日本財団 図書館




 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年神審第114号
件名

漁船第八珠の浦丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年2月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西林 眞)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第八珠の浦丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
全てのピストン、シリンダライナ、主軸受及びクランクピン軸受、クランク軸、クランクケースを損傷

原因
補機の運転監視不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、補機の運転監視が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

適条

 海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号

裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年4月19日12時20分
 富山県魚津港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八珠の浦丸
総トン数 159トン
全長 38.58メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 698キロワット
回転数 毎分350

3 事実の経過
 第八珠の浦丸(以下「珠の浦丸」という。)は、従業区域を乙区域とし、昭和59年3月に進水したさけ・ます流し網及びさんま棒受網漁業に従事する鋼製漁船で、機関室のほぼ中央に主機を据え付け、同機の両舷に発電機用原動機(以下「補機」という。)として、S社が製造した、6NSA−G型と称する定格出力220キロワット同回転数毎分1,800の4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関を各1基配置し、各シリンダには右舷補機は船首方から、左舷補機は船尾方からそれぞれ順番号が付されていた。
 補機の潤滑油系統は、クランク室底部のオイルパン(標準張込量50リットル)から、直結潤滑油ポンプにより吸引加圧された同油が、こし器及び潤滑油冷却器を経て入口主管に至り、同管から主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受等を潤滑する経路と過給機の軸受を潤滑する経路に分かれたのち、いずれもオイルパンに落下するようになっており、潤滑油圧力低下警報装置は組み込まれていたが、油圧低下による非常停止装置は設けられていなかった。
 ところで、潤滑油こし器は、複式の紙製フィルタ式のもので、1番シリンダ側に設置の計器盤に隣接した位置に取り付けられ、2個の円筒形フィルタケース内に、中空円筒形紙製フィルタエレメントをそれぞれ挿入し、ケース中心部を貫通するセンターボルトでこし器基部に取り付けられており、各フィルタケース肩部には、同エレメントを交換した際などに、器内に滞留した空気を抜き出すことができるよう、空気抜き弁としてくい込ねじ込アングル弁がねじ込まれ、同弁の排出口に取り付けられた空気抜き管がこし器基部下の油受け皿に導かれていたが、運転中に同弁が緩んだまま放置されると、潤滑油が流出して補機各部の潤滑を阻害するおそれがあった。
 珠の浦丸は、毎年5月中旬から12月中旬にかけてを漁期に、その後翌年4月までの期間を休漁期とし、この間に船体及び機関の整備を行っているもので、平成11年1月末から実施していた定期検査工事を終えて回航するため、同年4月18日15時00分石川県七尾港を発して同日17時30分富山県魚津港に入港し、魚津港北区北防波堤灯台から真方位074度270メートルの岸壁に左舷付けで係留した。
 A受審人は、同5年7月から機関長として乗り組んでおり、出漁準備として漁網を積み込むため、翌19日07時過ぎに珠の浦丸に着き、左舷補機の始動準備に取り掛かり、オイルパンの潤滑油量などを点検して同油のプライミングを行ったうえ、07時30分同機を始動した。しかし、同人は、始動直後の点検で漏油箇所などがなかったので大丈夫と思い、その後適宜機関室に赴いて左舷補機の運転監視を行うことなく、ほかの乗組員とともに甲板ウインチを断続使用して漁網の積込み作業を続けていたので、いつしか潤滑油こし器の左舷側フィルタケースの空気抜き弁が機関振動の影響を受けて緩み、同弁から同油が少量ずつ流出し始め、これが次第に進展していることに気付かなかった。
 そして、12時00分A受審人は、午前中の作業を終え、自宅に戻って昼食を摂るため、作業中の無線修理業者1人を残し、ほかの乗組員と一緒にいったん珠の浦丸を離れた。
 こうして珠の浦丸は、左舷補機の潤滑油が外部に流出し続け、やがてオイルパン内の同油が減少して潤滑油ポンプが空気を吸引し、油圧低下警報装置が作動するとともに、同油圧力が著しく低下して同機のクランクピン軸受、ピストンピン軸受及びピストンなどの潤滑が阻害されたまま運転が続けられるうち、同日12時20分前示係留地点において、2番シリンダの連接棒ボルトが切損し、連接棒が右舷側クランクケースを突き破り、左舷補機が異音を発して自停した。
 当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、港内は穏やかであった。
 12時30分A受審人は、昼食を済ませて珠の浦丸に戻ったところ、無線修理業者から、警報が鳴りそのうち左舷補機が停止して船内電源が喪失したことを知らされ、機関室に急行して左舷補機の2番シリンダのピストンが右舷側に飛び出しているのを発見し、整備業者に連絡して同機を精査したところ、前述の損傷のほか、全てのピストン、シリンダライナ、主軸受及びクランクピン軸受、並びにクランク軸及びクランクケースなどが損傷していることが判明し、のち左舷補機は損傷部品をすべて新替えして修理された。

(原因)
 本件機関損傷は、出漁準備として漁網の積込み作業中、補機の運転監視が不十分で、潤滑油こし器空気抜き弁が緩んで同油が外部に流出し続け、各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、出漁準備作業を行うために補機を始動した場合、潤滑油が外部に流出して各部を損傷させることのないよう、同油こし器空気抜き弁に緩みがないかなど、始動後適宜機関室に赴いて補機の運転監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、始動直後の点検で漏油箇所などがなかったので大丈夫と思い、補機の運転監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同空気抜き弁が緩んで潤滑油が外部に流出していることに気付かないまま運転を続け、全てのピストン、シリンダライナ、主軸受及びクランクピン軸受のほか、2番シリンダの連接棒及び連接棒ボルト、クランク軸、クランクケースなどを損傷させるに至った。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION