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平成12年広審第98号
件名

漁船海生丸漁船幸鶴丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年4月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(横須賀勇一、竹内伸二、工藤民雄)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:海生丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:幸鶴丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
海生丸・・・船首船底部に擦過傷
幸鶴丸・・・左舷外板に亀裂、のち廃船

原因
海生丸・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
幸鶴丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、海生丸が、見張り不十分で、停留して揚網中の幸鶴丸を避けなかったことによって発生したが、幸鶴丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年1月16日04時45分
 日本海 鳥取県北方海域

2 船舶の要目
船種船名 漁船海生丸 漁船幸鶴丸
総トン数 4.99トン 4.68トン
登録長 11.51メートル 11.09メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50 50

3 事実の経過
 海生丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が単独で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成12年1月15日13時00分鳥取県鳥取港を発し、同県長尾鼻沖合の漁場に向かった。
 同13時25分A受審人は、目的の漁場に着いて操業を開始し、翌16日04時30分鳥取港灯台から290度(真方位、以下同じ。)5.9海里の地点で、揚網を終え、単独で船橋当直に就き、針路を110度に定めて自動操舵とし、漁ろうに従事していることを示す緑、白の全周灯を連掲したまま、舷灯1対、船尾灯を表示し、機関を前進にかけて、11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で帰途に就いた。
 A受審人は、発進時操舵室の屋根越しに前方を一瞥しただけで、その後操舵室後方右舷側の甲板上で漁獲物の選別作業にあたり、04時42分鳥取港灯台から290度3.6海里の地点に達したとき、船首方向1,000メートルのところに漁ろうに従事することを示す緑、白2灯に加え作業灯を表示して揚網中の幸鶴丸を視認することができる状況にあり、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行うことなく、これに気付かないまま進行した。
 こうして、A受審人は、停留して揚網中の幸鶴丸を避けることなく同じ針路、速力で続航中、ふと前方を振り向き、幸鶴丸の作業灯を認めたものの、どうすることもできず、04時45分鳥取港灯台から290度3.0海里の地点において、海生丸は原針路、原速力のまま、その船首が幸鶴丸の左舷中央部に直角に衝突し、同船に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力1の南風が吹き、視程は良好であった。
 また、幸鶴丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、操業の目的で、同月15日13時00分鳥取県鳥取港を発し、長尾鼻沖合の漁場に向かった。
 同13時30分B受審人は、目的の漁場に着いて操業を開始し、翌16日04時20分衝突地点付近で3回目の曳網を終え、船首を020度に向け、機関を回転数毎分700にかけたままクラッチを中立として停留し、漁ろう中であることを示す緑、白の全周灯ほか後部マストの頂部に紅色全周灯1個、デリックなどに作業灯5個を点けて甲板上を照らし、揚網作業を開始した。
 B受審人は、ネットローラーを使用して長さ約250メートルの曳綱と長さ約30メートルの股綱を巻き取った後、袋網の網口を開いていた桁を外して甲板上に揚収し、04時30分船尾甲板で船尾方向を向いて袋網の網目のゴミを除きながら袋網を手繰り始め、同時42分左舷正横1,000メートルのところに海生丸の舷灯1対、緑、白、4灯を視認することができる状況となり、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近したが、自船が灯火を点灯して揚網していたから、接近する他船の方で避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船に気付かず、同船が避航の気配が認められないまま間近に接近しても警告信号を行わず、袋網を手繰りながら揚網作業中、ふと機関音の接近に気付いて左舷を振り向き、海生丸の船首部を至近に認めたものの、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海生丸は船首船底部に擦過傷を生じたが、のち修理され、幸鶴丸は左舷外板に亀裂及び操舵室の圧壊をそれぞれ生じ、のち廃船処分された。

(原因)
 本件衝突は、夜間、鳥取県北方海域において、海生丸が、見張り不十分で、停留して揚網中の幸鶴丸を避けなかったことによって発生したが、幸鶴丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鳥取県北方海域において、単独で船橋当直に就き、操業を終え鳥取港に帰港する場合、停留して揚網中の幸鶴丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、魚の選別作業に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、停留して揚網中の幸鶴丸に気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を招き、海生丸の船首船底部に擦過傷を、幸鶴丸の左舷外板に亀裂及び操舵室の圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、鳥取県北方海域において、停留して揚網作業に従事する場合、接近する海生丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船が灯火を点灯して揚網していたから、接近する他船の方で避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する海生丸に気付かず、警告信号を行わないまま作業を続行して、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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