(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年9月2日08時30分
鹿児島県喜界島
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八海運丸 |
総トン数 |
458トン |
全長 |
62.11メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3 事実の経過
第十八海運丸(以下「海運丸」という。)は、荷役用旋回式ジブクレーン(以下「クレーン」という。)1基を装備した船尾船橋型の石材運搬船で、A受審人、B及びC両指定海難関係人ほか2人が乗り組み、石材1,100トンを載せ、船首3.20メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、平成10年9月2日02時30分鹿児島県古仁屋港を発し、06時00分同県喜界島の湾港に入り、湾港ふとう灯台から355度(真方位、以下同じ。)310メートルの地点で、埋立工事区画の周縁に設置されている幅10メートルのケーソンに横付けした。
ところで、クレーンは、容量4.3立方メートルの鋼製バケットを、鋼材4本によって組み立てられた長さ27メートルのジブの先端から吊り下げて使用していた。また、クレーンの機械室は、船体中央部にある長さ22.8メートル幅11.2メートルの倉口の前端から、上甲板の船首尾線上3メートル前方の位置を中心とする円形台座上に船尾方を前面として据え置かれ、同室の前面中央部でジブを支えており、前面右隅に操縦席を設けていた。
海運丸は、操縦席の前面及び右側はガラス張りで見通しが良いものの、左前方約45度より後方はジブ及び機械室の左壁により見通しが妨げられるので、左舷付けで荷役を行うことが多かった。しかしながら、湾港に入港する際、陸上の現場監督によって指定された接舷位置が、防波堤入口から東へ200メートル入ったところにあり、同位置のケーソンとその北側にある防波堤との間隔が60メートルと狭く、出船左舷付けが困難であったため、入船右舷付けを余儀なくされたものであった。
船長で安全担当者を兼ねるA受審人は、揚荷開始に先立ち、B、C両指定海難関係人、その他の乗組員及び現場監督を集めて打合せを行い、バケットの振出し区域に立ち入ることは危険であるので、揚荷時の安全措置として、ケーソン上ではこぼれ落ちた石材の除去作業を行わないよう指示し、07時20分B指定海難関係人のクレーンの操縦により、船倉から石材をバケットでつかみ、接舷しているケーソン上をその内側近くまで振り出し、埋立工事中の海中に投じる揚荷を開始した。
やがて、A受審人は、荷役が終了近くになったので、C指定海難関係人及び現場監督とともに、バケットが振り出される倉口前半部の横から離れたケーソン上において待機しているうち、08時29分ごろ同指定海難関係人がバケットの振出し区域に立ち入ったのを認めたが、すぐに出るものと思い、直ちに同区域から退避させなかった。
一方、B指定海難関係人は、操縦席において、クレーンを操縦して揚荷を続け、やがて、船倉に残り少なくなった石材をかき集めるため、数分間バケットの振出しを中断したのち、08時29分半乗組員に注意を促すため操縦席からブザーを鳴らし、石材をつかんだバケットを船倉から巻き上げ、ジブを旋回させながら右舷側のケーソン上に約1メートルの高さで振り出していたところ、08時30分海運丸が湾港ふとう灯台から355度310メートルの地点において、ケーソン上にC指定海難関係人を認めると同時にバケットを同人に接触させた。
また、C指定海難関係人は、折からの降雨のなか、ケーソン上において安全帽の上に合羽のフードをかぶった服装で待機中、しばらくバケットが振り出されないことから、船倉で石材をかき集めていると思い、08時29分ごろバケットの振出し区域に立ち入り、その後、クレーン操縦席からのブザー音に気付かないまま、こぼれている石材を除去しようとしていたところ、前示のとおりバケットと接触した。
当時、天候は雨で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
その結果、C指定海難関係人は、バケットに跳ね飛ばされてケーソン内側の埋立工事中の海中に転落し、救助されて直ちに病院に収容されたが、左下肢切断及び右大腿骨骨折を負った。
(原因)
本件乗組員負傷は、鹿児島県湾港において、クレーンにより石材を接舷しているケーソン越しに揚荷する際、安全措置が不十分で、振り出されたバケットがケーソン上の乗組員に接触したことによって発生したものである。
安全措置が適切でなかったのは、船長がケーソン上の乗組員をバケットの振出し区域から退避させなかったことと、乗組員が同区域に立ち入ったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、鹿児島県湾港において、クレーンにより石材を接舷しているケーソン越しに揚荷中、C指定海難関係人がケーソン上でバケットの振出し区域に立ち入ったのを認めた場合、直ちに同区域から退避させるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、C指定海難関係人がすぐにバケットの振出し区域から出ると思い、直ちに同区域から退避させなかった職務上の過失により、バケットがC指定海難関係人に接触して同人をケーソン内側の埋立工事中の海中に転落させ、左下肢切断及び右大腿骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、揚荷中、ケーソン上において、バケットの振出し区域に立ち入ったことは、本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告しない。
B指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。