(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月15日13時06分
和歌山県和歌山下津港南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八日真丸 |
プレジャーボート得修丸 |
総トン数 |
148トン |
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全長 |
41.90メートル |
10.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
625キロワット |
40キロワット |
3 事実の経過
第八日真丸(以下「日真丸」という。)は、船尾船橋型の漁獲物運搬に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首2.5メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、漁獲物を積み込む目的で、平成10年7月15日12時25分和歌山県和歌山下津港にある和歌浦漁港を発し、愛媛県深浦漁港に向かった。
A受審人は、12時30分和歌浦漁港西防波堤灯台から135度(真方位、以下同じ。)15メートルの地点で、針路を230度に定めて自動操舵とし、機関を10.3ノットの全速力前進にかけ、折からの北東方に流れる潮流に抗して9.8ノットの対地速力で進行し、航海中の船橋当直を自らと甲板員2人による単独4時間の輪番制としていたところから、同時35分出航の後片付けを終えて昇橋したB指定海難関係人に船橋当直を行わせることとした。
その際、A受審人は、B指定海難関係人と本船で2年ほど共に乗船し、同人が当直に慣れているので、特に指示をしなくても大丈夫と思い、前方の見張りを十分に行い、他船に接近するときには、電話などで報告するように指示することなく、頼むよとのみ言って降橋し、昼食をとるため船尾の食堂に赴いた。
一方、B指定海難関係人は、しばらく立って見張りに当たっていたところ、他船も見当たらないことから、操舵室後部中央の台に置いてあるテレビジョンのスイッチを入れ、この前にいすを運んで船尾方を向いて座り、その放映に見入った。
こうして、B指定海難関係人は、13時03分下津沖ノ島灯台(以下「沖ノ島灯台」という。)から012度1,600メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首950メートルのところに、船首を西方に向けて漂泊している得修丸を視認できる状況であったが、前方には航行の妨げとなる他船はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく、その後、得修丸に衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、A受審人に報告して同船を避けることができないまま続航し、13時06分沖ノ島灯台から335度1,000メートルの地点において、日真丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、得修丸の右舷船首に後方から42度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西南西風が吹き、視界は良好で、北東方に流れる0.5ノットの潮流があった。
B指定海難関係人は、衝突に気付かずに進行し、16時00分徳島県日和佐港沖合で次直の甲板員と船橋当直を交替したのち、船室で休息した。
A受審人は、16時30分日和佐港南方沖合を南下中、下津海上保安署からの船舶電話により得修丸との衝突を知らされ、事後の措置に当たった。
また、得修丸は、FRP製プレジャーボートで、C受審人が1人で乗り組み、同乗者1人を乗せ、船首0.4メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、同日11時00分和歌山下津港海南区を発し、沖ノ島北方沖合の釣り場に向かい、同時40分同釣り場に到着して魚群の探索を行った。
12時06分C受審人は、沖ノ島灯台から287度1,200メートルの地点において、機関を中立運転としたうえ、長さ5メートルの合成繊維製ロープに付した直径2メートルのパラシュート形シーアンカーを船尾から投入して漂泊したのち、自船が小型であることから、他船が視認しやすいようにと錨泊中の形象物を船尾マストに掲げ、同乗者を右舷前部甲板に座らせ、自らは左舷前部甲板に座り、それぞれ釣り竿を舷外に振り出し、折からの北東方に流れる潮流を左舷側に受け、同方向に少々圧流されながらあじ釣りを開始した。
C受審人は、13時03分沖ノ島灯台から331度1,020メートルの地点において、船首を272度に向けて釣りを行っていたとき、右舷船尾42度950メートルのところに、自船に向首する日真丸を初めて視認し、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近してくるのを知った。
C受審人は、釣りを行いながら日真丸を監視するうち、13時05分同船が避航動作をとらないまま350メートルに近づいたが、錨泊中の形象物を船尾マストに掲げているから、日真丸がそのうちに避けるものと思い、有効な音響による注意喚起信号を行うことも、パラシュート形シーアンカーをすぼめ、機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとることもなく、同船を見守っているうち、13時06分少し前衝突の危険を感じ、立ち上がって大声で叫びながら、操舵室に飛び込み、機関を後進にかけたが及ばず、得修丸は、272度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日真丸は左舷船首に擦過傷を生じ、得修丸は船首上部に破損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、和歌山県和歌山下津港南西方沖合において、日真丸が、見張り不十分で、漂泊中の得修丸を避けなかったことによって発生したが、得修丸が、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
日真丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の甲板員に単独の船橋当直を行わせるに当たり、見張りについての指示を十分に行わなかったことと、同甲板員が、見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、和歌浦漁港を発して和歌山下津港南西方沖合を南下中、無資格の甲板員に単独の船橋当直を行わせる場合、他船を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行い、他船に接近するときには、電話などで報告するように指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同甲板員と本船で2年ほど共に乗船し、当直に慣れているから、特に指示をしなくても大丈夫と思い、前方の見張りを十分に行い、他船に接近するときには、電話などで報告するように指示しなかった職務上の過失により、当直の甲板員が見張り不十分で漂泊中の得修丸に気付かず、同船に接近している旨の報告が得られなかったことからこれを避けることができないまま進行して衝突を招き、自船の左舷船首に擦過傷を、得修丸の船首上部に破損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、和歌山下津港南西方沖合において、漂泊して釣りを行っていたとき、日真丸が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを知った場合、パラシュート形シーアンカーをすぼめ、機関を後進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、日真丸がそのうちに避けるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、単独の船橋当直に当たって和歌山下津港南西方沖合を南下中、前方の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。