(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年9月28日05時00分
沖縄県金武中城港
2 船舶の要目
船種船名 |
押船岬秀丸 |
総トン数 |
151トン |
全長 |
32.01メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
2,942キロワット |
回転数 |
毎分720 |
3 事実の経過
岬秀丸は、平成3年10月に進水した2基2軸の鋼製押船で、可変ピッチプロペラを有し、主機としてS社が製造した6MG28HX型と称するディーゼル機関を装備し、船橋から主機及びプロペラの翼角制御の遠隔操作ができるようになっていた。
主機は、A重油を燃料油とし、各シリンダに船尾側を1番として6番までの順番号が付され、シリンダヘッドに排気弁2個が船首方の左右両側に、吸気弁2個が船尾方の左右両側にそれぞれ直接組み込まれた、いずれもきのこ弁型の4弁式構造で、T字型形状をした弁押し金具及び同金具案内を介して排気弁2個及び吸気弁2個がそれぞれ1個のロッカーアームで駆動されていた。そして、吸気弁は、耐熱鋼を母材とし、弁傘部の弁座との当たり面(以下「シート部」という。)にステライト盛金が施されていた。
ところで、主機は、停止中にシリンダ内に残留していた燃焼生成物によって吸気及び排気弁などに低温腐食が生じ、シート部が肌荒れして当たりが不良になり、運転中に高温の燃焼ガスが吹き抜け、弁傘部が過熱されて材料疲労を生じ、ついには亀裂を生じるおそれがあり、これを防止するため、主機の使用を終了した時には、シリンダ内に残留した燃焼生成物を十分に排出できるよう、インジケータ弁を開けてエアランニングを行うなどして主機の停止後の取扱いを適切に行う必要があった。
岬秀丸は、長さ121.8メートル幅21.0メートル深さ7.0メートルのバージ開洋の船尾凹部に船首部をかん合し、同9年7月から専ら沖縄県前島の沖合で採取した海砂を同県金武中城港へ運搬する業務に従事し、長期にわたる連続した航海を行うことはなく、ほぼ毎日金武中城港に帰港し、また、揚荷及び荷下ろしにはそれぞれ約4時間を要し、この間は主機を停止するようにしていて、1箇月の主機の運転時間が約240時間であった。
A受審人は、同4年12月から一等機関士として本船に乗り組み、同9年2月に機関長に昇格して主機の運転及び保守管理に当たっていた。そして、同人は、主機の運転について、始動時にはインジケータ弁を開けてエアランニングを行っていたが、主機の使用を終了した時の停止時には無負荷で10分間の冷機運転を行い、その後インジケータ弁を微開にして停止し、遊転が止まったところで同弁を全開にしたものの、遊転中に同弁からシリンダ内の排気ガスが排出されるから大丈夫と思い、シリンダ内に残留した燃焼生成物を十分に排出できるよう、引き続いてエアランニングを行うなどして主機の停止後の取扱いを適切に行うことなく、シリンダ内に残留していた同生成物が十分に排出されないまま主機を停止していた。
このため、主機は、停止中、吸気弁のシート部に燃焼生成物が付着して低温腐食を生じるおそれのある状況にあった。
岬秀丸は、同11年4月8日に定期検査を受検し、両舷主機の全シリンダについてピストンを抜き出して整備を行い、吸気弁については全て摺り合わせを行ったものの、その後もA受審人の主機停止時の取扱いについては前示のままであったので、主機停止の度にシリンダ内の燃焼生成物が十分に排出されず、右舷主機3番シリンダの吸気弁2個に同生成物の付着によって低温腐食が生じ、同弁シート部が肌荒れして当たりが不良になり、運転中に高温の燃焼ガスが吹き抜け、弁傘部が過熱されて材料疲労を生じ、微小な亀裂が発生し始めていた。
岬秀丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、空倉のまま、船首3.5メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、海砂採取の目的で、9月28日03時50分金武中城港馬天北防波堤灯台から真方位000度1.8海里の地点の錨地を発し、前島沖合の海砂採取場へ向かった。
A受審人は、抜錨後、04時40分ごろまで甲板部の後片付けを手伝い、引き続き06時までの機関室当直に当たっていたので、入直に備えて食堂でお茶を飲みながらしばらく休憩していた。
こうして、岬秀丸は、両舷主機を回転数700の全速力前進にかけて進行中、前示吸気弁2個が弁傘部に発生していた亀裂が進展して割損し、脱落した破片の一部が排気ガスとともに過給機に侵入し、05時00分久高島灯台から真方位289度1.0海里の地点において、右舷主機が吸気圧力の低下とともに黒煙を排出し、回転が低下した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、波高1.4メートルの波浪があった。
A受審人は、右舷主機の異状に気付き、機関室に赴き、両舷主機を停止して点検したが、原因が分からず、右舷主機の運転の継続は困難と判断して事態を船長に報告した。
岬秀丸は、左舷主機だけで続航して当日に予定されていた作業を終え、その後、右舷主機を精査した結果、前示損傷のほか、過給機のロータ軸及びノズルリングに欠損を生じていることが判明し、のち損傷部品の取替えなどの修理が行われた。
(原因)
本件機関損傷は、主機の使用を終了した際、主機の停止後の取扱いが不適切で、インジケータ弁を開けてエアランニングが行われず、シリンダ内に残留していた燃焼生成物が十分に排出されないまま、停止中に右舷主機3番シリンダの吸気弁2個に同生成物の付着によって低温腐食が生じ、同弁シート部が肌荒れして当たりが不良になり、運転中に高温の燃焼ガスが吹き抜け、弁傘部が過熱されて材料が疲労したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機の使用を終了した場合、シリンダ内に残留していた燃焼生成物によって吸気弁に低温腐食が生じることがあるから、シリンダ内に残留した燃焼生成物を十分に排出できるよう、インジケータ弁を開けてエアランニングを行うなどして主機の停止後の取扱いを適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、停止直前にインジケータ弁を開けて停止すれば遊転中に同弁からシリンダ内の排気ガスが排出されるから大丈夫と思い、シリンダ内に残留した燃焼生成物を十分に排出できるよう、インジケータ弁を開けてエアランニングを行うなどして主機の停止後の取扱いを適切に行わなかった職務上の過失により、シリンダ内に残留していた燃焼生成物が十分に排出されず、停止中に右舷主機3番シリンダの吸気弁2個に同生成物の付着によって低温腐食が生じ、同弁シート部が肌荒れして当たりが不良になり、運転中に高温の燃焼ガスが吹き抜け、弁傘部が過熱されて材料疲労を生じる事態を招き、吸気弁を割損させ、さらに、過給機のロータ軸及びノズルリングを欠損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。