(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年7月10日05時20分
東シナ海
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第十二昭徳丸 |
総トン数 |
85トン |
全長 |
42.30メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
672キロワット |
回転数 |
毎分810 |
3 事実の経過
第十二昭徳丸(以下「昭徳丸」という。)は、昭和63年8月に進水し、大中型まき網漁業の灯船として船団に付属する鋼製漁船で、主機として、S社が製造した6PA5LX型と称するディーゼル機関を装備し、船橋及び機関室に主機の警報装置を備えていた。
主機の過給機は、同社製のNR20/R型と称する輻流式排気タービン過給機で、ロータ軸の中央部をメタル材質が鉛青銅の浮動スリーブ式平軸受で支持しており、同軸受は、潤滑油主管から分岐ののち過給機潤滑油調圧弁で約1.9キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧された潤滑油で潤滑されるようになっており、同圧力が1.1キロ以下に低下すると過給機潤滑油圧力低下警報が作動するようになっていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室底部に入れられた約400リットルの潤滑油が直結潤滑油ポンプに吸引加圧され、一部が遠心分離型こし器を経てクランク室に戻り、残りが潤滑油冷却器を通ったのち、主機潤滑油調圧弁を経て容量1,000リットルの循環タンクに逃がされるものと、同調圧弁によって約5.6キロに調圧されて250メッシュの潤滑油こし器を経て潤滑油主管に至るものとに分岐し、循環タンクに送られて同タンクから溢(あふ)れた潤滑油はクランク室に戻り、潤滑油主管から主機の各軸受や過給機軸受に分岐して供給された潤滑油も各部を潤滑及び冷却ののちクランク室に戻って循環し、潤滑油主管の圧力が2.7キロ以下に低下すると直結潤滑油ポンプに並列に装備された電動の補助潤滑油ポンプが自動起動し、2.0キロ以下に低下すると主機潤滑油圧力低下警報が作動するようになっており、主機計器盤には潤滑油主管及び過給機潤滑油入口の各潤滑油圧力計が装備されていた。
船団は周年東シナ海で1航海約25日間、年間11航海の操業をしており、昭徳丸は操業中昼間は魚群探索、夜間は水中灯による集魚に従事し、主機運転時間が平均で月間300ないし350時間、年間約3,500時間で、主機潤滑油は、毎年7月または8月の船体整備時に全量が取り替えられていたが、主機は回転数毎分650(以下、回転数は毎分のものとする。)程度の低負荷で運転されることが多かったこともあって、潤滑油の取替え前には汚損が進行し、潤滑油こし器の汚れが早くなる状況であった。
A受審人は、平成7年10月昭徳丸機関長として乗り組み、潤滑油の性状管理について前任機関長から1年ごとの全量取替えと2箇月ごとの潤滑油こし器及び遠心分離型こし器の掃除を引き継ぎ、それらを忠実に実施したが、潤滑油の汚損及び劣化や潤滑油こし器の汚れの進行度合いによって早期に実施することは考慮しなかった。また、航海中及び操業中は操機長と4時間交代で機関当直に当たり、全速力航海時のみ潤滑油圧力などの運転データを機関日誌に記載するようにしていたが、全速力航海そのものが少なくてほとんどその記載がなく、当直中は2時間ごとに機関室に入って巡回していたが、油や水の漏れ、異音などに注意するものの、潤滑油圧力には十分に注意を払っていなかった。
A受審人は、平成10年8月昭徳丸の中間検査において開放検査及び各警報装置など効力試験で主機に異常のないことを確認のうえ潤滑油を取り替え、以後それまでどおりの取扱いを続け、翌11年5月25日潤滑油こし器を掃除した。
昭徳丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、船首1.8メートル船尾4.2メートルの喫水で、同11年7月2日07時長崎県浜串漁港を発して東シナ海の漁場で操業に従事し、同月10日同漁場において、食料を受け取る目的で、船団の運搬船に接舷することになった。
A受審人は、同日04時操機長から機関当直を引き継ぎ、機関室に入って巡回し、潤滑油こし器は定期的に掃除しているので目詰まりして潤滑油圧力が低下することはないものと思い、主機計器盤の各潤滑油圧力を十分監視することなく、潤滑油こし器が目詰まりして潤滑油主管圧力及び過給機潤滑油圧力が異常に低下していることに気付かなかった。
ところで、昭徳丸は、いつしか過給機潤滑油調圧弁にごみを噛み込んで(かみこんで)おり、潤滑油主管圧力が正常であれば問題なかったが、潤滑油こし器の目詰まりなどによって潤滑油主管圧力が低下したときは調圧不良で1.9キロ以下となり、さらに、潤滑油主管圧力が異常に低下した場合、主機潤滑油圧力低下警報が先に作動するはずのものが、同警報が作動する前に過給機潤滑油圧力低下警報が作動する状態となっていた。
昭徳丸は、主機回転数を約650として、運搬船の船尾部に船首部を接舷しているとき、潤滑油こし器の目詰まりが進行して04時30分過給機潤滑油圧力低下警報が作動した。
船首部甲板上で食料受取り作業中のA受審人は、船橋当直者からの連絡で直ちに機関室に赴き、過給機潤滑油圧力低下警報の点灯及び補助潤滑油ポンプの自動起動を確認したが、各潤滑油圧力を確かめず、両船の運航状態から直ちに主機を停止することができないまま、両船が離れて主機を停止できるのを待つうち、2ないし3分後主機潤滑油圧力低下警報が作動したので直ちに主機を停止した。
昭徳丸は、過給機潤滑油圧力が異常に低下したまま運転が続けられたので過給機軸受及びロータ軸が焼損し、ロータ軸の降下によってインペラ、ブロワーケースなどが互いに接触し、軸封部のパッキンも損傷して過給機軸受潤滑油が同パッキン部を経て主機の給気管及び排気管に漏れ出るようになった。
A受審人は、潤滑油こし器を点検して銅色の金属粉が多量に付着しているのを認めたが、投錨の適地まで航走できるかを確かめるため、潤滑油こし器を掃除して05時主機を始動したところ、各潤滑油圧力がほぼ正常値であったので、主機回転数650ないし700で約5分間航走して投錨ののち、同時15分主機を停止し、補助潤滑油ポンプ運転のまま主機を冷機状態として主機煙突のカバーをする目的で甲板に出、煙突から出る多量の白煙に気付き、主機の異常の有無を点検する目的でエアランニングをすることとした。
こうして昭徳丸は、10日05時20分女島灯台から真方位311度26海里の地点において、主機エアランニングが実施されたところ、排気管から開弁していた1番シリンダの排気弁を経て同シリンダ内に進入していた潤滑油が指圧器弁から噴出した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、各部を点検して過給機損傷のほか主機には異常のないことを認めた。
過給機損傷の結果、主機が運転不能となり、僚船にえい航され、のち損傷部品が取り替えられて修理された。
(原因)
本件機関損傷は、機関室巡回の際、潤滑油圧力監視が不十分で、潤滑油こし器の目詰まりの進行で過給機潤滑油圧力が異常低下したまま運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、機関室を巡回する場合、潤滑油こし器の目詰まりで潤滑油圧力が低下するまま運転を続けると主機の損傷に直結するから、潤滑油圧力を十分に監視すべき注意義務があった。ところが、同人は、潤滑油こし器は定期的に掃除しているので目詰まりして潤滑油圧力が低下することはないものと思い、潤滑油圧力を十分に監視しなかった職務上の過失により、過給機潤滑油圧力が異常低下したまま運転を続け、過給機のロータ軸、軸受、インペラ、ブロワーケースなどを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。