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平成12年横審第54号
件名

漁船第三十六開運丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年2月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(平井 透、吉川 進、向山裕則)

理事官
井上 卓

受審人
A 職名:第三十六開運丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)

損害
過給機にタービン側軸受室の焼損、同機玉軸受の損傷

原因
防振措置不十分

主文

 本件機関損傷は、過給機冷却清水出口管の防振措置が十分でなかったことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年9月29日10時00分
 宮城県金華山南西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十六開運丸
総トン数 239トン
登録長 39.85メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 860キロワット
回転数 毎分560

3 事実の経過
 第三十六開運丸(以下「開運丸」という。)は、昭和59年7月に進水した、まき網漁業船団に所属する鋼製運搬船で、主機として、R社が製造したZ280−ET2型と呼称するディーゼル機関を備え、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号が付されていた。
 主機の過給機は、S社が製造したVTR251型と呼称する排気ガスタービン過給機で、単段の遠心式ブロワ及び単段の軸流タービンがロータ軸で結合され、同軸がタービン及びブロワ側に設けられた軸受箱内の玉軸受で、それぞれ弾性支持バネを介して支持されるようになっており、排気入口囲及びタービン車室が、主機の冷却清水で冷却されるようになっていた。
 主機の冷却清水系統は、間接冷却方式で、清水冷却器から主機直結の遠心式冷却清水ポンプで吸引された冷却清水が、加圧されて冷却清水分配管に至り、各シリンダのシリンダジャケット及びシリンダヘッドをそれぞれ冷却する系統、並びに過給機の排気入口囲及びタービン車室をそれぞれ冷却する系統に分岐し、冷却を行ったのちに、いずれも冷却清水集合管に合流して自動温度調整弁に至り、清水冷却器で海水に放熱するものと同冷却器をバイパスするものとに分かれ、同ポンプの吸入管に戻って循環するようになっていた。また、冷却清水集合管に合流した冷却清水の一部は、系統内水量の温度変化による水量変化の吸収、消費された水量の補填などのために、機関室内の上甲板右舷船首方に設置された、容量が約600リットルの冷却清水膨張タンクに至って気水分離を行ったのち、冷却清水ポンプの吸入管に戻るようになっていた。
 冷却清水温度上昇警報装置(以下「水温警報装置」という。)の温度センサは、1番シリンダヘッドの右舷側付近となる、冷却清水集合管の船首方先端部に付設され、冷却清水温度が摂氏85度を超えると、船橋及び機関室に設けられた主機警報盤で、それぞれ警報音を発して警報ランプが点灯するようになっていた。
 過給機タービン車室の冷却清水出口管は、外径25ミリメートル(以下「ミリ」という。)の銅管で、同車室船尾側からU字形に曲がって船首方に向かう、U字部先端からの長さが約850ミリの船尾側出口管と、同車室船首側から船首方に向う船首側出口管で構成され、いずれもフランジ継手で、タービン車室及び冷却清水集合管に接続するようになっていた。
 A受審人は、平成7年1月から一等機関士又は機関長として、同10年2月からは機関長として開運丸に乗り組み、一等機関士を指揮して主機などの運転及び保守管理に当たり、入渠した際、整備業者が主機警報装置の作動試験を海水及び潤滑油系統について行い、冷却清水系統については行っていなかったが、同系統についても念を入れて同業者に作動試験を行わせるなど、同装置の整備を十分に行わないまま、入渠工事を済ませていた。また、同人は、操業中以外の航海中には、一等機関士と交代で約1時間ごとに機関室の見回りを行い、約2箇月ごとに減量した冷却清水膨張タンクに、20ないし30リットルの補水を行い、同タンクの水量を約500リットルに保持していた。
 A受審人は、乗り組んだ当初から、主機6番シリンダの船尾側に備えられた過給機の、床面から約130センチメートルの位置に配管された、タービン車室の船尾側冷却清水出口管が、目視ではわからないが触診すると、機関の運転で生じた振動の影響を受けて、小さな振幅で激しく振動していることに気付いていたものの、整備業者に相談して同管の防振対策を講じるなど、同管の防振措置を十分に行わないまま、月平均150時間ほど主機の運転を続けていた。
 A受審人は、平成11年6月ごろ、過給機タービン車室の船尾側冷却清水出口管の、U字部先端から約200ミリの位置に、防振用のUボルト穴が設けられていることに気付き、防振対策としてUボルトを取り付けて同管を部分的に固定したところ、それまで激しく振動していた同管のU字部が動かなくなったことを認めたことから、十分な防振対策を施さないまま、防振措置を行っていない残余の部分に生じる振動の繰返し応力で、同管が疲労して亀裂(きれつ)を生じるおそれのある状況のまま、操業を繰り返していた。
 こうして、開運丸は、A受審人ほか7人が乗り組み、同年9月28日20時50分宮城県石巻港を発し、同港南方沖合の漁場で操業を行い、翌29日06時50分操業を終えた船団とともに漁場を発して、主機を回転数毎分560にかけて帰港中、一等機関士が見回りを終えて機関室から退室した数分後、無人の同室で、過給機タービン車室の船尾側冷却清水出口管に、振動の繰返し応力による疲労でいつしか生じた微小亀裂が急速に進行し、防振用Uボルトから船首方約300ミリの位置で、同管が完全に折損し、10時00分金華山灯台から真方位240度13海里の地点において、冷却清水が、機関室内に噴出し、水温警報が吹鳴しないまま、過給機及び主機の高温部に降りかかって激しく蒸発した。
 当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上はやや波があった。
 船員室で休息していたA受審人は、操舵室に機関室との連絡ドアから水蒸気が流れ込んでくることに気付いた船長が鳴らした船員室連絡ベルで、機関室に赴いたところ、同室に水蒸気が充満して清水膨張タンクが空になっていることを認め、直ちに主機を停止し、過給機タービン車室の船尾側冷却清水出口管が垂直方向に破断して、折損箇所から水蒸気が噴出し、塗装が焼損するほど過給機が過熱していることを認めたことから、主機の継続運転を断念する旨を船長に報告した。
 開運丸は、僚船に曳航されて石巻港に引き付けられ、精査の結果、過給機にタービン側軸受室の焼損、同機玉軸受の損傷などが、主機にピストンの過熱膨張など大きな損傷はなかったものの、シリンダライナのOリングの焼損などが認められ、両機の損傷部品が取り替えられるとともに、過給機タービン車室の船尾側冷却清水出口管の長さを調節し、折損部をゴムホースで接続して振動を吸収する防振措置が施された。
 また、水温警報装置は、機関室主機警報盤への配線途中にある端子集合箱内の配線端子部の断線が確認され、修理が行われた。

(原因に対する考察)
 本件は、過給機の冷却清水出口管が折損し、冷却清水の外部漏洩(ろうえい)で主機及び過給機が過熱して、過給機タービン側軸受室が焼損するなどしたものであるが、折損した同管から水蒸気が噴出する状況にありながら、水温警報装置が作動しなかったことについて、以下に考察する。
 水温警報装置の温度センサは、過給機及び主機シリンダヘッドの最上部より高い位置に配管された、冷却清水集合管の船首方先端部に付設され、船首方が船尾方より高くなる傾きで、主機が据付けられていることを併せ考えると、同センサより低い位置で冷却清水の外部漏洩を生じ、冷却清水ポンプが空気を吸引して吐出圧力がなくなった場合、同センサ周囲の冷却清水は、同水の温度上昇が始まった早い時期になくなり、同センサが冷却清水と接していない状態になっていることから、冷却清水温度を正常に検知できる状況ではなく、本件当時、同装置の電気配線が断線していた状況にあったものの、同装置が正常であっても、警報が吹鳴したか否かは疑問がある。
 以上のことから、本件は、水温警報装置が作動しなかったことと、過熱との因果関係を認めるには無理があり、過給機の冷却清水管の防振措置が十分でなかったことによって発生したと認めるのが相当である。

(原因)
 本件機関損傷は、過給機冷却清水出口管の防振措置が不十分で、機関の運転で生じた振動の繰返し応力による疲労で、同管が折損して冷却清水が外部に噴出し、過熱されるまま主機及び過給機の運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人が、過給機冷却清水出口管が小さな振幅で激しく振動していることを認めた際、整備業者に相談して同管の防振対策を講じるなど、同管の防振措置を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 しかしながら、以上のA受審人の所為は、Uボルトを取り付けて過給機冷却清水出口管に部分的ながら防振対策を講じた点及び発見が早く主機の損傷が少なかった点に徴し、職務上の過失とするまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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