(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年2月18日06時05分
福島県相馬港
2 船舶の要目
船種船名 |
作業船第八庄運丸 |
漁船弘昌丸 |
総トン数 |
6.6トン |
4.9トン |
全長 |
9.90メートル |
14.35メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
121キロワット |
235キロワット |
3 事実の経過
第八庄運丸(以下「庄運丸」という。)は、操舵室を中央に設けた鋼製作業船で、A受審人が1人で乗り組み、作業員1人を乗せ、高潮対策工事に従事する目的で、船首0.55メートル船尾1.45メートルの喫水をもって、平成11年2月18日05時45分福島県相馬港の験潮所前岸壁を発し、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して、同港南方約16海里にあたる、同県原町市小沢海岸の工事現場に向かった。
ところで、相馬港は、太平洋に面した北から南東にかけて開けた港で、北防波堤、沖防波堤及び松川浦漁港南側に設けられた南防波堤(以下「松川浦南防波堤」という。)によって囲まれ、その港域が南防波堤により北部地区と南部地区に二分され、北部地区を主に貨物船などが使用し、南部地区が松川浦漁港となっていた。そして、相馬港の入口として、北部地区には、北防波堤と沖防波堤間及び同防波堤と南防波堤間の2個所が、南部地区には、南防波堤と松川浦南防波堤間の1個所がそれぞれあり、沖防波堤と松川浦南防波堤間が、両地区に共通する入口となっていて、その幅が約1,200メートルであった。
発航後A受審人は、手動操舵と見張りに当たって港内を北上し、南防波堤突端を右方に140メートル離して回頭を終え、05時57分半相馬港南防波堤灯台(以下「相馬港」を冠した灯台名についてはこれを省略する。)から014度(真方位、以下同じ。)150メートルの地点に達したとき、針路を松川浦南防波堤灯台の北東方330メートル沖合に向く135度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で進行した。
06時02分A受審人は、沖防波堤と松川浦南防波堤間の入口中央付近にあたる、松川浦南防波堤灯台から350度580メートルの地点に達したとき、左舷船首37度1.2海里に弘昌丸の白、緑2灯を初めて視認し、その後その方位が変わらず、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で、高速力で接近するのを認めた。
A受審人は、弘昌丸の動静を見守っていたところ、同船が自船の進路を避けることなく接近して来るのを認めたものの、自船を右方に見る相手船が避けてくれるものと思い、警告信号を行うことなく続航し、06時04分弘昌丸との距離が480メートルとなって間近に接近したが、速やかに行きあしを停止するなどの衝突を避けるための適切な協力動作をとることなく、機関を微速力前進の4.0ノットの速力に減じた。
そして同受審人は、ほぼ同時刻に弘昌丸が減速したことで、依然その方位が変わらなかったことから、更に同時05分少し前機関を中立として惰力で進行した。
06時05分わずか前A受審人は、弘昌丸が至近に迫ったのを見て、衝突の危険を感じ、同船の前路を増速して替わすつもりで、機関を全速力前進にかけたが及ばず、06時05分松川浦南防波堤灯台から050度330メートルの地点において、庄運丸は、原針路のまま、約3ノットの速力となったとき、その左舷船尾部に弘昌丸の船首が前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、弘昌丸は、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか甲板員1人が乗り組み、かれい漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日01時30分松川浦漁港を出航し、鵜ノ尾埼東方約8海里沖合の刺し網を設置した漁場に向かい、02時10分目的地に着いて操業を行い、いしがれい約30キログラムを漁獲したところで操業を打ち切り、05時00分同漁場を発し、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して同漁港の魚市場に向け帰途に就いた。
漁場発進後B受審人は、操舵室中央の操舵輪後方に立って単独で操船に当たり、上甲板前部で甲板員が行っていた漁獲物の整理作業の支障とならないよう、機関を中立回転近くまで減じて低速力で航行し、05時58分松川浦南防波堤灯台から087度2.8海里の地点に達したとき、甲板員が同作業を終えたので、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、25.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
06時02分B受審人は、沖防波堤と松川浦南防波堤間の入口まで1海里余りにあたる、松川浦南防波堤灯台から084度1.2海里の地点に達したとき、右舷船首8度1.2海里に庄運丸の白、紅2灯を視認することができ、その後その方位が変わらず、同船が前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近したが、この時間帯に右舷方の北部地区から出航して来る船舶はいないものと思い、このころ魚市場に向けて入航中の左舷方の数隻の漁船に気を奪われ、右舷前方の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かないまま、庄運丸の進路を避けずに続航した。
06時04分B受審人は、松川浦南防波堤灯台から070度700メートルの地点に達し、庄運丸との距離が480メートルとなったとき、機関を極微速力前進に減じたところ、ほぼ同時刻に同船も減速し、その後も衝突のおそれのある態勢で接近を続けたが、依然右舷前方の見張りが不十分のまま、このことに気付かずに進行した。
06時05分少し前B受審人は、松川浦南防波堤灯台から051度380メートルの地点で、速力が6.0ノットとなり、庄運丸がほぼ正船首70メートルとなったとき、いつものように魚市場前面にある北防波堤西端の緑色灯標を、左舷側に50メートル離して航過するつもりで針路を235度に転じて間もなく、弘昌丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、庄運丸は、左舷船尾部外板に凹損を生じ、弘昌丸は、船首外板に破口を生じたが、のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件は、港則法が適用される相馬港において、夜間、出航する庄運丸と入航する弘昌丸が、防波堤入口付近において衝突したものであるが、以下、適用される航法について検討する。
本件は、沖防波堤と松川浦南防波堤間の防波堤入口付近で発生したものであるが、同入口の可航幅は、約1,200メートルあり、出航する総トン数6.6トンの庄運丸と入航する総トン数4.9トンの弘昌丸の大きさ等から判断すると、同防波堤入口又は入口付近が、防波堤の外で弘昌丸が庄運丸の出航を待つまでもない状況にあったものと認められることから、防波堤入口又は入口付近で出会うおそれのある、入航船と出航船間の航法を定めた港則法第15条を適用することは、相当でない。
また、両船は、航行中の動力船が掲げる灯火を表示し、その灯火を、遠距離から互いに視認することができる態勢で接近したものであり、両船間の見通しを妨げる、防波堤、ふとうその他の工作物の突端又は停泊船舶等による、出会いがしらの衝突の危険を防止するための航法を定めた港則法第17条を適用することは、相当でない。
以上のほか、特別法である港則法には、本件に適用する航法がないので、本件は一般法である海上衝突予防法で律することになり、その接近模様から、互いにその進路が交差し、相手船の舷灯を見る態勢にあったこと、衝突のおそれのある態勢で接近していることを互いに認め得る状況になってから、航法判断をして衝突回避の動作をとるのに、時間的、距離的に十分な余裕があったこと及び前示防波堤入口付近の水域は十分に広く、本件当時の船舶交通の状況から、庄運丸を右舷側に見る弘昌丸が、庄運丸の進路を避ける動作を、また、弘昌丸を左舷側に見る庄運丸が、その針路、速力を保持することを妨げる状況ではなかったことから、海上衝突予防法第15条の横切り船の航法を適用するのが相当である。
(原因)
本件衝突は、夜間、相馬港において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、西行中の弘昌丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る庄運丸の進路を避けなかったことによって発生したが、南下中の庄運丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作を適切にとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、相馬港において、単独で操船に当たり、松川浦漁港の魚市場に向け西行する場合、来航する庄運丸を見落とすことのないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、この時間帯に右舷方の北部地区から出航して来る船舶はいないものと思い、魚市場に向け入航する左舷方の数隻の漁船に気を奪われ、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する庄運丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、自船の船首外板に破口を、庄運丸の左舷船尾部外板に凹損を、それぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
A受審人は、夜間、相馬港において、単独で操船に当たり、港外の工事現場に向け南下中、左舷前方の弘昌丸が、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で、自船の進路を避けないまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに行きあしを停止するなどの衝突を避けるための適切な協力動作をとるべき注意義務があった。しかし、同受審人は、順次速力を減じたのみで、速やかに行きあしを停止するなどの衝突を避けるための適切な協力動作をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示のとおりの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
(参考)原審裁決主文平成12年3月23日仙審言渡
本件衝突は、入航する弘昌丸が、見張り不十分で、出航する第八庄運丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八庄運丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。