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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年横審第19号(第1)
平成12年横審第20号(第2)
件名

(第1) 漁船第二十八常磐丸機関損傷事件
(第2) 漁船第二十八常磐丸機関損傷事件

(第1・第2)
事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年3月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(吉川 進、半間俊士、平井 透)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第二十八常磐丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
6番シリンダのピストンとシリンダライナが損傷

原因
こし器エレメントのガスケットの装着状態の確認不十分

(第2)
指定海難関係人
B 職名:株式会社R原動機事業部太田工場 品質管理室技術サービス課主

損害
6番ピストンとシリンダライナの過熱、損傷

原因
潤滑油系統の調査不十分

主文

(第1)
 本件機関損傷は、主機潤滑油こし器の開放掃除の際、こし器エレメントのガスケットの装着状態の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
(第2)
 本件機関損傷は、主機の焼損したピストンが予備品と取り替えられた際、機関製造業者のサービス担当者が、潤滑油系統の調査が不十分で、潤滑油こし器エレメントのガスケットの破片が主機主軸受の潤滑油だまりに残ったまま、試運転が行われたことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
(第1)
 平成11年7月9日08時10分
 中部太平洋
(第2)
 平成11年7月19日12時45分
 ミクロネシア連邦カロリン諸島ポナペ港沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八常磐丸
総トン数 349トン
全長 63.24メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
回転数 毎分540

3 事実の経過
 第二十八常磐丸(以下「常磐丸」という。)は、平成10年6月に進水した、大中型まき網漁業に従事する、全通2層甲板型の鋼製漁船で、船首に機関室を配置し、主機としてR社(以下「R社」という。)が製造した6MG34HX型と呼称するディーゼル機関を備えていた。
 機関室は、下段中央に主機が、その両舷に補機がそれぞれ据え付けられていたほか、ポンプ、冷却器類をそれぞれ配置し、上段に冷凍装置関連の機器を、船首寄りの制御室内に主配電盤、制御盤などをそれぞれ配置していた。
 主機は、トランクピストン型で、船尾側を1番として順にシリンダ番号が付され、一体鋳造のシリンダブロックの下面に吊下げ式の主軸受を備え、同ブロック下部に鋼板溶接構造のオイルパンを取り付けてクランクケースとし、同ブロック右舷側のクランク点検蓋には、偶数番号シリンダに圧力逃がしのための安全蓋を取り付けていた。また、同ブロックの仕切壁内には主軸受への潤滑油穴が貫通し、7番主軸受への同穴からカム軸給油穴への連絡管が取り付けられ、クランク軸のジャーナル部とクランクピン部との間、及び連接棒内大端部と小端部との間にも潤滑油穴を有していた。
 主機の潤滑油系統は、機関室二重底の潤滑油サンプタンク(以下、潤滑油系統の機器及び装置については潤滑油を省略する。)中の潤滑油が、主機直結ポンプまたは電動補助ポンプによって吸引、加圧されたものが冷却器及びこし器を経て潤滑油主管に入り、主軸受、カム軸受、伝動歯車などに分岐して各部の潤滑をするほか、主軸受からクランク軸、クランクピン軸受及び連接棒を経由して連接棒小端部からピストン内面に噴出してピストンを冷却し、潤滑及び冷却を終えた潤滑油がクランク室下部のオイルパンに集まり、再びサンプタンクに戻るようになっていた。
 こし器は、ろ過能力が30ミクロンのノッチワイヤ式エレメントを2組内蔵し、切替コックによって逆洗操作の可能なもので、通常は両エレメントが並列使用され、鋳鉄製本体の上に内径250ミリメートル(以下「ミリ」という。)高さ756ミリの筒形ケーシングを載せてエレメント室を形成し、その内側に外径202ミリ高さ800ミリのエレメントを収めて蝶ナットで締め付け、同ケーシングにエンドカバーをかぶせた構造になっており、エレメントの着座部には内径169ミリ外径200ミリ厚さ2ミリの、ニトリルゴムにコルク粒子を混ぜ合わせた材質のガスケットが挟まれていた。
 A受審人は、常磐丸の建造中から艤装に携わったのち、平成10年9月就航と同時に機関長として乗船し、機関の運転と整備を管理するなかで、主機の運転時間の増加に伴い、こし器を逆洗してもその後短時間で潤滑油圧力が低下するようになったので、3週間ないし1箇月の航海毎にこし器を開放してエレメントを洗浄済みのものと交換することとしたが、交換作業にあたってエンドカバーを外したのち筒形ケーシングから潤滑油を抜き取らないまま、エレメントの取出しと予備エレメントの取付けを繰り返し、こし器エレメント着座部にガスケットが取り付けられていることに思いが至らなかった。
 常磐丸は、A受審人ほか20人が乗り組み、船首3.22メートル船尾5.71メートルの喫水をもって、平成11年6月16日19時20分鹿児島県枕崎港を出港し、同月24日00時25分中部太平洋ミクロネシア周辺の漁場に至って、予め流してあった人工魚礁を接舷させて漂泊し、操業準備にとりかかった。
(第1)
 A受審人は、同日00時50分ごろ、主機を停止してこし器を開放し、それまでに乗船した船と同様に潤滑油をケーシングに溜めたままでエレメントを取り出し、予備のエレメントを取り付けるに当たってガスケットの装着状態を確認することなく、蝶ナットでエレメントを締め付け、エンドカバーをかぶせて復旧したが、こし器エレメント着座部の溝からガスケットがはみ出していることに気付かないまま、電動補助ポンプを始動したのち主機を始動した。
 常磐丸は、主機の運転が続けられ、操業を繰り返すうち、はみ出していたガスケットが潤滑油の流れに叩かれて疲労し、同部分が破損してガスケットの破片がこし器出口側に流出し、主機の潤滑油主管からシリンダブロックの6番主軸受潤滑油穴に侵入して、同主軸受上メタルの油穴の一部を閉塞し、クランク軸を経て6番シリンダ連接棒の上端から噴出するピストン冷却油が減少する状況となった。
 常磐丸は、越えて7月9日07時00分網揚げを終了して主機を回転数毎分510(以下、回転数は毎分のものとする。)にかけて次の漁場に移動を開始し、520回転まで増速したところ、冷却不足となった6番ピストンが過熱膨張してシリンダライナと金属接触し、08時10分北緯04度34分東経178度27分の地点で、同ピストンのガスが吹き抜けて潤滑油ミストに引火し、クランク室で爆発を生じた。
 当時、天候は晴で風力3の東風が吹いていた。
 A受審人は、爆発音を聞いて軸室から機関室に赴き、主機周辺に青白い燃焼ガスが立ちこめていたので安全蓋の作動に気付いて、まもなく主機を停止し、クランクケース蓋を開放して点検したのち、6番シリンダのピストンとシリンダライナが損傷しているのを認め、主機のターニングをしながら、他のシリンダを点検して異状がないと判断し、同シリンダのピストンを抜き出したうえで、船舶電話でR社の担当者と相談しながら減筒運転の準備を行い、翌10日07時30分主機を始動した。
 常磐丸は、6番シリンダを除く5シリンダで主機を350回転にかけて運転し、ミクロネシア連邦カロリン諸島ポナペ港に向かい、主機のこし器エレメントをほぼ毎日取り替えながら航行し、同月17日早朝に僚船と会合し、予め貸与を依頼してあったシリンダライナの予備品を受け取り、同日16時、ポナペ港に入港し、修理の準備に入った。
(第2)
 常磐丸は、翌18日、修理のためにB指定海難関係人とともにR社から派遣された太田工場の組立課班長と機関部メンバーが、6番シリンダヘッドを再び取り外して減筒運転の状態を解除し、予備のシリンダライナ、ピストン及び連接棒を組み立てる作業に取りかかり、同時にB指定海難関係人が同メンバーに依頼して1ないし5番シリンダの燃料噴射弁を抜き出し、噴射テストを行わせたが、いずれも異状のないことが確認された。
 B指定海難関係人は、更に6番シリンダライナの冷却水側の状態とピストンの焼損状態を観察して、シリンダライナ側の冷却水不足による過熱と、燃焼室側の異常燃焼による過熱はなかったことを確信したものの、ピストンスカート上部の金属接触の痕(あと)がリングランド全体に広がっていて過熱によるものと思えず、また、クランク軸及び連接棒の油穴とプラグの状態に異状がなかった点、主軸受の端部に垣間見る(かいまみる)クランクジャーナルに焼けた痕が見られなかった点などから、冷却油不足の疑いをはっきり想定できず、その当日が日曜日で工場が休日であったことから、電話で上司に相談することを控えた。また、こし器の汚れ具合を一等機関士に尋ねたところ、異状ないとの返事があったので、自らこし器を開放するなど、潤滑油系統を十分に調査することなく、こし器エレメントのガスケットが破損していることを見逃がし、同ガスケットの破片がクランク軸及びカム軸の油穴に残ってピストン冷却油が不足している状態に気付かなかった。
 B指定海難関係人は、6番シリンダの主要部にピストン焼損につながる異状を見出だせなかったので、組立課班長にシリンダライナ、ピストン仕組及びシリンダヘッドの組立てを行わせ、翌19日早朝1ないし5番シリンダヘッドの燃料噴射弁取付穴からファイバースコープを挿入して燃焼室内を点検して異状がないことを確認したのち、電動補助ポンプを運転して潤滑油を流したうえで、6番シリンダのピストン内側から流下する潤滑油の量を目視で5番シリンダと比較して潤滑油量に問題ないと思い、まず無負荷で運転し、その後負荷を徐々に上げて運転音などで損傷の原因を判断してみようと考え、A受審人に試運転を申し入れた。
 A受審人は、原因が特定できないまま運転をしても大丈夫か問い返したが、B指定海難関係人が運転してみて原因が分かるかもしれないと主張したので、専門家に任せるほかないと考え、試運転を承諾した。
 常磐丸は、同日08時00分から主機が始動され、係留したまま無負荷で5分間運転の後いったんクランク点検が行われ、再始動ののち順次回転数を600まで増加し、合計2時間の無負荷運転が行われたが、特に異状がなかったので、B指定海難関係人から負荷をかけてみたい旨の申し出がなされ、A受審人がはっきり異論を出せないまま、港外に出て負荷運転を行うこととなった。
 こうして、常磐丸は、A受審人ほか20人並びにB指定海難関係人及び組立課班長が乗り組み、船首3.44メートル船尾6.43メートルの喫水をもって、11時30分主機試運転のためにポナペ港を発し、段階的に負荷を増加し、港外に達したのち520回転を過ぎたころ、6番ピストンが冷却不足となって過熱し、12時45分ポナペ立標から真方位000度4海里の地点において、同ピストンがシリンダライナと金属接触して主機が振動し、続いて潤滑油ミストに引火し、クランク室で爆発を生じた。
 当時、天候は雨で風がなく、海上は穏やかであった。
 常磐丸は、直ちに主機が停止され、クランクケースが開放されて6番ピストンとシリンダライナの過熱、損傷が確認されたので、航行不能と判断され、間もなく降下された自船の搭載艇にえい航されてポナペ港に引き付けられた。
 B指定海難関係人は、6番ピストンスカート上部が局部的に過熱していることを認めて、冷却油量の不足と確信し、潤滑油主管を取り外して主軸受潤滑油穴にファイバースコープを挿入し、6番主軸受上メタルの油だまりにガスケットの破片を発見し、更に1番主軸受メタル、カム軸給油穴にも詰まっていたので、同破片をそれぞれ回収した。
 A受審人は、こし器を開放して筒形ケーシングを外し、エレメント着座部のガスケットが失われているのを認め、こし器出口側付近に引っかかっているガスケット2枚のうち1枚の半分ほどを回収した。
 常磐丸は、潤滑油配管の閉塞物がすべて除去されたうえで、再び6番シリンダのピストン仕組、シリンダライナが別の予備品に取り替えられ、こし器のエレメント底部にガスケットが張りつけられるよう改造された。
 B指定海難関係人は、本件後、損傷した機関の点検に際して関連箇所を自ら開放して内部を確認するよう努め、本件を社内での事例教育に取り上げるなど、原因調査の手段を尽くすこととした。

(原因)
(第1)
 本件機関損傷は、こし器の開放掃除の際、こし器エレメントのガスケットの装着状態の確認が不十分で、同ガスケットが着座部の溝からはみ出したままこし器が復旧され、主機を運転中、潤滑油の流れに叩かれて破損したガスケットの破片が主機主軸受の潤滑油だまりに詰まり、ピストン冷却が阻害されたことによって発生したものである。
(第2)
 本件機関損傷は、主機の焼損したピストンが予備品と取り替えられた際、機関製造業者のサービス担当者が、潤滑油系統の調査が不十分で、こし器エレメントのガスケットの破損が見過ごされ、同ガスケットの破片が主機主軸受の潤滑油だまりに残ったまま、試運転が行われたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
(第1)
 A受審人は、主機の潤滑油の性状管理に当たって、こし器を定期的に開放して予備のエレメントと取り替える場合、それまで乗船した船ではこし器エレメントにガスケットが装着されていたのであるから、同エレメントを取り付けるときに外れないよう、同エレメントのガスケットの装着状態を確認すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同ガスケットの装着状態を確認しなかった職務上の過失により、同ガスケットが着座部の溝からはみ出したままエレメントを取り付け、はみ出したガスケットが潤滑油の流れに叩かれて破損したのち、潤滑油管に流れ出したガスケットの破片が6番主軸受に侵入し、ピストン冷却が阻害されて6番ピストンが過熱する事態を招き、同ピストンが膨張してシリンダライナとかじり付き、主機が運転不能となるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。
(第2)
 B指定海難関係人が、主機の焼損したピストンが予備品と取り替えられた際、こし器を自ら開放するなど、潤滑油系統を十分に調査しなかったことは、主機主軸受にこし器エレメントのガスケットの破片が閉塞していることを見逃すことにつながったものであり、本件発生の原因となる。
 同人に対しては、本件後、損傷した機関の点検の際、関連箇所を自ら開放して内部を確認するよう努め、本件を社内での事例教育に取り上げるなど、原因調査の手段を尽くしていることに徴し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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