(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月2日22時54分
広島県福山港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート第二七福丸 |
全長 |
7.07メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
52キロワット |
3 事実の経過
第二七福丸(以下「七福丸」という。)は、レーダーを装備しないFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人3人を乗せ、魚釣りの目的で、船首尾共0.2メートルの喫水をもって、平成12年4月2日16時30分福山港大門町船だまりを発し、同港沖合に至って釣りを行ったのち、22時30分ごろ同船だまりの南南東方約6海里の三郎ツガイ付近で帰途に就くことにした。
ところで、前示の船だまりには、日本鋼管福山製鉄所原料岸壁とその東側対岸の笠岡市港頭地区に挟まれた北向きに長い水域(以下「水域」という。)が接続していて、同港頭地区の南西端から埋立工事中の区域を囲む護岸が、南に約400メートル延び、日本鋼管福山港導灯(前灯)(以下「福山導灯」という。)から163度(真方位、以下同じ。)2,780メートルの地点で、ほぼ直角に屈曲してさらに東方に延びており、護岸の南西角にあたる同地点付近が水域入口の東岸部にあたっていた。また、約1キロメートルの可航幅がある水域入口付近は、護岸南西角から246度680メートル及び313度450メートルのところに、福山港第12号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「福山港」を省略する。)、第14号灯浮標がそれぞれ存在し、西岸には製鉄所施設の照明など多数の灯火があったが、東岸には、岡山県により標識灯として護岸南西角に紅色点滅灯1個、及び同地点沖の周囲150メートル付近にやぐらなどの障害物を表示する黄色点滅灯4個が設置されていたものの他に灯火はなく、夜間入航に際しては、これら標識灯が背後の陸岸の灯火に紛れることなどあり、目視に頼る船舶は、よほど習熟していないと護岸の識別がしにくい海域であった。
22時38分A受審人は、釣り場を発進し、福山導灯から159度5.5海里の地点で、製鉄所構内に建つ高さ約206メートルの煙突の灯火を船首目標として針路を333度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で、護岸から十分に離れることとなる水域入口の第12号灯浮標と第14号灯浮標間に向けて進行した。
A受審人は、これまで夜間に帰航することは年に数回ほどで、護岸及びその付近の障害物の存在について知っていたものの、各標識灯についての知識は不確かであり、第12号、第14号各灯浮標間に達するまで定めた針路で続航することが必要とされる状況であったが、22時49分福山導灯から164度2.8海里の、同灯浮標間まで約1.3海里になる地点に達したとき、そのまま針路を保持するなど針路の選定を適切に行うことなく、出航時に護岸に接航したこともあってか同様にして航程を短縮したい気持ちが働き、護岸南方沖に停泊中の船舶を目安にして350度に転針したところ、護岸に向首するようになり、これに気付かず進行した。
22時53分A受審人は、左舷前方に障害物を表示する黄色点滅灯を初認したが、護岸に向いたまま接近していることに気付かず、依然、同じ針路のまま続航中、七福丸は、22時54分福山導灯から159度2,850メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その船首が、護岸南面に80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
衝突の結果、七福丸は船首部を圧壊し、A受審人が顔面挫創、頚椎捻挫などを、同乗者2人が約2週間の入院加療を要する頭蓋骨骨折、腹部打撲などをそれぞれ負った。
(原因)
本件護岸衝突は、夜間、福山港において、識別しにくい護岸のある水域に入航する際、針路の選定が不適切で、護岸に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福山港に帰航中、識別しにくい護岸のある水域に入航する場合、船首目標となる煙突や灯浮標の灯火を利用するなどして護岸を十分に離す針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、航程の短縮を図ろうとして、護岸を十分に離す針路を選定しなかった職務上の過失により、護岸との衝突を招き、七福丸の船首部を圧壊し、自身及び同乗者2人がそれぞれ顔面、頭部などを負傷するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。