(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年10月31日11時40分
愛媛県今治港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートみゆき |
プレジャーボート沖楽丸 |
全長 |
8.00メートル |
7.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
30キロワット |
44キロワット |
3 事実の経過
みゆきは、中央部に高さ0.6メートルのエンジンカバーを備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成11年10月31日06時15分愛媛県今治港第3区の交通船桟橋を発し、同港波止浜地区及び小島の周辺などで魚釣りを行ったのち、11時36分同桟橋の北方約400メートルに設置された係船浮標付近を発進し、同桟橋に向かった。
ところで、前示の交通船桟橋は、大糸山三角点から237度(真方位、以下同じ。)750メートルのところに位置する、南北15メートル東西10メートル、海面上高さ約1メートルの浮桟橋(以下「桟橋」という。)で、陸岸から東南東方に延びる約20メートルの通路で結ばれ、波止浜地区と周辺諸島を往来する交通船などが利用していた。また、同桟橋東方と北方には造船所があり、南方の陸岸には釣船など多数の小型船が係留されていた。
11時37分A受審人は、桟橋の東側に自船を南南西に向首して右舷付けしたが、このとき桟橋北側に左舷係留中の沖楽丸を認め、その後機関をアイドリング回転にかけたままクラッチを中立として船首に赴き、長さ約4メートルのフック付き竿で船体を桟橋に引き付け、その間に友人2人を下船させた。
A受審人は、友人が下船する間に船尾が風潮によって桟橋から離れ、船体が西北西に向首して桟橋とほぼ直角となったので、そのまま少し後退して船首を左方に振ってから係留場所の貯木場に向かうこととし、11時40分少し前竿で桟橋を押して離桟を開始し、そのころ北東方25メートルばかりのところに離桟した沖楽丸が船首を南方に向けてゆっくり後進していたが、離桟作業に気をとられてこのことに気付かなかった。
11時39分50秒船首で竿を操作していたA受審人は、西北西方に向首したまま桟橋から少し離れ、わずかな惰力で東南東方に後進を始めたとき、それまで後進していた沖楽丸が南方に向首して前進を始め、同船と衝突のおそれが生じたが、離桟作業に専念していて周囲の見張りを十分行わないまま、このことに気付かず、直ちに竿を使用して停止するなど衝突を避けるための措置をとらないで離桟作業を続けた。
A受審人は、約2.0ノットの後進惰力がついたのでエンジンカバー後方で船尾を向いて甲板上に座り、折から桟橋南側の陸岸に船首係留中の小型船が船尾から沖に延ばしていたアンカーロープに留意し、風潮によって南方にわずかに流され惰力を減じながら後進を続け、11時40分わずか前ほぼ280度に向首して船首が桟橋南東端から9メートルばかり離れたとき、ほぼ行きあしがなくなったのでもう少し後退し小型船のアンカーロープが十分替わってから貯木場入口の水門に向けようと思い、クラッチを後進に入れて周囲を見回したところ、右舷正横至近に自船に向かって接近する沖楽丸の船首を認めたが、何をすることもできないまま、11時40分大糸山三角点から236度750メートルの地点において、みゆきが280度を向首してほぼ停止していたとき、沖楽丸の船首が、みゆきの右舷側後部に直角に衝突して乗り揚げた。
当時、天候は曇で弱い北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、沖楽丸は、中央少し後方に高さ約1メートルのステアリングボックスを備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、同人の従兄弟2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日07時10分桟橋を発し、大島東岸のボーゼ沖及び中渡島周辺などで魚釣りを行ったのち、11時25分ごろ馬島のウズ鼻南方を発進して帰途についた。
11時30分B受審人は、他の船舶が係留されていない桟橋の北側に左舷側を付け、係留ロープを船首尾から1本ずつ桟橋上のビットにとって係留し、その後従兄弟を下ろしたあとしばらく彼等と雑談し、間もなくみゆきが桟橋の東側に付いたが、近くの造船所から聞こえる騒音で同船のエンジン音が聞こえず、また船体が桟橋より低かったので、同船の存在に気付かなかった。
11時39分半B受審人は、自船の係留場所である桟橋南南東方約300メートルの岸壁に向かうこととし、ステアリングボックス後方に立ち、従兄弟に係留ロープを外してもらったあと、桟橋を足で蹴って船尾を離し、折から桟橋北方の造船所岸壁に係留中のバージまで15メートルほどしかなかったので、後方の同バージに留意し、右手でスロットルレバーを操作して機関を後進にかけるとともに、左手でステアリングハンドルを右に回して船首を左方に振りながらゆっくり後退した。
11時40分少し前B受審人は、南南西に向首し、桟橋北東端から北東に約15メートル離れたとき、係留中のみゆきが離桟して後進を始めたが、後方のバージを見ていて同船に気付かず、同時39分50秒桟橋北東端の北東方22メートルのところで、船首がほぼ190度に向いたとき、自船の係留岸壁に向かうこととし、そのまま前進すると離桟中のみゆきと衝突するおそれがあったが、前路に他船はいないものと思い、進行方向に対する見張りを十分に行わなかったので同船に気付かず、離桟してほぼ停止中のみゆきを避けることなく、ステアリングハンドルを中央に戻すとともにスロットルレバーを前進に入れて出力を上げ、190度に向首したまま増速しながら進行した。
11時40分わずか前B受審人は、視線を前方に移したとき、船首方至近にみゆきを初認したが、何の措置をとる間もないまま、沖楽丸は、190度に向首し、約10.0ノットの速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、みゆきは右舷側ブルワークが破損するとともに天幕用支柱に曲損を生じたが、のち修理され、沖楽丸は船首部に擦過傷が生じ、また、A受審人が頭部打撲傷などを負った。
(原因)
本件衝突は、愛媛県今治港第3区において、沖楽丸が、係留桟橋を離れたのち、目的地に向け機関を前進にかけて進行する際、進行方向に対する見張りが不十分で、離桟してほぼ停止中のみゆきを避けなかったことによって発生したが、みゆきが、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、愛媛県今治港第3区において、岸壁係留中のバージに留意しながら係留桟橋を離れたあと、機関を前進にかけて目的地に向け進行する場合、前方で離桟中のみゆきを見落とさないよう、進行方向に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に他船はいないものと思い、進行方向に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、離桟中のみゆきに気付かないまま進行して同船との衝突を招き、みゆきの右舷船尾ブルワークなどに損傷を、沖楽丸の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるとともに、A受審人に頭部打撲傷などを負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人が、愛媛県今治港第3区において、係留桟橋を離れる際、周囲の見張りを十分に行わず、沖楽丸が離桟して目的地に向け進行しようとしていたことに気付かなかったことは本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、衝突時にほぼ停止していたこと及び直前まで後進中であった沖楽丸が前進を開始して短時間に接近した点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。