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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成13年門審第2号
件名

貨物船第三千代丸漁船廣栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年4月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(米原健一、佐和 明、相田尚武)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第三千代丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:廣栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
千代丸・・・右舷中央部外板に凹損
廣栄丸・・・船首部及び球状船首部を圧壊

原因
千代丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
廣栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三千代丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る廣栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、廣栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月20日03時10分
 大分県臼石鼻北東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船第三千代丸 漁船廣栄丸
総トン数 165トン 4.97トン
全長 49.990メートル  
登録長   10.47メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 404キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 第三千代丸(以下「千代丸」という。)は、専ら鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、鉄板578トンを載せ、船首2.70メートル船尾3.80メートルの喫水をもって、平成12年5月20日02時00分大分県大分港を発し、香川県坂出港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を6時間2交替とし、出航操船に引き続いて単独で船橋当直に当たり、02時10分大分港乙津東防波堤灯台から295度(真方位、以下同じ。)190メートルの地点に達したとき、針路を028度に定め、機関を全速力前進にかけて9.6ノットの対地速力とし、同時15分自動操舵に切り替え、航行中の動力船の灯火を点灯して進行した。
 定針後、A受審人は、舵輪後方の背もたれ付きいすに腰を掛けて見張りに当たり、02時57分半臼石鼻灯台から122度1.8海里の地点に差し掛かったとき、右舷前方に漁ろうに従事している船舶の灯火を認め、その船首を替わすため針路を020度に転じ、その後操舵スタンドに足を掛け、いすの背もたれにもたれた姿勢で、入港時刻など坂出港における予定を考えながら続航した。
 03時06分半A受審人は、臼石鼻灯台から079度2.1海里の地点に至ったとき、右舷船首16度1.0海里のところに西行する廣栄丸の緑、白、紅3灯及び作業灯5個を視認でき、同船がトロールにより漁ろうに従事している船舶の灯火を点灯していたものの、その速力から曳網中でなく、操業を中止して自船の前路を左方に横切る態勢で航行していることが分かり、その後その方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近していることを認め得る状況であったが、依然として坂出港における予定を考え、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく進行した。
 A受審人は、03時09分半原針路に戻そうと体を起こして右手を舵輪に伸ばしたとき、ふと右舷前方を見たところ、近くに迫った廣栄丸の緑、白、紅3灯及び作業灯5個を初めて認め、立ち上がって操舵を手動に切り替え、廣栄丸の船首を替わすため、左舵一杯をとるとともに、前部マスト及びレーダーマスト上に取り付けた3キロワットの作業灯、並びに船橋左右両ウイング前面の500ワット作業灯をそれぞれ点灯し、さらに汽笛を連続して吹鳴したが効なく、03時10分臼石鼻灯台から067度2.4海里の地点において、千代丸は、原速力のまま、船首が324度を向いたとき、その右舷中央部に、廣栄丸の船首が直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
 また、廣栄丸は、船体中央部からやや前方に操舵室を設けた、小型機船底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人及び同受審人の妻が甲板員として乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月19日17時00分大分県大神漁港を発し、18時30分ころ同県臼石鼻北東方沖合9海里ばかりの漁場に至り、操業を開始した。
 B受審人は、日没時、操舵室上のマストにトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑色全周灯及び白色全周灯各1個を上下に連携し、同室前部の左右両端に舷灯を掲げたうえ、同室後部のひさし後端に60ワットの傘なし作業灯1個を、同ひさしから船尾付近まで延びる甲板上高さ約2メートルの鉄パイプに船首側から順に、100ワットの傘付き作業灯3個及び最後部に船尾灯の代わりとするつもりで100ワットの傘なし作業灯1個をそれぞれ点灯し、船尾灯を点灯しないまま、操業を続けた。
 翌20日02時20分B受審人は、えびなど約55キログラムを獲て操業を終え、臼石鼻灯台から057度9.8海里の地点を発進するとともに、針路を234度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.8ノットの対地速力で、漁ろうに従事していることを示す灯火を消すことなく、点灯していたすべての灯火を引き続き同じ状態に保って帰途に就いた。
 発進後B受審人は、操舵室左舷後部の遠隔操縦装置のところで立って見張りに当たり、間もなく船体後部の甲板上に移動し、船首方を向いていすに腰を掛け、甲板員とともに漁獲物の選別作業を始め、時折、立ち上がり、甲板上を左右に移動するなどして周囲の見張りに当たっていたところ、僚船が自船の南方で操業していたことや周囲に航行中の他船がいなかったことから、やがて漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わないまま続航した。
 03時06分半B受審人は、臼石鼻灯台から065度2.9海里の地点に達したとき、左舷船首18度1.0海里のところに千代丸の白、白、緑3灯を視認でき、その後その方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近していることを認め得る状況であったが、依然漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りが不十分で、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき機関を停止するなど、衝突を避けるための協力動作もとらないまま進行中、同時10分わずか前汽笛を聞いて顔を上げ、船首方を見たところ、至近に千代丸の黒い船体を認め、急いで遠隔操縦装置のところに戻り、機関を全速力後進にかけたが及ばず、廣栄丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、千代丸は右舷中央部外板に凹損を生じ、廣栄丸は船首部及び球状船首部を圧壊したが、廣栄丸はのち修理され、また、廣栄丸の甲板員が顔面外傷を負った。

(原因)
 本件衝突は、夜間、臼石鼻北東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、千代丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る廣栄丸の進路を避けなかったことよって発生したが、廣栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、臼石鼻北東方沖合を北上する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、入港時刻など坂出港での予定を考え、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する廣栄丸に気付かず、その進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、千代丸の右舷中央部外板に凹損を生じさせ、廣栄丸の船首部及び球状船首部を圧壊させ、廣栄丸の甲板員に顔面外傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、臼石鼻北東方沖合において、大神漁港に向けて帰航する場合、接近する他船を見落とすことがないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、漁獲物の選別作業に専念し、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する千代丸に気付かず、警告信号を行うことも、更に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:51KB)





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