日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成12年横審第89号
件名

漁船第八長久丸貨物船コーラル レイ衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成13年4月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(半間俊士、勝又三郎、向山裕則)

理事官
伊東由人

受審人
A 職名:第八長久丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第八長久丸機関長

損害
長久丸・・・船首部破損
コ 号・・・損傷なし

原因
長久丸・・・居眠り運航防止措置不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
コ 号・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第八長久丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るコーラル レイの進路を避けなかったことによって発生したが、コーラル レイが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年7月6日01時20分
 三重県三木埼南方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八長久丸 貨物船コーラルレイ
総トン数 19トン 24,361トン
全長 24.40メートル 192.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 573キロワット 13,239キロワット

3 事実の経過
 第八長久丸(以下「長久丸」という。)は、中型まき網漁業に従事するFRP製探索船で、A受審人及び同人の兄にあたるB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.9メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、平成11年7月5日15時00分網船など僚船と共に三重県奈屋浦漁港を発し、翌朝までの操業であったことから航行中の動力船の灯火を点灯して同漁港南方沖合の漁場に向かった。
 ところで、長久丸の操舵室前面窓枠下の右舷側にGPSプロッターや主レーダーが、左舷側に魚群探索用ソナー(以下「ソナー」という。)2台など計器類がそれぞれ設置され、同室内後方の左右両側にいすがあり、右舷側に当直者、左舷側に探索担当者がそれぞれ腰掛け、A受審人は、船橋当直の時間を決めず、疲れたら交代することとしてB指定海難関係人と2人で行い、同当直に就いていないときは魚群探索を行ったり、適宜休息を取ったりしていた。
 A受審人は、15時30分ごろ奈屋浦漁港南方5海里ばかりのところからソナーによる魚群探索を始め、右舷側のいすに腰掛け、遠隔操舵装置で操舵操船を行い、B指定海難関係人を左舷側のいすに腰掛けさせ、適宜休息をとらせ、探索を続けながら陸岸に沿って南下した。
 翌6日00時00分A受審人は、三木埼灯台から211度(真方位、以下同じ。)10.9海里の地点で、それまで左舷側のいすで休息をとっていたB指定海難関係人に船橋当直を行わせることとし、同人は無資格であったが、兄であり自身より海上経験が長く豊富であったので、特に指示しなくても大丈夫と思い、眠気を覚えた際は眠気を払うように努め、それでも眠気がとれないときには報告するよう居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うことなく、南南東方に向かって航走して探索を行うよう指示し、同当直を交代して操舵室後方の船員室で休息を取った。
 B指定海難関係人は、右舷側のいすに腰掛け、主レーダーを6海里レンジとして周囲の見張りを、半径400メートルの範囲を監視できるソナーで魚群探索をそれぞれ行い、00時58分三木埼灯台から183度14.3海里の地点で、針路を170度に定めて自動操舵とし、機関回転数を毎分1,700にかけ、15.0ノットの対地速力で探索しながら進行した。
 01時10分B指定海難関係人は、三木埼灯台から180度17.3海里の地点で、主レーダーに映る多数の航行船のうち、自船に最も近い船の映像を左舷船首25度2海里ばかりに認め、同船を避けるため、手動操舵として針路を145度に転じ、遠隔操舵装置で操舵操船を行いながらソナーで魚群探索を続け、同船を避航し終えたうえ、魚影を認めなかったことからしばらくは大丈夫と思い、ぼんやりしているうち眠気を覚えたが、居眠りすることはあるまいと思い、いすから立って体を動かすなど眠気を払うこともA受審人に報告することもなく、居眠り運航の防止措置をとらなかった。
 B指定海難関係人は、その後居眠りに陥り、01時15分三木埼灯台から178度18.2海里の地点で、右舷船首43度2.0海里のところにコーラル レイ(以下「コ号」という。)の白、白、紅の3灯を視認でき、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、居眠りに陥っていてこのことに気付かず、A受審人に報告できず、同船の進路を避けないまま続航し、同時20分わずか前ふと目覚め、航跡らしいものがソナー画面上の右前方に映っていることに気付き、同方向を見たところ、至近にコ号の船体と紅灯を認め、行きあしを止めようとしてクラッチをいきなり後進に入れたので機関は停止したが及ばず、01時20分三木埼灯台から176度19.3海里の地点において、長久丸は、145度に向首したまま、3ノットの速力となったとき、その船首がコ号の左舷前部に前方から82度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、機関音の急な変化で目覚め、衝撃で衝突を知り、網船に連絡するなど事後の措置に当たった。
 また、コ号は、船首船橋型鋼製の自動車運搬専用船で、船長Dほか28人が乗り組み、中古車235台を載せ、船首5.36メートル船尾7.86メートルの喫水をもって、同月5日16時50分大阪港を発し、名古屋港に向かった。
 発航後D船長は、船橋当直の航海士及び操舵手と共に在橋して操船指揮を執り、日没時に航行中の動力船の灯火を点灯し、紀伊半島に沿って航行を続け、翌6日00時00分樫野埼灯台から124度7.0海里の地点で、針路を047度に定め、機関を全速力前進にかけ、16.5ノットの対地速力で自動操舵として進行した。
 二等航海士は、定針時船橋当直を前直者と交代して、引き続き在橋したD船長の指揮のもと、操舵手と共に同当直に就き、同針路、同速力で続航していたところ、01時05分三木埼灯台から184度22.0海里の地点で、左舷船首34度6.2海里のところに長久丸の白、緑の2灯を初認して船長に報告した。
 D船長は、二等航海士からの報告を受け同灯火を見守り、01時10分手動操舵に切り替え、同時15分三木埼灯台から179度20.2海里の地点で、左舷船首39度2.0海里のところに同灯火を認め、その後方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近するのを知ったが、信号灯を照射すれば自船の進路を避けてくれると思い、二等航海士に命じて持ち運び式信号灯の長久丸に対する照射を繰り返させたものの、汽笛による警告信号を行わず、さらに同船が自船の進路を避けないまま間近に接近することを知ったが、長久丸の避航を期待し、速やかに大きく右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、同時20分少し前左舷船首至近に同船を認め、衝突の危険を感じ、右舵一杯を命じたが効なく、コ号は、同針路、同速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、長久丸は、船首部に破損を生じたがのち修理され、コ号に損傷はなかった。

(原因)
 本件衝突は、夜間、三重県三木埼南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、長久丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、前路を左方に横切るコ号の進路を避けなかったことによって発生したが、コ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 長久丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対して居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかったことと、同当直者が、居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、三重県三木埼南方沖合において魚群探索中、無資格の船橋当直者に1人で当直を行わせる場合、居眠り運航にならないよう、同当直者に対し、眠気を覚えた際は眠気を払うように努め、それでも眠気がとれないときには報告するなど居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、同当直者は無資格であったが、自身より海上経験が長く豊富であったので、特に指示しなくても大丈夫と思い、同当直者に対し、居眠り運航の防止措置についての指示を十分に行わなかった職務上の過失により、同当直者が居眠りに陥って報告を得られず、居眠り運航となってコ号の進路を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、長久丸の船首部に破損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、夜間、1人で船橋当直に就いて、眠気を催した際、居眠り運航の防止措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:42KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION