(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年10月23日20時30分
沖縄県粟国島南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第一阿蘇丸 |
総トン数 |
19トン |
登録長 |
15.71メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
404キロワット |
回転数 |
毎分345 |
3 事実の経過
第一阿蘇丸(以下「阿蘇丸」という。)は、昭和63年12月に進水した鋼製引船で、専ら採石を積載した台船の曳航作業に従事し、主機として、R社製の6LUDA24G型と称する昭和52年10月に製造された中古のディーゼル機関を装備し、燃料油にA重油を使用していた。
主機は、海水冷却式で、右舷側前方下部にベルト駆動の主機直結冷却海水ポンプ(以下「直結冷却海水ポンプ」という。)を装備し、各シリンダには船首側を1番として6番までの順番号を付し、6番シリンダ船尾側の架構上に過給機が設置されていた。
主機の冷却海水系統は、船底の海水吸入弁からこし器を通って直結冷却海水ポンプによって吸引加圧された海水が、潤滑油冷却器及び空気冷却器を順次冷却したのちに冷却水入口主管に至り、各シリンダごとに分岐してシリンダジャケット及びシリンダヘッドを冷却したのち、冷却水出口集合管で合流し、一部が手動の温度調整用コックを介して同ポンプの吸入側に環流し、残りがそのまま船外吐出弁から排出されるようになっていた。一方、前示冷却水入口主管から分岐した海水の一部は、過給機を冷却したのち、専用の船外吐出弁から排出されるようになっていた。
また、阿蘇丸は、電動機駆動の主機予備冷却海水ポンプ(以下「予備冷却海水ポンプ」という。)を装備し、前示直結冷却海水ポンプとはそれぞれ別の海水吸入弁及びこし器を経て海水を吸引するようになっていた。
ところで、直結冷却海水ポンプの吸入側に接続する管(以下「吸入管」という。)は、呼び径が80ミリメートル(以下「ミリ」という。)で長さ150ミリの鋼管が、機関室敷板至近で水平に90度の角度で屈曲し、両端にフランジが溶接され、一方が船首方に向かって直結冷却海水ポンプに、他方が右舷側に向かって海水吸入弁からの管にそれぞれフランジ継手でボルト締めされていた。また、吸入管は、中央部の上方に他端がフランジ継手になった短管が溶接され、前示温度調整用コックに接続していた。
A受審人は、平成10年7月に機関長として乗船し、機関の運転及び保守管理に当たり、これまで冷却海水管に腐食による支障がなかったので大丈夫と思い、同管表面に生じたピンホールからの海水のにじみやさびの発生などの兆候を見落とすことのないよう、配管の全周にわたって目視点検するなど腐食による衰耗状況の点検を十分に行うことなく、吸入管の下側が腐食して肉厚が著しく薄くなり、ピンホールが生じていたことに気付かずに主機の運転を続けていた。また、同人は、乗船したとき、予備冷却海水ポンプが固着していて使用できず、修理費を要することからそのまま放置されていたが、主機の運転に支障がなかったので、引き続き修理を行わず、直結冷却海水ポンプだけを使用していた。
阿蘇丸は、A受審人ほか2人が乗り組み,台船の作業員1人を同乗させ、船首1.0メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、曳航索200メートルを延出し、長さ45.00メートル幅16.00メートル深さ3.00メートルの鋼製台船石嶺3号を空倉のまま船尾に引き、同年10月23日19時00分沖縄県粟国港を発し、針路を真方位130度に定め、同県那覇港へ向かった。
こうして、阿蘇丸は、主機を回転数毎分345にかけ、4.0ノットの対地速力で航行中、直結冷却海水ポンプの吸入管に生じていたピンホールが拡大し、同ポンプが空気を吸引して揚水しなくなり、20時30分粟国島灯台から真方位126度5.8海里の地点において、船橋で当 直中の船長が、冷却海水の船外吐出弁からの吐出量が極端に減少したことに気付いて機関長に連絡した。
当時、天候は曇で風力7の北風が吹き、海上には波高4メートルの波浪があった。
A受審人は、機関室に赴き、各部を点検したものの、冷却海水吐出量が減少した原因が分からず、主機の冷却が阻害され始めたので、運転不能と判断して主機を停止するとともに、船長にその旨を連絡した。
阿蘇丸は、台風の接近で海上が時化ていたこともあり、直ちに救助を要請し、来援した引船により那覇港に引き付けられ、同港において修理業者が点検した結果、主機には異状が無かったものの、吸入管に多数の破孔を生じていることが判明し、のち新替えされた。
(原因)
本件機関損傷は、主機冷却海水管系統の保守管理を行う際、直結冷却海水ポンプ吸入管の腐食による衰耗状況の点検が不十分で、腐食により衰耗していた吸入管が取り替えられず、腐食が進行するまま主機の運転が続けられたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機冷却海水管系統の保守管理を行う場合、直結冷却海水ポンプ吸入管が経年により腐食しているおそれがあったから、肉厚が著しく薄くなって生じたピンホールからの海水のにじみやさびの発生などの兆候を見落とすことのないよう、配管の全周にわたって目視点検するなど腐食による衰耗状況の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、これまで冷却海水管に腐食による支障がなかったので大丈夫と思い、配管の全周にわたって目視点検するなど吸入管の腐食による衰耗状況の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、腐食して肉厚が著しく薄くなった吸入管の下側にピンホールが生じていたことに気付かず、主機の運転を続けるうちにピンホールが拡大し、吸入管に多数の破孔を生じさせる事態を招き、直結冷却海水ポンプが空気を吸引して主機の冷却を阻害させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。