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平成12年広審第21号
件名

旅客船べっぷ2・漁船第18若宮丸漁船第38若宮丸漁具衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年4月12日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(中谷啓二、竹内伸二、工藤民雄)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:べっぷ2船長 海技免状:二級海技士(航海)
B 職名:第18若宮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
C 職名:第38若宮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
18若宮丸・・・損傷なし
38若宮丸・・・右舷船尾圧壊し転覆
べっぷ2・・・右舷後部外板に擦過傷

原因
べっぷ2・・・動静監視不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
18若宮丸・・・警告信号不履行(一因)
38若宮丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件漁具衝突は、べっぷ2が、動静監視不十分で、第18若宮丸及び第38若宮丸を含む漁船団を避けなかったことによって発生したが、第18若宮丸及び第38若宮丸が、汽笛不装備で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年3月31日19時20分
 愛媛県八幡浜港沖合

2 船舶の要目
船種船名 旅客船べっぷ2
総トン数 2,167トン
全長 112.91メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 6,619キロワット

船種船名 漁船第18若宮丸 漁船第38若宮丸
総トン数 17トン 14トン
登録長 14.39メートル 14.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120 120

3 事実の経過
 べっぷ2(以下「べっぷ」という。)は、大分県別府港と愛媛県八幡浜港間に定期就航している前部に船橋を備えた旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか12人が乗り組み、車輌40台を積載し、旅客119名を乗せ、船首3.70メートル船尾4.25メートルの喫水をもって、平成11年3月31日16時45分別府港を発し、八幡浜港に向かった。
 A受審人は、19時14分ごろ八幡浜港港界まで約2.5海里にあたる佐島北方沖で昇橋して入航指揮を執り、当直中の二等航海士を見張りに、甲板手を操舵にそれぞれ当て、同時15分八幡浜港長早防波堤灯台(以下「長早灯台」という。)から252度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に達したとき、針路を075度に定め、機関を全速力前進にかけ、19.7ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して進行した。
 ところで八幡浜港沖からその西方の宇和海一帯にかけては、年間を通じて、灯船、網船及びえい船が組んだ船団により、まき網漁業が行われていて、その操業模様は、集魚灯を点灯した灯船を囲んで輪状に、網船が網を巡らし、引き続いて網の底部を絞る環締め及び揚網の各作業を行い、揚網作業に際しては、網船が網側に引き寄せられることでプロペラ、舵などが網に絡むことのないよう、えい船が、えい索を用いて網船を引き、同船の姿勢を制御する裏こぎと呼ばれる作業を行うというもので、A受審人は、長年にわたるこの海域の航行経験などから、同操業について、裏こぎ中のえい船が網船と約200メートルの間隔をとっていることなどその操業形態を知っていた。
 定針したときA受審人は、船首わずか左方1.45海里のところに、3隻からなる船団(以下「若宮船団」という。)でまき網漁業に従事している網船の第18若宮丸(以下「18若宮」という。)の作業灯の灯火を、その左方至近に灯船の集魚灯の灯火をそれぞれ認め、その明るい灯火模様から一瞥して両船がまき網漁業に従事していることを知り、裏こぎ中であったえい船の第38若宮丸(以下「38若宮」という。)については、その右舷灯、紅色全周灯2灯を両船とほぼ同距離で右舷船首3度のところに認め、網船との間隔が200メートル以上あるように感じて、待機中のものか裏こぎ中であるのかすぐには判別できなかったものの、その後専ら船首に近い18若宮に注意を払って続航した。
 19時17分A受審人は、若宮船団と約0.8海里に近づいたことから、機関を極微速力前進とし、同時18分長早灯台から249度1,760メートルの地点に達したとき、18若宮が船首わずか左方900メートルに接近し、38若宮がほぼ同距離で右舷船首9度となり、18若宮のみならず両船間に延びている裏こぎ索に接近する状況となったが、18若宮に気をとられ、38若宮に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、38若宮の南側を航過するなどして同船団を避けず、船首に近い18若宮だけを替わすよう両船間に向ければ大丈夫と思い、両船の中間付近に向け針路を079度に転じ、18若宮は避けたものの、裏こぎ索に向かって進行中、同時19分ごろ38若宮が右転を始めた様子を認めて急ぎ機関を中立とし、続いて同船からの叫び声を聞き、同索との衝突の危険に気付いて微速力後進をかけ、右舵一杯をとったが及ばず、べっぷは、19時20分長早灯台から239度900メートルの地点において、原針路のまま12.0ノットの速力で、その船首が、38若宮、18若宮両船間に張っていた裏こぎ索の中間付近に、ほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時であった。
 また、18若宮及び38若宮は、それぞれ中型まき網漁業に従事する網船及び運搬船兼えい船で、灯船1隻を加えて若宮船団を構成し操業を行っていたところ、あじ漁の目的で、38若宮にC受審人が1人で乗り組み、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日18時00分八幡浜港を発し、同港沖合で魚群探索などを行ったのち、B受審人ほか5人が乗り組み、船首0.5メートル船尾0.4メートルの喫水で、同時30分同港を発した18若宮及び灯船と合流し、同時40分ごろ前示衝突地点付近で操業を開始した。
 ところでB受審人は、18若宮と38若宮の所有者で、平成8年及び同9年にそれぞれの動力漁船登録を行い、長さが12メートル以上であったが、両船に汽笛を備えずに使用していた。
 若宮船団は、集魚灯を点灯した灯船を中心にして、18若宮が灯船の周囲に投網して環締めをしたのち、同船と約60メートルの間隔で南南東に位置し、38若宮は船橋後部から18若宮にとった直径約24ミリメートルの合成繊維製の裏こぎ索を張って約180メートルの距離をとり、19時15分3隻が順にほぼ南南東の方向に並んだ状態で、揚網作業にかかった。
 そのころB受審人は、機関を中立にして東北東に向首し、漁ろうに従事している船舶が表示する灯火に加えて、前部マストにせん光を発する黄色全周灯2灯及び後部マストに紅色回転灯を点灯し、多数の作業灯及び投光器で甲板上を照らして、揚網によるわずかな後方への移動を伴いながら作業にかかり、一方、C受審人は、南南西に向首して機関を微速力前進にかけ、航行中の動力船の表示する灯火のほか、前部マスト灯の上部に紅色全周灯を、及び船橋上部に紅色回転灯を点灯して、灯船に乗船している漁ろう長と無線連絡をとりながら、微小な前進行きあしをもって手動操舵により裏こぎを開始したところ、両受審人とも、西南西方1.45海里のところに、べっぷの灯火を初認し、その後同船の動静を監視して八幡浜港に入港する旅客船で、自船団に近づく態勢であるのを知った。
 19時18分B受審人は、長早灯台から244度880メートルの地点で075度に向首して作業していたとき、べっぷを、船尾わずか右方900メートルのところに認め、その後同船が自船と38若宮間に向首して裏こぎ索に向かって接近するのを認めたが、汽笛を装備していなかったので、自船団を避けるよう警告信号を行うことができず、乗組員と甲板上に立ちべっぷに向けて手振りで合図を続けた。
 一方、19時18分C受審人は、18若宮から169度の方向に裏こぎ索を引き202度に向首していたとき、べっぷが右舷船首62度900メートルに接近し、裏こぎ索に向かって進行しているのを認めたが、汽笛不装備で警告信号が行えず、漁ろう長から無線で指示を受けながら、船橋屋根に設置されているサーチライトを同船に向け点滅を繰り返し、さらに避航動作が見られないことから右舵一杯をとり、裏こぎ索をべっぷから引き離そうとしたが効なく、裏こぎ索が前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、18若宮に損傷はなかったが、38若宮が、べっぷの船首部に掛かって張った裏こぎ索に引き寄せられ、その右舷船尾がべっぷの右舷後部に接触して圧壊するとともに、左舷側に大傾斜して転覆し、べっぷが右舷後部外板に擦過傷を生じた。

(原因)
 本件漁具衝突は、夜間、八幡浜港沖合において、べっぷが、船首方に若宮船団の各船の灯火を認めて東進中、同船団で18若宮の裏こぎを行っていた38若宮に対する動静監視が不十分で、同船団を避けなかったことによって発生したが、18若宮及び38若宮の両船が、汽笛不装備で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、八幡浜港沖合を東進中、船首方に若宮船団の各船の灯火を視認して進行する場合、同船団中の38若宮が裏こぎを行っているかどうか判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首わずか左方に灯火の明るい18若宮を認めたことから、同船に気をとられ、38若宮に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、38若宮が18若宮を裏こぎ中で、両船間に裏こぎ索があることに気付かず、同船団を避けず、両船間に向け進行して裏こぎ索との衝突を招き、べっぷの右舷後部に擦過傷を生じさせ、38若宮の右舷船尾部を圧壊し同船を転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、18若宮及び38若宮の所有者として、両船を使用する場合、両船に汽笛を備えるべき注意義務があった。しかるに、同人は、両船に汽笛を備えなかった職務上の過失により、夜間、八幡浜港沖合において、18若宮に船長として乗り組み、38若宮に裏こぎされて揚網中、両船が警告信号を行うことができない事態となり、べっぷと裏こぎ索との衝突を招き、べっぷ、38若宮両船に前示の損傷及び転覆を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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