁船で、A受審人が妻と2人で乗り組み、かにかし網漁の目的で、船首0.10メートル船尾0.75メートルの喫水をもって、平成11年7月19日07時30分熊本県玉名漁港を発し、熊本港西方沖合の漁場に向かった。
かにかし網漁は底刺網漁の一種で、長さ900メートル、幅3.5メートルの刺網の底部両端にそれぞれ錨を繋止して海底に沈め、かにを捕獲するもので、投揚網中は操縦性能を制限する漁ろうに相当するものであった。また、標識として、水面上の高さ3メートルの円柱浮標が、網の両端にそれぞれ取り付けられ、その頂部には縦1メートル、横30センチメートルの旗が掲げられていた。
A受審人は、07時55分漁船が散在する漁場に至り、機関を中立回転としてクラッチを切り、操業準備のうえ、08時00分百貫港灯台から247度(真方位、以下同じ。)6.8海里の地点で、漁ろう中の形象物を掲げないまま、前日投下しておいた網の揚網を開始し、左舷前部のネットホーラーを操作して網を巻き込み、同網の入っている000度の方向へ0.2ノットの対地速力で進行した。
08時56分A受審人は、百貫港灯台から248度6.7海里の地点付近に達し、網を300メートルほど揚げて船首が010度を向いていたとき、右舷船首80度500メートルにみさと丸を初認し、間もなく同船が、自船に向首して接近してくるのを認めた。
A受審人は、漁ろう中の自船をみさと丸が避けるものと思い、引き続き動静監視を行わずにいたところ、その後同船が避航の様子を見せずに更に接近したが、注意喚起信号を行わないまま揚網を続け、08時57分わずか前至近に迫った同船に気付いてとっさに海中に飛び込んだ直後、08時57分百貫港灯台から248度6.7海里の地点において、みさと丸の船首部が、原針路、原速力のまま、海宝丸の右舷中央部に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東北東風が吹き、視界は良好であった。
また、みさと丸は、FRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、すずき一本釣漁の目的で、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日07時00分熊本県横島漁港を発し、同港沖合の漁場に向かった。
B受審人は、07時05分漁場に至って操業ののち、熊本港西方沖合にある魚礁付近に移動することとし、08時30分同漁場を発進し、機関を全速力前進にかけ、16.2ノットの対地速力で進行し、同時44分少し前百貫港灯台から235度4.4海里の地点で、針路を270度に定めて手動操舵により、周囲に漁船が散在するのを視野に入れながら続航した。
08時56分B受審人は、百貫港灯台から247度6.4海里の地点に達したとき、正船首500メートルに海宝丸が存在し、その後同船に向首したまま更に接近し、乗員2人が揚網作業に従事しているのを視認でき、同船が漁ろうに従事中であることを認めることができる状況となったが、右舷方に視認した漁ろう用ブイの方に気を取られていてこの状況に気付かず、速やかに左転するなどして同船の進路を避けることなく、同針路、同速力のまま進行し、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海宝丸は右舷中央部に破口及び亀裂等を生じ、みさと丸は船底外板に擦過傷を生じたほか、推進器を曲損し、A受審人が左膝打撲傷を負い、また、同人の妻が頸椎を捻挫した。
(原因)
本件衝突は、漁船が散在する熊本港西方沖合において、みさと丸が、漁場を移動するため航行中、見張り不十分で、前路で漁ろうに従事している海宝丸の進路を避けなかったことによって発生したが、海宝丸が、動静監視不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、漁船が散在する熊本港西方沖合において、漁場を移動するため航行する場合、前路で漁ろう中の海宝丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷方に視認したブイに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海宝丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、海宝丸の右舷中央部外板に破口、亀裂等を、みさと丸の船底外板に擦過傷及び推進器に曲損を生じさせ、A受審人に左膝打撲傷及び同人の妻に頸椎捻挫を負わせるに至った。
A受審人は、漁船が散在する熊本港西方沖合において、漁ろうに従事中、自船に向首接近するみさと丸を認めた場合、同船が避航動作をとるのを確かめるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に接近すれば漁ろう中の自船を避けるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、注意喚起信号を行わないまま揚網を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。