(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年8月19日09時00分
北太平洋中部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三十三海周丸 |
総トン数 |
19.94トン |
登録長 |
14.91メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
558キロワット |
回転数 |
毎分1,400 |
3 事実の経過
第三十三海周丸(以下「海周丸」という。)は、昭和48年9月に進水した、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、主機として平成3年7月に換装したR社製造の6N160−EN型と称するディーゼル機関を装備していた。
主機は、船首側から順にシリンダ番号が付され、一体鋳造の鋳鉄製ピストンが、シリンダライナ下部のシリンダブロックに取り付けられたオイルジェット金具から噴出する潤滑油がピストン内面を冷却するようになっていた。
主機の潤滑油系統は、クランクケースの潤滑油が潤滑油ポンプ(以下、潤滑油系統の機器の名称については、潤滑油を省略する。)に吸引され、5ないし6キログラム重毎平方センチメートル(以下、圧力はキロで示す。)に加圧され、複式こし器及び冷却器を経て、主軸受、カム軸受、弁腕装置などの潤滑油とピストン冷却油に分かれ、潤滑と冷却を終えたものが再びクランクケースに戻るようになっており、冷却器の出口に圧力調整弁を有するほか、潤滑油圧力が2キロ以下に低下すると機関警報盤で警報を発するようになっていた。
A受審人は、平成10年7月31日に前任者から引継ぎがないまま機関長として乗船し、また機関日誌の記載の内容も確認しないまま、翌8月1日に主機の潤滑油をすべて取り替え、こし器を掃除して出港準備を終えた。
ところで、主機は、平成8年6月にピストン抜き整備が行われて以来、運転時間が13,000時間を超え、ピストンリング及びオイルリングの摩耗が進行して潤滑油のかき揚げ量が増加するとともに、燃焼ガスの吹き抜けが生じ始めていたうえ、潤滑油圧力が適正に調整されていなかったので、圧力低下警報が吹鳴しなかったものの、運転中の潤滑油圧力が2.6キロほどに低下し、ピストン冷却油量が不足気味となっていた。
海周丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、平成10年8月2日08時30分、操業の目的で、塩釜港を発し、漁場に向かった。
A受審人は、出港後、主機の潤滑油圧力がそれまで乗船した船の同圧力より少し低かったが、同程度なので大丈夫と思い、同圧力を適正な値に調整しなかった。
海周丸は、潤滑油圧力が2.6キロばかりに低下したまま主機が運転され、同月6日13時ごろ三陸東方沖600海里ほどの漁場に至り、翌7日早朝から操業を繰り返し、同月19日05時ごろ第12回目の操業に取りかかり、主機を毎分回転数1,150にかけてはえ縄を投入していたところ、潤滑油圧力が更に低下して3番シリンダのピストンが冷却油量不足となって過熱し、09時00分北緯37度14分東経156度08分の地点で、同シリンダのピストンスカートがピストンピンボス付近で割れ、異音を発した。
当時、天候は晴で風力1の南風が吹いていた。
A受審人は、金属的な叩き音を聞き、しばらくして主機を停止し、各部を点検してこし器に金属片と金属粉を認め、主機の異状を船長に報告したところ、投入したはえ縄を揚げることとなったので、主機を再始動して回転数毎分800にかけ、翌20日00時10分ごろ揚げ縄作業を終えて同回転数のまま航行を開始し帰港の途に就いた。
海周丸は、ピストンの割損時に破片を噛み込んだかして3番シリンダライナに亀裂を生じ、冷却水がクランクケースに入って潤滑油が乳化し、翌21日23時ごろ潤滑油圧力が低下して警報が吹鳴したので、A受審人が潤滑油の取替えと冷却水の補給を行って航行を続けたが、翌22日05時30分3番シリンダのプッシュロッドが折れて主機が運転不能となり、近くの僚船に応援を求め、越えて25日早朝塩釜港に引き付けられ、のち損傷した3番ピストン、同連接棒、同シリンダライナ、同クランクピン軸受などが取り替えられた。
(原因)
本件機関損傷は、主機のピストンリング及びオイルリングが摩耗し、燃焼ガスが吹き抜けたこと及び潤滑油圧力が適正な値に調整されず、ピストン冷却油量が不足したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、主機の潤滑油圧力を適正な値に調整しなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、主機がピストン整備を要する状態になっていたこと及び前任者から引継ぎがないまま乗船し、その直後であったことに徴して、職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。