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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年函審第75号
件名

油送船北南丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年3月5日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(大山繁樹、酒井直樹、大石義朗)

理事官
里 憲

受審人
A 職名:北南丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)

損害
駆動軸継手損傷、前進クラッチのスチールプレート及びシンタープレートが摩耗

原因
逆転減連機内部の点検不十分

主文

 本件機関損傷は、逆転減速機内部の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年5月16日09時50分
 津軽海峡

2 船舶の要目
船種船名 油送船北南丸
総トン数 149トン
全長 42.00メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 478キロワット
回転数 毎分1,450

3 事実の経過
 北南丸は、平成3年11月に進水し、引火点が摂氏61度を超える油の輸送に従事する鋼製油送船で、主に室蘭港から北海道内の離島にA重油を輸送しており、主機としてS社製6NSD−M型と呼称するディーゼル機関を装備し、Q社が製造したMGN86E−1型と呼称する逆転減速機(以下「逆転機」という。)を介してプロペラ軸を回転し、操舵室から遠隔操縦装置により主機及び逆転機の運転操作ができるようになっていた。
 逆転機は、減速歯車、前進及び後進用の湿式油圧多板クラッチ(以下「クラッチ」という。)を内蔵し、クラッチを操作することにより、前進、中立、後進の切り替えを行うもので、主機クランク軸の回転が、駆動軸継手を介して同継手にスプライン結合している駆動軸に伝わり、駆動軸と一体になった逆転駆動歯車が逆転被動歯車と常時噛み合っており、逆転駆動歯車には前進用クラッチを、逆転被動歯車には後進用クラッチをそれぞれ内蔵していた。
 クラッチは、前(後)進用ピニオンのスプラインが内周スプラインのスチールプレートと、シンタープレートの外周スプラインが逆転駆動歯車(逆転被動歯車)とそれぞれ噛み合い、スチールプレートとシンタープレートが交互に組み込まれており、逆転機油だめの作動油が駆動軸の後端に結合している油圧ポンプで吸引加圧され、前後進切替弁により、前後進どちらかのクラッチに分配され、クラッチピストンに圧油が作動すると、各プレートを圧着して動力が伝達され、前(後)進用ピニオンが回転し、ホイールが前進方向あるいは後進方向へ回転するようになっていた。
 また、逆転機の駆動軸継手は、円すいころ軸受(以下「ころ軸受」という。)に支持されており、はすば歯車の前進用ピニオンで発生する推力は、スラストリングを介して同継手後端に伝わり、同継手の溝に嵌合したスナップリング及びカラーを介してころ軸受で受けるようになっていた。
 北南丸は、平成12年3月5日06時45分北海道奥尻港を室蘭港に向け発し、08時30分奥尻島南東方13海里ばかり沖合を航行中、海面下の浮遊物に接触して突然船体に強い衝撃を受け、その直後から船体に異常振動を生じ、室蘭港までの続航は困難となって、12時40分江差港に微速力で寄せて潜水調査したところ、プロペラ羽根3枚のうち1枚が2分の1欠損していたので、引船によって函館港へ回航し、同港内の造船所に上架して同月7日から9日までプロペラの修理が行われた。
 このとき逆転機は、プロペラ羽根が欠損するほどの衝撃を受け、内部に過大荷重を受けて損傷を生じているおそれがあったが、A受審人は、損傷が逆転機に及んでいることはあるまいと思い、修理業者に依頼して逆転機の開放点検を行わなかった。
 そのため、逆転機の駆動軸継手は、プロペラ羽根が欠損した際に前進用ピニオンで発生した過大荷重を受けて、スナップリング溝に亀裂が発生していたものの、このことが発見されず、スナップリング溝に亀裂を生じたまま主機の運転が続けられ、次第にその亀裂が進展していた。
 北南丸は、礼文島船泊港でA重油を揚荷した後、A受審人ほか3人が乗り組み、平成12年5月15日08時15分空倉で船首2.0メートル船尾3.0メートルの喫水をもって同港を函館港に向け発し、主機を回転数毎分1,330(以下、回転数は毎分のものを示す。)の全速力にかけて航行中、逆転機駆動軸継手スナップリング溝の前示亀裂が拡大し、ついに同継手の後端が大きく欠損してスナップリングが脱落し、支点を失った駆動軸が前方へ移動するようになり、翌16日09時50分渡島半島白神岬灯台から真方位079度6.2海里の地点において、駆動軸に設けられた作動油のポートが塞がれて圧油の供給が減少したため、クラッチが滑るようになり、プロペラの回転が低下した。
 当時、天候は曇で風力4の西風が吹き、海上は風波が高かった。
 A受審人は、操舵室で見張りを兼ねて主機計器盤の監視を行っていたところ、主機の回転数が1,450に上昇し、プロペラ回転数が440から100に低下したので直ちに主機の回転を下げ、急ぎ機関室に降りて機側で主機を停止した後、会社の工務担当者に電話で状況を報告し、同担当者の指示を受けて、緊急ボルトによるクラッチの手動嵌合を試みたものの、緊急ボルトのねじが固くて回すことができず、その旨を船長に報告して救助を依頼した。
 北南丸は、同日15時15分引船によって曳航が開始され、17時50分函館港西埠頭岸壁に着岸した後、整備業者が精査したところ、駆動軸継手の前示損傷のほか、前進クラッチのスチールプレート及びシンタープレートが摩耗しており、損傷部品及びころ軸受を新替えして修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、航行中、海面下の浮遊物と接触してプロペラ羽根が欠損し、上架してプロペラ羽根の修理を行うに当たり、逆転機内部の点検が不十分で、駆動軸継手ころ軸受用スナップリングの嵌合溝に亀裂を生じた状態のまま運転が続けられ、亀裂が進展して嵌合溝が破損し、スナップリングが脱落して駆動軸が移動したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、航行中、海面下の浮遊物と接触してプロペラ羽根が欠損し、上架してプロペラ羽根の修理を行う場合、逆転機に過大荷重が作用して内部に損傷を生じているおそれがあったから、損傷の有無を発見できるよう、修理業者に依頼して逆転機内部を点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、損傷が逆転機に及んでいることはあるまいと思い、修理業者に依頼して逆転機内部を点検しなかった職務上の過失により、駆動軸継手のスナップリング溝に亀裂を生じたまま運転を続け、亀裂が進展して駆動軸が移動し、圧油の供給が減少してクラッチの嵌合不能を招き、同継手、ころ軸受などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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