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平成12年神審第146号
件名

漁船第二十一末廣丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年3月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西林 眞、黒岩 貢、小須田 敏)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第二十一末廣丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
潤滑油ポンプの両歯車、軸受ブッシュ及びポンプケーシングが損傷

原因
主機直結潤滑油ポンプの整備不十分

主文

 本件機関損傷は、主機直結潤滑油ポンプの整備が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年4月23日13時10分
 和歌山県樫野埼沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十一末廣丸
総トン数 74トン
全長 28.30メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 507キロワット(定格出力)
回転数 毎分680(定格回転数)

3 事実の経過
 第二十一末廣丸(以下「末廣丸」という。)は、遠洋まぐろ延縄漁業に従事する平成5年4月に進水したFRP製漁船で、主機としてR社が同年に製造したM220−EN2型クラッチ式逆転減速機付ディーゼル機関を装備し、操舵室に計器類と潤滑油圧力低下及び冷却清水温度上昇などの警報装置を組み込んだ主機遠隔操縦装置を備え、同室から主機の回転数制御及び同減速機の前後進切換操作ができるようになっていた。
 主機の潤滑油系統は、クランク室底部の油だめ(張込み量約200リットル)の潤滑油が、直結の歯車式潤滑油ポンプ(以下「潤滑油ポンプ」という。)によって吸引加圧され、複式こし器及び油冷却器を経て入口主管に至り、同主管から主軸受、クランクピン軸受、伝導歯車装置及びカム軸などに分岐し、各部を潤滑あるいは冷却して再び油だめに戻る主経路と、潤滑油ポンプ出口で分岐した同油が、主機の左舷上方に設置された容量400リットルのサンプタンクに送られて静置され、オーバーフロー油が油だめに落ちる側流経路とを設けていたほか、主機始動前のプライミング等に使用する目的で、電動予備潤滑油ポンプが備えられ、油だめから主経路に送油されるようになっていた。
 また、主機は、運転中の潤滑油圧力が入口主管で4.4キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)になるよう圧力調整弁で調圧されており、同圧力が2.0キロに低下すると同油圧力低下警報装置が作動し、機関室のベル及び操舵室のブザーが吹鳴するようになっていた。
 ところで、主機の潤滑油ポンプは、駆動歯車及び従動歯車の両歯車軸端がそれぞれポンプケーシング及びケーシングカバーの軸受穴に圧入した軸受ブッシュで支持されている構造で、クランク軸前部端から伝導歯車装置を介して駆動されており、歯車及び軸受ブッシュなどの摩耗が進行すると、吐出能力が低下して主機各部の潤滑を阻害するおそれがあることから、主機メーカーでは、ポンプケーシングと歯車との間隙及び軸受ブッシュ内径などの最大許容値を規定し、運転時間8,000ないし10,000時間ごとに主要部を開放のうえ、点検するよう取扱説明書に記載していた。
 末廣丸の所有者でもあるA受審人は、新造時から機関長として乗り組み、機関の運転と保守管理に当たり、主機の使用回転数を毎分700までとして年間10,000時間程度運転し、毎年入渠した際に、ピストン、吸・排気弁、燃料噴射弁及び過給機などを整備するほか、3箇月ごとに潤滑油を全量取り替え、潤滑油こし器を2週間ごとに1度、または差圧が0.5ないし0.6キロに上昇する都度開放掃除を行っていたものの、潤滑油ポンプについては、平成9年7月に定期検査のため開放したのみで、歯車及び軸受ブッシュなどは取り替えておらず、その後も定期的な点検を行っていなかった。
 末廣丸は、中部太平洋を主たる漁場として1航海が約40日間の操業を行い、国内諸港に生まぐろの状態で水揚げすることを通年繰り返しているもので、A受審人ほか8人が乗り組み、同11年3月28日千葉県銚子港を発し、4月2日マリアナ諸島北西沖合の漁場に至って操業を繰り返し、同月17日02時ごろ操業を終え、水揚げのため、主機を回転数毎分680にかけて和歌山県勝浦港に向かった。
 A受審人は、航行中、燃料油サービスタンクの油量確認やビルジ量点検のため、3ないし4時間ごとに機関室の巡視を行っており、その際、銚子港を出港したときには約4.3キロであった主機の潤滑油圧力が低下しているのを認めたため、圧力調整弁を徐々に締め込んだり、こし器の開放掃除を繰り返したものの圧力が上昇せず、そのうち同器に黄色味を帯びた金属粉が付着し始め、潤滑油ポンプが異音を発するようになったことから、同ポンプが不調になったものと考え、同月21日機械販売業者に同ポンプ仕組を発注し、同圧力が3キロまで低下する状況で翌22日17時35分勝浦港に入港した。
 そして、A受審人は、機械販売業者から潤滑油ポンプ仕組の納入に2ないし3日要するとの連絡を受けたが、早く基地としている徳島県宍喰港に戻って乗組員を自宅に帰してやりたいこともあり、それまで潤滑油圧力低下警報装置が作動していなかったので、主機の回転数を少し減じて運転すれば大丈夫と思い、同ポンプ仕組が入手できるまで停泊したうえ、勝浦港において整備を行うことなく、同ポンプの歯車及び軸受ブッシュなどが損傷したまま、水揚げを終えて出港することとした。
 こうして、末廣丸は、宍喰港に回航する目的で、翌23日11時00分勝浦港を発し、強風、波浪注意報が発表されている状況下、主機の回転数を毎分600にかけて航行中、潤滑油ポンプの歯車及び軸受ブッシュなどの損傷が進行するとともに潤滑油圧力が著しく低下するようになり、やがて主機の主軸受及びクランクピン軸受などが油膜切れを起こして焼き付き始め、13時10分樫野埼灯台から真方位178度1.2海里の地点において、同油圧力低下警報装置が作動した。
 当時、天候は雨で風力6の東北東風が吹き、海上はしけていた。
 機関当直中であったA受審人は、警報ベルの吹鳴により、主機潤滑油圧力が1.5キロ以下に低下していることを認め、直ちに電動予備潤滑油ポンプを始動したものの同圧力が上昇せず、こし器に多量の金属粉が混入し、主機全体が過熱していたことから、13時20分運転不能と判断して主機を停止したうえ、勝浦漁業協同組合に救助を要請した。
 末廣丸は、漂流状態となったものの、和歌山県大島周辺の暗礁に接近することから、主機の発停を繰り返しているうち、同日15時10分来援した巡視艇により曳航され、潮岬半島西側の袋湾で錨泊したのち、翌24日朝引船により勝浦港に引き付けられ、同港において、主機各部を精査した結果、潤滑油ポンプの両歯車、軸受ブッシュ及びポンプケーシングが損傷していたほか、すべての主軸受及びクランクピン軸受並びにクランク軸及び台板なども損傷していることが判明し、のち損傷部品をすべて新替えして修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の潤滑油圧力が次第に低下して、潤滑油ポンプが異音を発する状況で和歌山県勝浦港に入港した際、同ポンプの整備が不十分で、歯車及び軸受ブッシュなどが損傷したまま同港を出港し、潤滑油圧力の著しい低下により、主機各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の潤滑油圧力が次第に低下して、潤滑油ポンプが異音を発する状況で勝浦港に入港した場合、歯車及び軸受ブッシュなどが損傷していて吐出能力が著しく低下していたから、同港において同ポンプの整備を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで潤滑油圧力低下警報装置が作動していなかったので、主機の回転数を少し減じて運転すれば大丈夫と思い、発注した潤滑油ポンプ仕組が入手できるまで停泊したうえ、勝浦港において同ポンプの整備を行わなかった職務上の過失により、出港後に同ポンプの損傷が進行して潤滑油圧力の著しい低下を招き、すべての主軸受及びクランクピン軸受並びにクランク軸及び台板などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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