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平成12年那審第28号
件名

旅客船フェリーゆうむつ機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年3月14日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(花原敏朗、金城隆支、清重隆彦)

理事官
上原 直

受審人
A 職名:フェリーゆうむつ機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
2番シリンダのピストン頂部に破口、シリンダライナ内面に損傷

原因
主機排気弁の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、主機排気弁の点検が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月15日13時01分
 沖縄県伊良部島佐良浜漁港

2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーゆうむつ
総トン数 191トン
全長 37.50メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット
回転数 毎分900

3 事実の経過
 フェリーゆうむつ(以下「ゆうむつ」という。)は、平成7年1月に進水した鋼製船首船橋型旅客船兼自動車渡船で、沖縄県平良港と同県伊良部島の佐良浜漁港間の定期航路に就航し、片道の所要時間が約10分で、1日に6往復していた。
 ゆうむつは、主機としてR社が製造した6DKM−20F型と称するディーゼル機関を装備し、船橋から主機の遠隔操作ができるようになっていた。
 主機は、A重油を燃料油とし、各シリンダに船尾側を1番として6番までの順番号が付され、シリンダヘッドに排気弁2個が船尾方の左右両側に、吸気弁2個が船首方の左右両側にそれぞれ直接組み込まれた、いずれもきのこ弁型の4弁式構造であった。
 前示排気及び吸気弁は、いずれもバルブローテータ付きで、各弁の弁棒がシリンダヘッドに冷やしばめによって装着された弁座及び弁棒案内を通して触火面側から挿入され、弁棒が正しく弁座に当たるように弁棒案内で弁棒の位置が決められ、弁棒と弁棒案内との間には約0.1ミリメートルのすきまが設けてあったが、このすきまが弁棒や弁棒案内の摩耗によって0.3ミリメートルに達するようであれば、これらの部品の交換を行うよう主機取扱説明書に記載されていた。
 排気及び吸気弁の動弁装置は、排気または吸気弁用のロッカーアームがそれぞれ1個あり、ロッカーアームの一端がプッシュロッドで押されるとフルクラム軸を支点にして他端が下がり、T字型形状をした弁押えを介して2個の排気あるいは吸気弁の弁棒上部(以下「弁端」という。)を押さえて弁が開く構造になっていた。そして、同装置は、ロッカーアームのプッシュロッドに接する部分と、弁押えの右舷側にある弁の弁端に接する部分との2箇所に弁すきま調整ねじ(以下「調整ねじ」という。)が設けられ、それぞれ回り止めナットが締め付けられていた。
 また、主機弁腕注油系統は、主機直結潤滑油ポンプで潤滑油主管に供給された潤滑油の一部が吸気及び排気弁それぞれのフルクラム軸に導かれ、ロッカーアームの油孔を通って弁押え及びプッシュロッド頂部に達し、各部を潤滑するようになっていた。
 ところで、前示動弁装置は、排気または吸気弁とも1個の弁押えによって同時に2個の弁端を押さえるようになっているので、2個の弁端の高さが完全に一致していないと弁押えが2個の弁端を均等な力で押すことができなくなり、弁棒や弁押えが倒れ、弁棒が弁棒案内と強く接触するようになり、弁棒案内の異状摩耗や弁の固着などの損傷の原因となることがあった。このため、同装置は、弁を整備した後の冷態時に、まず、弁押えに設けられた調整ねじで弁押えが2個の弁端に同時に密着するように調整したあと、ロッカーアームと弁押えとの間にすきまゲージを挿入し、ロッカーアームに設けられた調整ねじで弁すきまが0.31ミリメートルになるように調整する必要があった。そして、運転時間の経過とともに弁傘部と弁座の当たり面(以下「シート部」という。)が摩耗し、2個の弁端の高さに違いが生じて弁すきまが変化することがあるので、弁すきまの変化の有無が分かるよう、弁すきまの点検を、3箇月毎に行うように主機取扱説明書に記載されていた。
 ゆうむつは、第1回定期検査以後、機関部の検査を機関部継続検査計画表に基づいて実施しており、主機については、全シリンダが第2回定期検査及びその間に実施される3回の第1種中間検査で一巡するように順次整備して受検するようになっていて、同8年3月の第1種中間検査で1番及び6番シリンダを、同9年3月の第1種中間検査で3番及び4番シリンダを、同10年6月に2番シリンダを、そして、同11年2月の定期検査で5番シリンダをそれぞれ受検していた。
 A受審人は、同11年7月に機関長として乗り組み、主機の運転及び保守管理に当たり、11月上旬に主機の排気に黒煙が混じるようになり、燃焼不良と判断して全シリンダの燃料噴射弁を抜き出して整備を行い、その結果、黒煙の発生がなくなり、燃焼不良が改善されたのを認めていた。しかし、同人は、主機の整備は前示継続検査の工事で行っているので運転に異状がなければ大丈夫と思い、定期的に排気弁の弁すきまを点検するなどして排気弁の点検を十分に行うことなく、運転時間の経過とともに主機2番シリンダの排気弁シート部が摩耗し、2個の弁端の高さに違いが生じて弁すきまが変化し始めていたことに気付かないまま主機の運転を続けていた。
 こうして、ゆうむつは、A受審人ほか2人が乗り組み、旅客7人及び車両5台を載せ、船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、12月15日13時00分平良港へ向けて佐良浜漁港を発し、主機を極微速力前進にかけ、その後機関停止に引き続き半速力後進にかけて離岸したところ、主機2番シリンダの排気弁2個の弁端の高さの違いが過大になり、弁押えが均等な力で同時に両方の弁端を押すことができず、弁押え及び右舷側の排気弁弁棒に倒れが生じて弁棒が弁棒案内と強く接触するようになり、13時01分佐良浜港第1防波堤灯台から真方位306度280メートルの地点において、前示排気弁2個の弁棒が開いた状態で固着し、弁傘部がピストン頂部と接触して折損するとともに、脱落した破片の一部が排気ガスとともに過給機に侵入し、主機が燃焼不良となって多量の黒煙を煙突から排出した。
 当時、天候は雨で風力6の北東風が吹いていた。
 A受審人は、煙突から排出された多量の黒煙を見て主機の運転の継続は困難と判断して事態を船長に報告した。
 ゆうむつは、運航を中断して再度接岸し、主機を精査した結果、前示損傷のほか、2番シリンダのピストン頂部に破口を、シリンダライナ内面に損傷した金属片によるかき傷を、過給機のロータ軸及びノズルリングに打傷及び曲損を生じていることが判明し、のち損傷部品の取替えなどの修理が行われた。

(原因)
 本件機関損傷は、機関の運転管理を行う際、主機排気弁の点検が不十分で、運転時間の経過とともに2番シリンダの同弁シート部が摩耗し、2個の弁端の高さに違いが生じて弁すきまが変化し、弁押えが均等な力で同時に両方の弁端を押すことができず、弁押え及び弁棒に倒れを生じ、弁棒が弁棒案内と強く接触したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転管理を行う場合、運転時間の経過とともに主機2番シリンダの排気弁のシート部が摩耗し、2個の弁端の高さに違いが生じて弁すきまが変化することがあるから、弁すきまの変化の有無が分かるよう、定期的に弁すきまを点検するなどして排気弁の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、主機の整備は継続検査の工事で行っているので運転に異状がなければ大丈夫と思い、定期的に弁すきまを点検するなどして排気弁の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、運転時間の経過とともに前示排気弁シート部が摩耗し、2個の弁端の高さに違いが生じて弁すきまが変化していたことに気付かないまま主機の運転を続け、弁押えが均等な力で同時に両方の弁端を押すことができず、弁押え及び弁棒に倒れを生じ、弁棒が弁棒案内と強く接触する事態を招き、弁棒が開いた状態で固着し、弁傘部がピストン頂部と接触して折損するとともに、脱落した破片が過給機に侵入し、ピストン頂部に破口を、シリンダライナにかき傷を、また、過給機のロータ軸及びノズルリングに打傷及び曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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