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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成9年横審第71号
件名

旅客船サンシャイン機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年2月27日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(平井 透、半間俊士、西村敏和)

理事官
井上 卓

指定海難関係人
R株式会社 業種名:機関製造業

損害
クランク軸に亀裂

原因
クランクピンが疲労破壊したこと

主文

 本件機関損傷は、部品製造業者から購入した主機クランク軸の高周波焼入れ層に存在していた焼割れを起点として、クランクピンが疲労破壊したことによって発生したものである。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成7年10月22日15時13分
 大阪湾東部

2 船舶の要目
船種船名 旅客船サンシャイン
総トン数 299トン
全長 43.2メートル
機関の種類 過給機付4サイクル・ディーゼル機関
出力 5,295キロワット
回転数 毎分1,475

3 事実の経過
 サンシャインは、平成3年4月に進水し、徳島小松島港及び大阪港間の定期航路に従事する軽合金製双胴型旅客船で、1日合計12便のうち3便に就航しており、主機として指定海難関係人株式会社R(以下「R社」という。)が製造したニイガタS.E.M.T.ピールスティック16PA4V−200VGA型と呼称する、各シリンダが左右8シリンダずつV字形に配列された16シリンダV型ディーゼル機関を2基備えていた。
 主機は、各シリンダに左舷列の船尾側を1番として8番まで、右舷列の船尾側を9番として16番までの順番号がそれぞれ付され、1本のクランクピンに2本の連接棒が取り付けられ、両舷機とも船尾側に備えられた弾性継手及び減速機を介してウォータージェット推進装置を駆動し、操舵室に備えられた両舷機の監視盤及び遠隔操縦装置により操作されるようになっていた。
 主機の潤滑油系統は、主機クランク室下部の潤滑油だめに入れられた約400リットルの同油が、主機直結の潤滑油ポンプで吸引され約6キログラム毎平方センチメートルに加圧されたのち、潤滑油冷却器を経てJ社が製造したIHI−MOATTIオートフィルタGM250型と呼称する、積層エレメントで構成された逆洗式自動こし器を経て同油が主機潤滑油主管に至り、クランク軸、ピストンピン、カム軸、過給機などの潤滑及び冷却を行う系統と遠心式こし器を経て同油だめに戻る側流清浄の系統とに分岐し、いずれも同油だめに戻って循環するようになっていた。
 R社は、以前からフランス共和国のS.E.M.T.S社(以下「S社」という。)の型式の異なる機関を製造していたが、平成2年からPA4V型機関のライセンス生産を開始し、クランク軸は契約上ピ社から購入しなければならない部品ではなかったが、同軸を自社で製造するには設備、製造技術の開発など、費用及び時間がかかることから、同国の機械部品製造業者であるQ社(以下「Q社」という。)から同軸を直接購入し、ピ社の図面に従って製造した部品などとともにR社太田工場で機関を組み立てていた。
 Q社は、クランク軸を製造するに当たり、加熱した鋼材を型に打ち込んで外から力を加えて形を仕上げる、いわゆる型鍛造方式で同軸を製造したのち、クランクピン及びクランクジャーナル部の耐摩耗性及び耐焼付き性を向上させるために高い硬度を得る目的で、同部に高周波電流を流して表面だけを加熱したのち、冷却水の噴射で急冷して表面層に焼きを入れる、いわゆる高周波焼入れを行っていた。焼入れを行う際、各クランクピン部の軸方向に並んで2箇所に開口した内径10ないし12ミリメートル(以下「ミリ」という。)の油穴の縁部が過熱されることを防止する目的で、ばね鋼を丸めて円筒状とし、突合せ部の隙間に余裕を持たせて弾性による拡張力があるスプリングピンを組み込んだ、長さ10ないし20ミリの銅管を油穴に打ち込んで油穴内面に密着させ、余分な熱をクランク軸本体などに逃がすようにしていた。
 銅管は、平成元年以前には肉厚が1.0ないし1.5ミリのものが使用されていたが、同年から肉厚が2.5ミリのものに変更され、肉厚が厚くなったことからスプリングピンの拡張力が不十分になり、銅管と油穴内面との密着性が不良となって隙間が生じ、接触面積の減少で焼入れ熱のクランク軸本体などへの伝熱が十分に行われず、焼入れによる鋼材の膨張及び収縮が不均一となって油穴の周囲に焼割れを生じさせるおそれがあった。
 Q社は、平成2年サンシャイン両舷主機の各クランク軸を製造し、同軸の両端に電極を当てて軸方向に電流を流す軸通電法で磁粉探傷検査を行ったものの、同軸に生じた焼割れが発見されないまま、R社などに納品していたところ、同4年10月油穴の周囲に焼割れが生じている製品が発見されたことから原因の究明を行い、銅管の肉厚を元の1.0ないし1.5ミリのものに戻すとともに、焼入れ方法の改善などを行い、ピ社に対しては、油穴の周囲に焼割れが生じている製品が発見されたこと及び不良製品の油穴を少し大きく削正する方法で修理して納品する旨を報告して同社の了解を得ていたが、R社に対しては油穴の周囲に焼割れが生じているおそれがある旨の報告を行っていなかった。
 ところで、磁粉探傷検査は、磁性体を磁化したとき、表面から数ミリ以内の表層に亀裂などの欠陥による磁気的な不連続がある場合、その部分から磁束が漏洩し、不連続部の境界に磁極が生じ、試験体の表面に鉄粉などの磁粉を散布すると磁粉が漏洩磁束で磁化され、微小磁石となって欠陥部分の磁極に付着し、その磁粉模様で欠陥を検出するものであるが、軸通電法では磁束が電流方向に対して直角方向に生じるので、電流方向の欠陥を発見することは容易であるものの、電流方向に対して直角方向の欠陥を発見することは容易でないことから、特に詳細な検査を行う場合、検査する部分を電磁石や永久磁石の磁極間に位置させる極間法などを併用し、磁束の方向を変化させて検査を行うことが求められるものであった。
 R社は、クランク軸を購入するに当たり、フランス共和国で自社の社員による検査は行っていなかったものの、同国において財団法人日本海事協会の検査員立会いによる磁粉探傷検査などの受検を購入仕様書の要件として同協会の刻印が打刻された製品を購入し、自社に納入させたのち、着荷検査として、全数の外観検査及び自社で策定して適正と考えていた磁気探傷検査指示書に則って国家資格受有者による同検査を行い、寸法検査については重要な部分を適宜に計測していたものの、磁粉探傷検査が軸通電法であったこと、通常発生する亀裂(きれつ)より焼割れが小さかったことなどから、1番及び9番シリンダ用クランクピン(以下「1番クランクピン」という。)に開口した油穴のうち、1番シリンダ用油穴の内周面である高周波焼入れ層の、同ピン表面から約2ミリの位置に長さ約4ミリ、深さ約1.3ミリの半円状の焼割れが存在していることが発見できず、同焼割れを起点としてクランクピンが疲労破壊することを予見できないまま、右舷主機を組み立てた。
 サンシャインの就労状況は、一括公認で雇入れられた船員が各時間帯に就航する各船に順次転船するものであり、12時00分に乗船した機関部乗組員が13時40分主機を始動し、13時45分徳島小松島港を出港したのち、直ちに機関長が機関室に赴いて機関各部の点検を40ないし45分間かけて行うとともに、潤滑油の逆洗式自動こし器から約400ミリリットルのドレン油を抜き出し、上部に300メッシュの細目金網を取り付けた1リットルのプラスチック容器で同油をこし取ったのち、同金網を軽油で洗浄して異物の混入がないことを確認し、大阪港到着の40分前に一等機関士が機関室に赴き、入港直前まで機関各部の点検を行ったのち着岸作業を行い、大阪港を出港したのちは一等機関士、機関長の順で機関各部の点検を行っており、同点検を行っていないときは、操舵室で計器類の監視、機関日誌の記入などを行っていた。
 主機の整備状況は、停泊時間及び就労時間の関係で毎年入渠した際にピストン抜き、吸排気弁などの整備を行い、船内作業としては半月毎に潤滑油遠心式こし器の開放掃除、1箇月毎に燃料油こし器及び減速機の潤滑油こし器の掃除、300ないし350運転時間毎に主機の潤滑油の取替えなどを行っていた。
 サンシャインの右舷主機の1番クランクピンは、運航を繰り返すうち、連接棒とピストンの往復慣性力によるクランクピンと同ピン軸受メタルとの衝撃、クランク軸のねじり及び曲げ応力などの繰り返し応力が前示焼割れ部に集中し、いつしか焼割れを起点とした亀裂がクランクピンの軸方向に対して30度の傾きで1番シリンダ用油穴を横断して徐々に進行し、同ピンの疲労破壊を生じるおそれのある状況となっていた。
 こうしてサンシャインは、甲板部及び機関部の職員各2人が乗り組み、旅客59人を乗せ、平成7年10月22日13時45分徳島小松島港を発し、大阪港に向け主機を回転数毎分1,420にかけて航行中、14時00分機関長が行った潤滑油の逆洗式自動こし器ドレン油の点検で異状がなかったものの、1番クランクピンの亀裂となっていない残りの部分が繰り返し応力に耐えられなくなって亀裂が急速に進行し、亀裂の鋭利になった角でクランクピン軸受メタルが削り取られるなどして同軸受が損傷し、潤滑が阻害されて軸受隙間が増大するとともに同軸受メタルが叩かれて薄くなり、軸受隙間がさらに増加したことからピストンとシリンダヘッドの燃焼面が接触して右舷主機が異音を発するようになった。
 サンシャインは、15時10分機関各部の点検を行っていた一等機関士が右舷主機の異音に気付き、機関長に報告するとともに両人で同機の点検を行ったところ、1番シリンダ付近で連続した異音が生じていることを認め、時間の経過とともに異音が大きくなったことから、主機の停止を船長に依頼して減速中、回転数が毎分850になったとき1番クランクピンが破断に至るとともに、同ピンを連接棒で抱く1番及び9番シリンダのピストン及びシリンダライナが破損し、全連接棒ボルトが疲労及び瞬時引張り力で破断して軸受キャップが外れ、クランク軸から両連接棒が分離してバランスウェイトと同棒との接触により全バランスウェイト取付けボルトが瞬時引張り力で破断し、15時13分泉北大津南防波堤灯台から真方位283度6.8海里の地点において、9番シリンダのバランスウェイトがクランク室ドアを突き破って大音を発するとともに右舷主機が自停した。
 当時、天候は晴で風力3の北風が吹いていた。
 サンシャインは、右舷主機が運転不能となり、左舷主機のみを運転して大阪港第2区の天保山岸壁に着岸し、旅客を下船させたのち、造船所に入渠して右舷主機が予備機と換装された。
 R社は、1番クランクピン折損の原因究明に当たり、折損した同ピンの破断面を詳細に調査したところ、1番シリンダ用油穴内周面の高周波焼入れ層に主亀裂とは傾きの異なる前示焼割れが認められたことから、両舷主機クランク軸の徹底的な磁粉探傷検査を行い、平素の軸通電法による同検査の電流量では亀裂が発見できなかったものの、平素の約3倍の電流を流したところ、他の油穴部に複数の亀裂を発見し、クランクピンの軸方向に対して直角方向に電流を流すことで亀裂の存在を確認した。また、同型主機を搭載している他船4隻にも亀裂の存在が懸念されたので各クランク軸の詳細な検査を行い、全体の2割を超える油穴部に亀裂を認めたことから、Q社に対して製造についての疑問を呈したところ、平成元年クランク軸の高周波焼入れを施す際に使用する銅管を肉厚の厚いものに変更して製造した同軸に、同4年10月亀裂が検出されたため、銅管を肉厚の薄い元のものに再変更した旨の回答書を同7年11月14日付で得た。
 本件後、R社は、各船のクランク軸に亀裂を生じた部位の削正を行い、磁粉探傷検査で修復を確認して復旧し、次回の入渠時に同軸を順次取り替えることにするとともに、従来の磁気探傷検査指示書を改正し、以後の同検査においては軸通電法の電流量を大幅に増やし、極間法を併用する旨を明記して欠陥の発見に努めることとした。

(原因)
 本件機関損傷は、部品製造業者から購入した主機クランク軸の高周波焼入れ層に存在していた焼割れに、往復慣性力による衝撃、ねじり及び曲げ応力などの繰り返し応力が集中し、焼割れを起点としてクランクピンが疲労破壊したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 指定海難関係人R社の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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