(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月26日11時30分ごろ
鳥取県境港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十三千鳥丸 |
総トン数 |
230トン |
全長 |
50.91メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット(計画出力) |
回転数 |
毎分585(計画回転数) |
3 事実の経過
第三十三千鳥丸(以下「千鳥丸」という。)は、昭和63年5月に竣工し、まき網漁業船団に運搬船として所属する船尾船橋機関室型の鋼製漁船で、主機として、S社(以下「S社」という。)が同年3月に製造した6MUH28A型と称するディーゼル機関を装備し、主機の船尾側に逆転減速機を備えていた。
主機の潤滑油系統は、主機台板下部に配置された容量約2キロリットルのサンプタンク内の潤滑油が、潤滑油1次こし器を経て直結駆動の潤滑油ポンプ(以下「主潤滑油ポンプ」という。)または電動の予備潤滑油ポンプ(以下「予備潤滑油ポンプ」という。)で吸引・加圧され、潤滑油2次こし器及び潤滑油冷却器を順に経て主軸受などの各部に供給されるようになっており、同系統の潤滑油圧力は、主潤滑油ポンプ出口管から分岐した外径約10ミリメートルの銅管(以下「潤滑油枝管」という。)に接続された圧力検出用のマニホールド(以下「マニホールド」という。)から検出するようになっていた。
ところで、同マニホールドには、潤滑油圧力計のほか、予備潤滑油ポンプ始動用圧力スイッチ、潤滑油圧力低下警報用圧力スイッチ(以下「警報用圧力スイッチ」という。)及び潤滑油圧力低下自動停止用圧力スイッチ(以下「自動停止用圧力スイッチ」という。)が接続されていて、約4キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の潤滑油常用圧力が2.6キロに低下すると予備潤滑油ポンプ始動用圧力スイッチが、同じく2.5キロに低下すると警報用圧力スイッチが、更に2.0キロに低下すると自動停止用圧力スイッチがそれぞれ作動するようになっていた。また、主潤滑油ポンプ出口管と潤滑油枝管とは食込み継手、同スリーブ及び袋ナットで接続され、同継手部は、機関室床板下の視認困難な場所に位置していた。
千鳥丸は、鳥取県境港を基地として、東シナ海から山陰沖にかけての漁場で1航海が2週間程度の操業に従事しているうち、いつしか主機の潤滑油枝管の継手スリーブ内中央部付近に亀裂が発生して同亀裂が進行し、更に、警報用及び自動停止用両圧力スイッチの作動が経年劣化によって次第に緩慢となり、潤滑油圧力が徐々に低下した場合などにはその作動が不確実となるような状態になっていた。
A受審人は、平成11年2月に機関長として乗り組み、主機については、サンプタンクを一杯にしたうえ台板内にも550リットルほど潤滑油を張り込み、始動前には潤滑油量及び冷却水量を点検して予備潤滑油ポンプを運転し、始動後には各部を点検して圧力や温度等に異常がないことを確認するなどして運転管理に携わっており、乗船中には潤滑油消費量に異常がなく、また、主機停止後の予備潤滑油ポンプ停止時には警報装置が正常に作動することを確認していたので、潤滑油枝管に亀裂が発生していることにも圧力スイッチの作動が不確実になっていることにも気付かなかった。
こうして、千鳥丸は、A受審人ほか7人が乗り組んで操業に従事したのち、盆休みのため船団の僚船と共に基地に帰港し、同年8月11日23時20分境港内の境水道大橋橋梁灯(C1灯)から真方位259度780メートルの岸壁に着岸した。
着岸後、A受審人は、他の乗組員と共に帰宅して休暇をとり、同月17日から20日まで主機空気冷却器の陸揚げ整備や機関室内ビルジ配管の取替え工事などに立ち会い、同工事中に機関室船尾のビルジウエルに油の浮いたビルジが多量に溜まっているのを認めたので、ビルジ警報のブザースイッチを切にしていたところ、翌21日に帰船して船内電源を入れた際、ビルジの警報ランプが点灯しているのを認めて廃油業者にビルジの陸揚げを依頼したが、陸上の受入れ施設に余裕がないとの連絡を受けたので同ビルジをそのままの状態にしていた。また、同人は、同日主機台板内の潤滑油約550リットルの取替え作業に立ち会ったのち1時間ばかり主機の試運転を行い、越えて25日朝にも1人で帰船し、翌日の出漁に備えて同じく1時間ばかり主機の試運転を行って異常がないことを確認した。
翌26日千鳥丸は、15時に予定されていた出漁に備え、A受審人ほか4人が乗り組み、船首尾とも2.0メートルの喫水をもって、05時40分主機を始動して岸壁を離岸した。
A受審人は、いつもどおり主機の始動前に潤滑油量を点検して予備潤滑油ポンプを自動で運転し、始動後に圧力や温度等に異常がないことを確認したのち甲板作業に従事した。その後、同人は、移動した昭和町の岸壁で砕氷の積込み作業を行い、09時00分ごろ外港1号上屋岸壁に着岸した際、主機を一旦停止し、網船の漁網積込み作業を手伝ったのち11時00分ごろ自船に戻って主機を再始動したが、その際、既に同日朝の始動時に潤滑油量を点検して異常がないことを確認していたこともあって潤滑油量の再点検を行わなかったので、いつしか潤滑油枝管の亀裂が進行して同管が切損し、潤滑油が機外に漏出してサンプタンク内の潤滑油量が著しく減少していることに気付かなかった。
千鳥丸は、出漁時刻まで接舷して待機する予定の僚船に向かい、同船に接近したところで主機を無負荷運転とし、船長が操舵室で操舵操船に、A受審人と一等機関士及び甲板員2人が甲板上で接舷作業にそれぞれ従事中、主機の潤滑油量が更に減少して同油圧力が低下したが、警報用圧力スイッチも自動停止用圧力スイッチも共に作動しないまま更に同油圧力が低下し、11時30分ごろ境水道大橋橋梁灯(C1灯)から真方位257度590メートルの地点において、主機の主軸受やクランクピン軸受が潤滑阻害によって焼き付くなどし、機関室囲壁上部の主機クランク室ミスト抜き管から白煙が噴出した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、港内は穏やかであった。
A受審人は、一等機関士と共に機関室に急行したところ、予備潤滑油ポンプが運転中で、警報装置が作動していないにもかかわらず主機が過熱しているのを認めたので、直ちに主機を停止した。
損傷の結果、千鳥丸は、主機の運転が不能になり、出漁を取り止めて主機製造業者に精査させたところ、クランクピン軸受及び主軸受が焼損していたほか、連接棒、クランク軸及び台板等にも損傷が発見されたので、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。
また、警報用圧力スイッチ及び自動停止用圧力スイッチの作動確認を行った結果、両スイッチが共に作動しないときがあるなど、その作動が不確実な状態になっていることが判明したので、両圧力スイッチを新替えした。
(原因)
本件機関損傷は、主機の運転中、主潤滑油ポンプ出口管から分岐した潤滑油枝管が継手内で切損して潤滑油が機外に漏出し、サンプタンク内の潤滑油量が著しく減少して同油圧力が低下した際、警報用及び自動停止用の両圧力スイッチが共に作動しなかったことにより、機関各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、主機の再始動に当たって潤滑油量を点検しなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、A受審人の所為は、同日朝の主機始動時に潤滑油量を点検して、油量及び消費量に異常がないことを確認していた点に徴し、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。