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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年函審第62号
件名

漁船第五十八恵宝丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年2月15日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(大山繁樹、酒井直樹、織戸孝治)

理事官
里 憲

受審人
A 職名:第五十八恵宝丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
主機全シリンダのピストン及びシリンダライナ等が焼損

原因
流氷帯の危険性に対する配慮不十分

主文

 本件機関損傷は、流氷帯の危険性に対する配慮が不十分で、流氷帯脱出のため主機の過負荷運転が繰り返されたことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年3月21日13時30分
 北海道知床半島東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十八恵宝丸
総トン数 19トン
全長 22.35メートル
機関の種類 過給機付2サイクル12シリンダV型・ディーゼル機関
出力 533キロワット
回転数 毎分2,170

3 事実の経過
 第五十八恵宝丸(以下「恵宝丸」という。)は、平成元年7月に進水し、刺し網漁業に従事する鋼製漁船で、主機としてアメリカ合衆国R社が製造したGM12V−71TA型と呼称する清水2次冷却式ディーゼル機関を装備していた。
 恵宝丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成10年3月21日06時00分、北海道目梨郡羅臼町羅臼漁港を発して同町松法漁港東南東方沖合5海里の漁場に向かい、07時00分目的の漁場に達して僚船3隻とともに操業を開始した。
 そのころ知床半島東岸沖合の流氷状況は、流氷帯が同半島東岸沖合5ないし6海里に、途切れている箇所があったもののほぼ南北に連なり、前記漁場のある知床半島東岸と流氷帯との間の海面には、流氷塊及び薄氷が散在していた。
 A受審人は、僚船と共同で順番に揚網作業に従事していたところ、10時ごろ流氷塊及び薄氷が風潮流の影響で南方向から移動し、密集して周囲に所々流氷帯を形成する状況であったが、流氷帯の危険性に対する配慮が不十分で、帰航するときは流氷帯の切れ目を探して通航していけばよいと思い、僚船と連絡のうえ速やかに操業を中止して帰航せず、そのまま揚網作業を続け、13時00分ごろ沖合の流氷帯が接近するようになったので羅臼漁港へ帰ることとし、急いで残りの網を揚げた後、自船が鋼製であることから先頭に立ち僚船と縦列になって漁場を発進し、流氷塊及び流氷帯の切れ目を選んで帰航中、同時15分ごろ流氷帯に囲まれて停止しなければならない状態になった。
 A受審人は、このままでは流氷帯に閉じ込められて船体その他が損傷することになるので、僚船と相談のうえ強行突破することにし、主機を全速力前進にかけ、氷に乗り上げて船体の重量で氷を割り、前進できなくなれば後退して、主機の出力を極限まであげ、前方の流氷帯に突進することを繰り返して脱出を図った。この間主機は著しい過負荷運転となり、ジャケット冷却水温度が異常上昇して冷却水温度上昇警報が作動したが、同人は、かまわず過負荷運転を繰り返し、ようやく流氷帯から脱出することができたものの、ピストンとシリンダライナが過熱膨張して焼損し、13時30分松法港南防波堤灯台から真方位124度2.0海里の地点において、強い振動を伴って煙突から大量の黒煙が出た。
 当時、天候は曇で風速3メートルの西南西風が吹き、海上は平穏で潮候は下げ潮の末期であった。
 A受審人は、主機の回転を上げることができず、周囲には流氷帯があり、自力による航行は危険と判断して僚船に救助を求め、恵宝丸は僚船によって羅臼漁港に引き付けられた。
 恵宝丸は、上架後修理業者が精査したところ、主機全シリンダのピストン及びシリンダライナが焼損していたほか、クランク軸、架構、過給機などが損傷し、また、プロペラ翼が曲損しており、のち機関の耐用年数と修理費の都合から主機を新替えし、プロペラ翼の曲がりを修正した。

(原因)
 本件機関損傷は、知床半島東岸沖合において、流氷塊や薄氷が散在する状況のもとで僚船と操業中、流氷塊や薄氷が移動して周囲に所々流氷帯が形成されるようになった際、流氷帯の危険性に対する配慮が不十分で、直ちに僚船と連絡のうえ操業を中止して帰航せず、帰航中に流氷帯に閉じこめられ、脱出のため主機の過負荷運転が繰り返されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、知床半島東岸沖合において、流氷塊や薄氷が散在する状況のもとで僚船と操業中、流氷塊や薄氷が移動して周囲に所々流氷帯が形成されるようになった場合、流氷帯に閉じ込められることのないよう、速やかに僚船と連絡のうえ操業を中止して帰航すべき注意義務があった。しかるに、同人は、帰航するときは流氷帯の切れ目を探して通航していけばよいと思い、速やかに僚船と連絡のうえ操業を中止して帰航しなかった職務上の過失により、帰航中に流氷帯に閉じこめられ、脱出のため主機の過負荷運転を繰り返す事態を招き、プロペラ翼、主機全シリンダのピストン及びシリンダライナ、クランク軸、架構、過給機などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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