(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年10月1日07時40分ごろ
隠岐諸島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十二事代丸 |
総トン数 |
222トン |
全長 |
47.32メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
860キロワット(計画出力) |
回転数 |
毎分560(計画回転数) |
3 事実の経過
第二十二事代丸(以下「事代丸」という。)は、昭和60年2月に竣工し、運搬船として中型まき網漁業船団に所属する鋼製の漁船で、主機として同59年12月に製造されたR社製のZ280−ET2型と称するディーゼル機関を装備し、主機の各シリンダには船首側から順番号が付されていた。
主機の潤滑油系統は、クランク室下部の潤滑油だめに300リットルほど入れられた潤滑油が、直結駆動の潤滑油ポンプで吸引されて約5キログラム毎平方センチメートルに加圧され、潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て主機入口潤滑油主管(以下「潤滑油主管」という。)に至り、同管から分岐して、各主軸受やカム軸受等に供給されたのち潤滑油だめに戻って循環する一方、一部が各シリンダの吸・排気弁タペットに供給されるようになっていた。
吸・排気弁タペットの潤滑油供給管は、外径が約10ミリメートルの銅管で、主機右舷側の機関室床板下に配置された潤滑油主管の船尾端から分岐し、主機の船尾側を通って同左舷側に至ったのち、分岐して各シリンダの吸・排気弁タペットに潤滑油を供給していた。
事代丸は、鳥取県境港で水揚げを行う関係上、隠岐諸島の西郷港を基地とする船団の他船とは別に、境港を基地として、月間370時間ほど主機を運転しながら漁獲物の運搬作業に従事していたところ、いつしか、主機吸・排気弁タペット潤滑油供給管の潤滑油主管への取り付け部付近にき裂が生じて潤滑油が漏出する状況となったが、同き裂部が機関室床板下に位置していたうえ漏出量もさほど多くなかったので、このことに乗組員が気付かないまま、平成11年6月上旬に定期整備で主機を開放・整備し、その後も引き続き主機を運転しながら漁獲物の運搬作業に従事していた。
A受審人は、以前に石炭船や材木船で機関長の経験を有しており、同年7月2日に機関長として乗船したが、2箇月半ほどは他の乗組員に機関の運転管理を任せて、専ら甲板作業に従事していたところ、超えて9月20日からは自らが機関の運転管理に携わるようになり、主機の潤滑油消費量が1日に約20リットルであることを認め、開放・整備から約3箇月しか経っていない主機としては消費量が多目で、潤滑油が機外に漏出しているおそれがあったものの、その後も消費量がそれ以上増加しないので問題はあるまいと思い、潤滑油系統の点検を十分に行わなかったので、前示のき裂から潤滑油が機外に漏出していることに気付かず、自らは通常の点検や各種こし器の掃除を行う程度で、機器に不具合が発生すればその都度修理業者に修理させるなどしながら各機器の運転管理に従事していた。
こうして、事代丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、同月30日18時ごろ境港を発し、隠岐諸島西方の漁場で漁獲物を積み込んだのち、翌10月1日06時10分ごろ漁場を発し、主機を回転数毎分560の全速力前進にかけ、水揚げ地である境港へ向かった。
発航後、事代丸は、船橋当直者以外の全員が、雑用ポンプを運転して甲板上を掃除したり魚倉に氷を入れるなどの作業を行ったのち、07時30分ごろ同作業を終了して雑用ポンプを停止し、作業者全員が食堂で朝食をとりながら続航中、前示のき裂が進行して潤滑油管が切損し、流出した潤滑油がビルジだまりに流れ込む状況となった。
07時35分ごろA受審人は、食事中にビルジ警報が作動するのを認めて機関室に赴き、ビルジだまりにビルジが溜まって表面に油が浮いているのを認めたものの、以前から雑用ポンプのグランドからの漏水量が多かったので、ビルジが増加したのはそのためでいつもどおり下部はほとんど海水であろうと思い、同時37分ごろビルジセパレータを通さずに直接ビルジポンプで同ビルジを船外に排出し、食堂に戻った。
事代丸は、その後潤滑油だめの潤滑油量が不足し、船体の動揺に伴って潤滑油圧力低下警報が作動したものの、A受審人が警報に気付かないまま主機の運転を続けているうち、潤滑が阻害されたピストンとシリンダライナとが焼き付き、07時40分三度埼灯台から真方位261度17.4海里ばかりの地点において、主機が自然に停止した。
当時、天候は曇で風力4の東北東風が吹き、海上はやや波があった。
損傷の結果、事代丸は、主機の運転が不能となり、僚船に曳航されて境港に帰港したのち修理業者が精査したところ、主機3番、4番及び5番シリンダの各ピストンとシリンダライナとが焼き付いていたほか、他シリンダのピストンやシリンダライナにも僅かな損傷が認められたので、のち損傷部品を新替えするなどの修理を行った。
他方、切損した銅管は、切損部の半周程度が黒く汚れていたことから、相当以前にき裂が生じて潤滑油が漏出し、徐々に同き裂が進行して切損に至ったことが判明した。
(原因)
本件機関損傷は、主機潤滑油系統の点検が不十分で、潤滑油管にき裂が生じたまま主機の運転が続けられ、同管が切損して潤滑油が機関外部に流出し、主機の潤滑油量が不足したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、3箇月ほど前に整備したばかりの主機の運転管理に携わり、潤滑油消費量が多いことを認めた場合、潤滑油が機関外部に漏出しているおそれがあったから、潤滑油漏出の有無が確認できるよう、潤滑油系統を十分に点検すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、潤滑油消費量がそれ以上増加しないので問題はあるまいと思い、潤滑油系統を十分に点検しなかった職務上の過失により、吸・排気弁タペットへ至る潤滑油供給管にき裂が生じて潤滑油が漏出していることに気付かないまま主機の運転を続け、同管の切損によって潤滑油の機関外部への流出を招き、潤滑油量不足により主機のピストンとシリンダライナとを焼き付かせるに至った。