(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年12月5日03時00分
山口県六連島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船第二十喜宝丸 |
クレーン台船第十八喜宝号 |
総トン数 |
19トン |
|
載荷重量 |
|
2,500トン |
全長 |
13.48メートル |
63.00メートル |
幅 |
|
24.00メートル |
深さ |
|
4.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
|
出力 |
1,765キロワット |
|
船種船名 |
貨物船ルー シー |
総トン数 |
185トン |
全長 |
31.29メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
200キロワット |
3 事実の経過
第二十喜宝丸(以下「喜宝丸」という。)は、航行区域を沿海区域とし、船体ほぼ中央部に操舵室を設けた鋼製の双胴型押船で、A受審人ほか6人が乗り組み、総重量約300トンの魚礁96個を積載し、船首尾とも2.0メートルの喫水となったクレーン台船第十八喜宝号(以下「喜宝号」という。)の船尾凹部に船首部船体を嵌合(かんごう)させて押船列を形成し(以下「喜宝丸押船列」という。)、乗組員に2日ばかりの休養を取らせる目的で、船首尾とも2.0メートルの喫水をもって、平成10年12月4日18時30分山口県奈古漁港を発し、福岡県苅田港に向かった。
ところで、喜宝丸は、喜宝号を押航する際、喜宝号の船首部に設置したクレーンのブームを、左舷側後部居住区の上部に設けたブームレストに格納すると左舷方に死角を生じ、見張りが著しく妨げられることから、しけのとき以外は上甲板から30度ばかり起こした状態で固定して運航にあたり、それでも船首方に死角を生じるので、右舷後部居住区の露天甲板に架台を設けたうえ、喜宝号から喜宝丸の操舵室に向けて幅約80センチメートルのタラップを渡し、必要に応じて操舵室を出て同タラップのところに行き、前路の見張りを行うようにしていた。
翌5日02時25分半A受審人は、来留見瀬灯標から270度(真方位、以下同じ。)4.1海里の地点に達したとき、針路を160度に定め、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの対地速力とし、自動操舵により進行した。
02時53分A受審人は、六連島灯台から017度1,300メートルの地点に達したとき、1.5海里レンジとしたレーダーを一瞥(いちべつ)したところ、右舷船首方1,600メートルばかりのところに他船の映像を認め、その方向に視線を向けると明るい灯火を多数点灯した錨泊船を視認したので、更にレーダーで周囲の状況を確認せず、自船の進行方向にいる他船は同船だけと思い込み、そのころ停泊灯1個を点灯して錨泊中のルー シーが右舷船首15度1,450メートルのところに存在したものの、その存在に気付かず、その後、レーダーで周囲の状況確認を行わないまま続航した。
02時56分半A受審人は、六連島灯台から050度820メートルの地点に達したとき、針路を190度に転じたところ、正船首760メートルのところに、ルー シーが掲げる白灯1個を視認することができ、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、レーダーによる見張りを行うとか、タラップのところに出て前方の見張りを行うなど、依然として前路の死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく進行した。
喜宝丸押船列は、A受審人が船首部の死角の中に入ったルー シーに気付かないまま続航中、03時00分六連島灯台から113度550メートルの地点において、原針路、原速力のまま、喜宝号の右舷船首部がルー
シーの右舷船首部に前方から35度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の末期であった。
また、ルー シーは、航行区域を遠洋区域とする鮮魚運搬船で、船長D及び司厨員Fほか7人が乗り組み、あさり約47トンを積載し、船首2.10メートル船尾2.35メートルの喫水をもって、同月2日08時00分朝鮮民主主義人民共和国南浦港を発し、関門港下関区に向かった。
翌々4日22時33分D船長は、関門港六連島区西側に設けた検疫錨地内の前示衝突地点に至り、検疫待ちのため右舷錨を投入して錨鎖を約45メートル繰り出したのち、船橋後部のマストに白色全周灯1個を掲げて錨泊を開始し、F司厨員を停泊当直に就かせて自室で休息した。
越えて5日02時56分半F司厨員は、ルー シーの船首が335度に向いていたとき、右舷船首35度760メートルのところに、喜宝丸押船列の白、白、紅、緑4灯を視認でき、その後、その方位に変化のないまま、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、この状況となる前に同人が急に便意を催し、船橋を無人として用を足していたので、このことに気付かなかった。
ルー シーは、F司厨員が喜宝丸押船列の接近状況をD船長に伝えることができず、チェン船長が注意喚起信号を行うことができないまま錨泊中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、喜宝号は、船首部外板に破口を生じ、ルー シーは、船首部外板及び甲板に座屈損傷を生じたが、のち、いずれも修理された。また、ルー
シーの通信長が自室のベッドで休息中、衝突の衝撃で落下した無線機器の直撃を受け、頭部挫創を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、関門港六連島東方沖合において、喜宝丸押船列が、見張り不十分で、錨泊中のルー シーを避けなかったことによって発生したが、ルー
シーが、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、関門港六連島東方沖合において、台船に設置したクレーンのブームで前路の見張りを妨げられる状況下、単独の船橋当直にあたって航行する場合、前路で錨泊中のルー
シーを見落とすことのないよう、レーダーを使用するなどして死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、明るい灯火を多数点灯した錨泊船を視認し、自船の進行方向にいる他船は同船だけと思い込み、レーダーを使用するなど死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ルー
シーの存在に気付かないまま進行して同船との衝突を招き、第十八喜宝号の船首部外板に破口などを生じさせ、ルー シーの船首部外板に座屈などを生じさせるとともに、同船の通信長に頭部挫創を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。