日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成11年第二審第21号
件名

漁船第二十八大忠丸機関損傷事件〔原審函審〕

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年4月25日

審判庁区分
高等海難審判庁(宮田義憲、吉澤和彦、川本 豊、伊藤 實、岸 良彬)

理事官
安藤周二

受審人
A 職名:第二十八大忠丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
2番シリンダのピストン及びシリンダライナ焼損

原因
主機ピストンの油かきリングの選定不適切

二審請求者
理事官里 憲

主文

 本件機関損傷は、主機ピストンの油かきリングの選定が不適切で、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成9年12月15日17時25分
 北海道利尻島南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大忠丸
総トン数 160トン
全長 38.12メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット

3 事実の経過
 第二十八大忠丸は、平成元年12月に進水した沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、可変ピッチプロペラを有し、主機として株式会社Kが製造した6U28型と称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番とする順番号が付され、船橋から主機の回転及びプロペラ翼角の遠隔操作ができるようになっていた。
 主機は、連続最大出力1,471キロワット、同回転数毎分720(以下、回転数は毎分のものを示す。)の原機に、負荷制限装置を付設し、計画出力1,029キロワット、同回転数640として登録されていたが、就航時には同装置が取り外されていた。
 主機のピストンは、組立形で、鍛鋼製のピストンクラウンと鋳鋼製のピストンスカートからなり、ピストンリングとして、ピストンクラウンに3本の圧力リングを、ピストンスカートの上側と下側とに各1本のいずれもベベルカッタ形の油かきリングをそれぞれ装着していた。また、シリンダライナは、鋳鉄製で、内面にクロムメッキが施され、ピストンとの潤滑は、はねかけによって内面に付着した潤滑油により行われていた。
 A受審人は、就航時から機関長として本船に乗り組み、主機の出力限度を、回転数720プロペラ翼角19.5度として取り扱い、毎年ピストンリング全数を新替えするなどの主機の整備を行っていたところ、同9年9月の定期検査工事において、就航以来使用していたシリンダライナの冷却水側に、キャビテーションによる侵食を発見したので、全数の同ライナを新替えすることとした。
 ところで、油かきリングは、シリンダ内で燃える潤滑油の消費量を調整する目的で装着されているもので、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油をクランク室にかき落とす作用をしているが、過度にかき落とすと、摺動面が潤滑油不足により油膜の保持が困難となって潤滑が阻害されるおそれがあることから、同ライナの摩耗の程度に合わせて適切な面圧のものを選ぶ必要があり、下側の同リング用として、面圧3.0キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)及び面圧1.7キロの2種類が準備されていた。
 A受審人は、シリンダライナの新替えに伴い、同ライナと油かきリングとの摺動面の当たりが従前より強くなる状況であったが、潤滑油消費量が増えることを気にして、面圧の低い適切な同リングを選定することなく、上側に面圧10.0キロ、下側に面圧3.0キロの、いずれも従前と同じ面圧のものを装着して主機を復旧し、同月27日定期検査工事を終了した。
 A受審人は、翌10月1日から操業を始め、主機の運転に当たり、シリンダライナの新替えに伴い、摺動面のなじみを十分につけるため、すり合わせ運転を慎重に行うこととし、回転数680プロペラ翼角17.0度に抑えたまま、その運転時間が462時間に達したのち、翌々12月5日回転数700プロペラ翼角19.0度として、段階的に負荷を上昇させ、この間、摺動面の潤滑油が過度にかき落とされていたものの、負荷が軽減されていたので、摺動面の油膜が保持され、格別の支障を生じることなく運転を続けていた。
 こうして本船は、A受審人ほか17人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、同月15日01時45分北海道稚内港を発し、06時55分利尻島南西方の武蔵堆漁場に至って操業を行ったものの、漁模様が思わしくなかったところから、17時10分漁場を移動することとした。
 漁場発進に当たり、A受審人は、シリンダライナの摺動面のなじみが十分ついたものと判断し、船橋当直者に主機の負荷を従前の状態まで戻しても差し支えない旨を伝え、同当直者が回転数720プロペラ翼角19.5度に上昇させて運転を続けるうち、主機は、摺動面の潤滑油が過度にかき落とされる状況となっていたうえ、負荷の増大によりピストンスカートの側圧が大きくなったことから、摺動面の油膜が破壊され、潤滑阻害となって2番ピストンスカートが焼き付き始め、17時25分仙法志埼灯台から真方位231度11.5海里の地点において、回転が低下した。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、機関室で当直中、主機の回転が低下したことに気付き、直ちに主機を止めてクランク室を点検したところ、2番シリンダライナの下部水密Oリングの溶損により、冷却水が滴下しているのを認め、運転不能と判断し、救助を求めた。
 本船は、来援した僚船に引かれて発航地に帰着し、修理業者の手により主機の調査が行われた結果、2番シリンダのピストン及びシリンダライナが焼損していることが判明し、のち、これらが新替えされたほか、全数のピストンの下側油かきリングが、面圧1.7キロのものと交換された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機シリンダライナを新替えするに当たり、ピストンの油かきリングの選定が不適切で、ピストンとシリンダライナとの摺動面の潤滑油が過度にかき落とされ、潤滑阻害を生じたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機シリンダライナを新替えする場合、同ライナと油かきリングとの摺動面の当たりが従前より強くなり、摺動面の潤滑油が過度にかき落とされて潤滑が阻害されるおそれがあったから、面圧の低い適切な油かきリングを選定すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、潤滑油消費量が増えることを気にして、面圧の低い適切な油かきリングを選定しなかった職務上の過失により、摺動面の潤滑阻害を招き、ピストン及びシリンダライナの焼損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成11年6月25日函審言渡
 本件機関損傷は、油かきリングによる潤滑油のかき落としが多い状態で運転が続けられ、ピストンスカートしゅう動面が油切れになったことによって発生したものである。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION