(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年1月10日08時30分
三重県四日市港
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十八金光丸 |
総トン数 |
695トン |
全長 |
70.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,323キロワット |
3 事実の経過
第十八金光丸(以下「金光丸」という。)は、専ら四日市港から徳山下松港へアスファルトを輸送する船尾船橋型のアスファルトタンカーで、A、B及びC各受審人ほか3人が乗り組み、平成11年1月9日11時45分四日市港第3区に右舷錨を投下して停泊していたところ、積荷桟橋に向かうため、空倉で、船首0.85メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、翌10日08時00分揚錨を開始した。
A受審人は、機関長を主機遠隔操縦装置の操作にあたらせて自らは操舵操船に従事し、B、C両受審人を船首配置に就け、B受審人が錨鎖の洗浄に、C受審人がウインドラスの操作にそれぞれあたり、08時10分錨鎖3節を巻き終えたのち、機関を4.0ノットの極微速力前進にかけ、四日市港東防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)から083度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点を発進し、第1航路を経由して四日市市塩浜町の昭和四日市石油積荷桟橋に向かった。
ところで、A受審人は、前年12月2日に一等航海士として乗船したが、同月7日当時の船長が休暇をとって下船したので船長職をとることとなり、次席一等航海士として乗船中のB受審人が一等航海士に、甲板長として乗船中のC受審人が次席一等航海士にそれぞれ職務を変更して運航に従事していたところ、同月17日定期的に交換していた左舷油圧ウインドラスのブレーキライニングを船内予備品と新替し、次いで同月21日右舷油圧ウインドラスのブレーキライニングも新替したことから、これら新しいブレーキライニングの当たりが十分馴染んでいなかったため、締め付けたブレーキが荷重によって緩むおそれのある状況であった。
揚錨後間もなくB受審人は、積荷チェックリストを用意するため、船首を離れて自室に赴き、その後積荷準備の事務作業に従事した。
C受審人は、いつものように右舷錨をブレーキのみでコックビルの状態とし、通常の力でウインドラスのブレーキを締め付け、クラッチを外して同錨の投下準備を終えたあと、着桟までに用便を済ませ、自室に戻って防寒衣を取ってくるため一時船首を離れることとしたが、戻るまでブレーキが緩むことはあるまいと思い、制鎖器を下ろして錨鎖の走出を防止する措置をとることなく、08時13分油圧モータの運転を止め、A受審人に一時船首を離れることを告げないまま居住区に赴いた。
A受審人は、第1航路南側の旭防波堤と同北側の東防波堤との間に海底電線が敷設されていることを知っており、着桟の際、右舷錨を投下するつもりで同錨をコックビルの状態として桟橋に向け航行を開始したところ、B受審人に続き、C受審人が居住区に赴くのを認めたが、同人が船首に戻るまでブレーキが緩んで錨が落下することはあるまいと思い、同人に対し、錨鎖走出を防止するため制鎖器を下ろすよう指示することなく、そのまま第1航路入口に向かい、08時17分南灯台から104度1,300メートルの地点に達したとき、四日市港第2号灯浮標(以下、灯浮標名の「四日市港」を省略する。)を右舷側50メートルに航過して水深が12メートルに掘り下げられた第1航路に入り、針路を同航路に沿う275度に定め、機関を極微速力前進にかけたまま4.0ノットの対地速力で進行した。
その後金光丸は、右舷ウインドラスのブレーキが緩み、右舷錨の重量によって錨鎖が徐々に船外に走出し始め、やがて海底に達した右舷錨を引きずった状態で続航した。
08時25分A受審人は、第4号灯浮標を右舷側100メートルばかりに航過したとき、同灯浮標や海面を見て、いつもと同じように機関を極微速力前進にかけているのに速力が普段より少し遅いことに気付き、主機に何らかの異常があるのではないかと思い、機関長にプロペラピッチを少し上げるように指示して12度まで上げたものの依然速力が上がらないので、東防波堤内に投錨して機関を点検することとし、船橋から居住区に降りてC受審人に船首配置に戻るよう指示して船橋に戻った。
C受審人は、急いで船首に赴いたところ、右舷錨鎖が走出して錨が後方に張り、ほとんど行きあしがない状態であることを知り、このことをマイクでA受審人に報告した。
A受審人は、突然のことで付近に海底電線が敷設されていることに気が及ばず、08時28分南灯台から195度240メートルの地点で、機関を後進にかけて行きあしを止め、C受審人に直ちに揚錨を命じて錨鎖を巻き込み中、08時30分南灯台から181度240メートルの地点で、右舷錨が同地点に敷設されていた海底電線を引掛けてこれを切断した。
当時、天候は曇で風力4の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
その後A受審人は、揚錨を終えて積荷桟橋に向かい、09時15分着桟作業を終え、10時ごろ四日市海上保安部から連絡を受けて南灯台に電力を供給していた海底電線が切断されたことを知った。
その結果、陸上から南灯台への電力供給が停止して非常用電源に切り替わり、その後切断した海底電線は修理復旧された。
(原因)
本件海底電線損傷は、三重県四日市港において、ウインドラスのブレーキライニングを新替えして当たりが馴染んでおらず、ブレーキが緩むおそれのある状況下、右舷錨の投下準備をし、待機錨地から、海底電線が敷設された第1航路内を積荷桟橋に向け航行中、錨鎖走出を防止する措置が不十分で、ブレーキが緩んで右舷錨が落下し、海底電線を引掛けたまま揚錨したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船首配置の乗組員が一時船首を離れる際、船長が制鎖器を下ろすよう指示しなかったことと、船首配置の乗組員が錨鎖走出の防止措置をとらなかったこととによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、三重県四日市港において、右舷錨の投下準備をして待機錨地から積荷桟橋に向け航行中、船首配置に就いていた乗組員が用便などのため一時船首を離れることを知った場合、錨鎖の走出を防止するため、制鎖器を下ろすよう指示すべき注意義務があった。しかし、同人は、乗組員が船首に戻るまでブレーキが緩んで錨が落下することはあるまいと思い、制鎖器を下ろすよう指示しなかった職務上の過失により、ブレーキライニングを交換したあと当たりが馴染んでいなかったウインドラスのブレーキが緩んで錨鎖が走出し、落下した右舷錨によって海底電線を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、三重県四日市港において、ウインドラスのブレーキのみで右舷錨をコックビルの状態とし、待機錨地から積荷桟橋に向け航行中、用便などのため一時船首を離れる場合、制鎖器を下ろして錨鎖の走出を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかし、同人は、船首に戻るまでブレーキが緩むことはあるまいと思い、制鎖器を下ろして錨鎖の走出を防止する措置をとらなかった職務上の過失により、船首を離れたあとブレーキが緩んで錨鎖が走出し、落下した右舷錨によって海底電線を損傷させるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。