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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年函審第68号
件名

漁船第二十八大忠丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年3月13日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(大山繁樹、酒井直樹、織戸孝治)

理事官
里 憲

受審人
A 職名:第二十八大忠丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B 職名:R社主任

損害
6番シリンダライナ内部に焼付きの痕跡

原因
ピストン及びシリンダライナの点検を助言しなかったこと

主文

 本件機関損傷は、メーカーの技術サービス員が、ピストン及びシリンダライナの点検を助言しなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年12月23日22時00分
 北海道稚内港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第二十八大忠丸
総トン数 160トン
全長 38.12メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
回転数 毎分720

3 事実の経過
 第二十八大忠丸は、平成元年12月に進水し、沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、主機として、Q社(以下「メーカー」という。)が同月に製造した6U28型と呼称するトランクピストン型ディーゼル機関を装備し、各シリンダには船首側を1番として順番号を付し、また、推進器として可変ピッチプロペラを備え、船橋から主機回転数及びプロペラ翼角の遠隔操作ができるようになっていた。
 主機は、負荷制限を施して計画出力1,029キロワット同回転数毎分640(以下、回転数は毎分のものを示す。)として登録されたもので、本船では、負荷制限を解除して原型機関同等の出力及び回転数で運転されていた。
 主機ピストンは、鍛鋼製のピストンクラウン(以下「クラウン」という。)と鋳鉄製のピストンスカート(以下「スカート」という。)とをボルトで連結した組立式のもので、クラウン側に3本の圧力リングを、スカートの上端及び下端に各1本の油かきリングをそれぞれ装着しており、下端の油かきリング(以下「下部油かきリング」という。)は、鋳鉄製の断面形状がベベルカッタ形のものであり、また、シリンダライナは、鋳鉄製で内面にクロムメッキが施され、ピストンとシリンダライナの摺動面の潤滑がシステム油のはねかけによって行われていた。
 B指定海難関係人は、昭和49年にメーカーに入社し、技術サービス員として主に機関整備を担当し、本船については、毎年7ないし9月の休漁期間中に行われる機関整備に立ち会っていたもので、平成9年9月に行われた第3回定期検査工事では全ピストンのピストンリングを新替えし、翌10月から操業を続けていたところ、同年12月に2番シリンダのスカート及びシリンダライナの摺動面にスカッフィングを生じたが、これより前の同7年9月にも1番シリンダにおいて同様の事故が発生したことがあり、いずれの事故も原因として下部油かきリングによる潤滑油のかき落としの多いことが考えられたことから、シリンダライナの油膜保持のため全ピストンの油かきリングを標準面圧3.0キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力単位をキロという。)から1.7キロのものに交換した。
 ところでメーカーは、本船と同型の6U28型機関において、スカートとシリンダライナの摺動面が潤滑不良でスカッフィングを生じて焼き付く事故が多発したので、スカッフィング対策として下部油かきリングをスカート上端に上げ、2本の油かきリングが並ぶようにピストンの設計を変更し、同8年ごろから新規製造の機関から適用したうえ、稼働中の機関についても同10年3月に「6U28−2000PS新開発ピストン」と題する通知書を各営業所宛に発行し、改良型ピストンへの交換を推奨していた。
 A受審人は、本船に就航以来機関長として乗り組み、機関の保守整備に当たっていたところ、第3回定期検査後2年目に当たる同11年8月に稚内市内の造船所で合入渠工事を施工することになったが、主機の開放整備については、船舶安全法の改正によって定期検査の周期が5年となったことに関連して、同定期検査後3年目に当たる同12年7月の中間検査の際に行うことにしており、また、B指定海難関係人からは改良型ピストンについての情報を知らされていなかったことや、このころ主機の年間運転時間が最盛期に比べ半減していることなどから、同入渠工事でピストン抜きなどの整備を行わなかった。
 一方、B指定海難関係人は、同入渠工事施工に当たり、6U28型機関搭載船においてピストンにスカッフィングの発生が多発していたのを知っており、同10年3月にメーカーからの改良型ピストンに関する前記通知書を入手し、また、同年6月に他営業所担当の同型機関でピストンを改良型と交換したことを聞き、自分が担当する稼働機についても同様の措置をとる必要があると判断していたが、本船については、1年後の同12年7月の中間検査の際に実施することとし、スカッフィング発生を防止するため、ピストン及びシリンダライナの点検を助言しなかった。
 そのため油かきリングは、約2年間使用されているうちに摩耗して油かき面が鋭くなり、潤滑油のかき落としが多い状態となっていたが、交換または油かき面の面取り調整が行われず、同入渠工事を終えて同11年10月から操業を開始したところ、各シリンダにおいて、下部油かきリングの摩耗が進行するにつれて次第に油かき面が鋭くなり、シリンダライナに付着する潤滑油がかき落とされ過ぎて、負荷が高いときにはピストン側圧も加わって、スカートとシリンダライナの摺動面に必要な油膜が保持されなくなるおそれがあった。
 本船は、同年12月23日北海道稚内港において未明から荒天のため出漁を見合わせていたところ、夕刻から天候が回復してきたので出漁することになり、16時30分運転中の主発電機原動機の冷却水を主機へ循環させ、21時10分A受審人が主機を始動して暖機運転を行った。
 こうして本船は、A受審人ほか17人が乗り組み、操業の目的で、船首1.8メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、21時45分、稚内港第一副港岸壁を発して野寒布岬北方の漁場へ向かい、主機回転数及びプロペラ翼角を平素のルーティンどおりに上げながら港内を航行し、同時55分ごろ北防波堤入口を航過して主機回転数710プロペラ翼角19度の航海全速力に設定したところ、6番シリンダにおいて、下部油かきリングの摩耗が進行してシリンダライナに付着する潤滑油が不足気味となったところへ、負荷上昇に伴う側圧の増大がきっかけとなって、スカートとシリンダライナの摺動面の油膜が破壊されてスカッフィングを生じ、22時00分、稚内港北副防波堤東灯台から真方位058度300メートルの地点において、主機が異音を発するようになった。
 当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、海上は平穏であった。
 A受審人は、主機ハンドル前で運転状態を監視中、異音を聴いて直ちに主機を停止し、クランク室内を点検して6番シリンダライナ内部に焼付きの痕跡を認め、運転継続は困難と判断した。
 本船は、救助を求め、引船によって稚内港内の造船所に引き付けられ、B指定海難関係人立ち会いのもとで、6番シリンダのピストン及びシリンダライナを新替えし、その際、スカッフィング防止の応急措置として、同ピストンに下部油かきリングを装着せず、他シリンダのピストンについては、下部油かきリングの油かき面を面取り修正して修理を終え、その後操業を続けて同12年7月の中間検査工事で全ピストンを改良型に交換した。

(原因)
 本件機関損傷は、メーカーの技術サービス員が、同型機関においてピストンスカートにスカッフィングの発生が多発し、メーカーから改良型ピストンへの交換の推奨を受けている状況のもと、定期検査後2年目の合入渠工事施工の際、ピストン及びシリンダライナの点検を助言せず、摩耗が進行して油かき面が鋭くなった下部油かきリングの交換または面取り調整が行われなかったことから、同リングの摩耗が進行するにつれシリンダライナに付着する潤滑油がかき落とされ過ぎて、ピストンスカートとシリンダライナの摺動面が潤滑不良となったことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B指定海難関係人が、同型機関においてピストンスカートにスカッフィングの発生が多発し、メーカーから改良型ピストンへの交換の推奨を受けている状況のもと、定期検査後2年目の合入渠工事施工の際、ピストン及びシリンダライナの点検を助言しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、本件後、全ピストンを改良型に交換した点に懲し、勧告しない。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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