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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成12年神審第117号
件名

漁船第八泰生丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成13年1月24日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西林 眞、阿部能正、小須田 敏)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第八泰生丸機関長 海技免状:六級海技士(機関)(履歴限定・機関限定)

損害
減速機損傷

原因
潤滑油冷却器冷却海水排出量の点検及び潤滑油の取替え管理不十分

主文

 本件機関損傷は、主機逆転減速機の潤滑油冷却器冷却海水排出量の点検及び潤滑油の取替え管理がいずれも不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成8年7月6日11時30分(日本標準時、以下同じ。)
 パラオ諸島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第八泰生丸
総トン数 19.88トン
登録長 14.95メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 558キロワット(定格出力)
回転数 毎分1,400(定格回転数)

3 事実の経過
 第八泰生丸(以下「泰生丸」という。)は、沖縄県泊漁港を基地とし、南方海域でのまぐろはえ縄漁業に従事する昭和56年3月に進水したFRP製漁船で、平成6年3月に主機、逆転減速機及び軸系を換装し、R社が製造した6N160−EN型ディーゼル機関及び、S所が製造したY−380型逆転減速機(以下「減速機」という。)が装備され、操舵室から遠隔操縦装置により、主機の増減速及び減速機の前後進切換え操作ができるようになっていた。
 減速機は、1段減速歯車と湿式多板油圧クラッチ(以下「クラッチ」という。)を内蔵したもので、たわみ軸継手を介して主機フライホイールに連結された入力軸兼用の後進軸と、その両側に同軸と入力歯車で噛み合って逆方向に駆動される左右対称に並んだ2本の前進軸とが、主機運転中は常時回転しており、前進軸及び後進軸の後部にはそれぞれクラッチを介して小歯車が装着され、これらの小歯車が出力軸に固定された大歯車と噛み合っていて、作動油圧によりクラッチ内に交互に10数枚組み込まれた摩擦板とスチール板(以下「クラッチ板」と総称する。)とが圧着されると、出力軸が前進側あるいは後進側に回転するようになっていた。
 減速機の潤滑油系統は、同機ケーシング底部にある容量約45リットルの油だめから、直結の歯車式潤滑油ポンプにより吸引加圧された潤滑油が、作動油圧調整弁で作動油系統と潤滑油系統とに分岐し、作動油は前後進切換弁を経て前進クラッチあるいは後進クラッチを作動させ、クラッチ嵌合中は16ないし18キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)の油圧に保たれるようになっていた。
 一方、作動油圧調整弁の逃がし穴を通過した潤滑油は、こし器及び潤滑油冷却器を経て潤滑油圧調整弁で0.5ないし2キロに調圧され、クラッチ内部、歯車、軸受などに給油されており、油圧が0.3キロに低下すると油圧低下警報装置が作動するようになっていた。
 また、減速機の潤滑油冷却器には、主機直結のヤブスコ式冷却海水ポンプ(以下「冷却海水ポンプ」という。)で吸引加圧された海水が、主機潤滑油冷却器から空気冷却器に至る主管から分岐した枝管により導かれ、冷却器冷却管の内部を通ったのち、独立した船外吐出弁から排出されるようになっていた。
 ところで、減速機の潤滑油は、運転時間の経過とともに、スラッジなどの不純物が生成されて劣化が進行するほか、冷却海水ポンプのインペラ羽根の損傷や同油冷却器冷却管内の汚損などで、通過する海水量が減少して同冷却器の冷却効果が低下すると、温度が上昇して性状劣化を早めるうえ、同機各部の潤滑を阻害するおそれがあった。このため、メーカーでは、潤滑油の取替えを3,000ないし4,000時間ごとに行うよう推奨し、同油の温度上昇を認めた場合には、同冷却器の冷却海水排出量を点検するとともに、早めに潤滑油を取り替えるなどの対策を講じるよう、取扱説明書に記載して機関取扱者に注意を促していた。
 A受審人は、本船建造時から乗り組み、当初は船長職を執ることもあったが、平成3年に入ってからは専ら機関長として機関の運転管理に当たり、主機については、船首側動力取出軸に主発電機を直結しているので、出港から入港まで連続使用として年間3,000時間程度運転しており、減速機の潤滑油量を検油棒で定期的に点検のうえ、操業を繰り返していたところ、換装して1年余り経過したころから減速機の潤滑油温度が徐々に上昇しているのを認めた。
 ところが、A受審人は、油圧低下警報装置が作動することがなかったので大丈夫と思い、減速機潤滑油冷却器の冷却海水排出量を十分に点検しなかったばかりか、その後も潤滑油を取り替えることなく運転を続けていたので、いつしか主機の換装時から使用されていた冷却海水ポンプインペラ羽根の根元に亀裂が生じるとともに、同冷却器の冷却管内の汚損が進行し、同冷却器を通過する冷却海水量が減少し始めたことも、換装以来取り替えていない同油の劣化が徐々に進行していることにも気付かなかった。
 こうして、泰生丸は、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的で、平成8年6月26日15時00分泊漁港を発し、パラオ諸島西方沖合の漁場に至って操業していたところ、冷却海水ポンプのインペラ羽根2枚が切損し、減速機潤滑油冷却器を通過する冷却海水量がさらに減少したことから、劣化の進行していた潤滑油の温度が著しく上昇したまま運転が続けられるうち、潤滑が阻害された前・後進クラッチ、各歯車及び軸受などが焼き付き、翌7月6日11時30分北緯08度35分東経128度51分の地点において、減速機が異音を発した。
 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 食堂で休憩していたA受審人は、異音に気付いて直ちに機関室に下り、減速機ケーシングが触手できないほど発熱しているのを認め、主機が中立運転中であったので、機側で減速機の前後進切換え操作を試みたが、前・後進クラッチとも嵌合しないことから運転不能と判断し、事態を船長に報告して救援を求めた。
 泰生丸は、来援した引船によってパラオ共和国コロール港に引き付けられ、減速機は陸揚げしてメーカーの工場に搬送され、開放点検の結果各部の損傷が激しく、のち修理費と工期の関係で同型機と換装された。

(原因)
 本件機関損傷は、減速機の潤滑油温度が上昇するようになった際、潤滑油冷却器の冷却海水排出量の点検及び潤滑油の取替え管理がいずれも不十分で、冷却海水ポンプのインペラ羽根の損傷及び同冷却器冷却管内の汚損により、通過する海水量が減少して同冷却器の冷却効果が低下するとともに、長期間の使用で劣化の進行していた同油の温度が著しく上昇するまま運転が続けられ、同機各部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、機関の運転管理に当たり、減速機の潤滑油温度が上昇するのを認めた場合、冷却海水量が減少しているおそれがあったから、同機潤滑油冷却器の冷却海水排出量の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、油圧低下警報装置が作動することがなかったので大丈夫と思い、同機潤滑油冷却器の冷却海水排出量の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、冷却海水ポンプインペラ羽根の損傷や同冷却器冷却管内の汚損がそれぞれ進行し、通過する海水量が減少して同冷却器の冷却効果が低下していることに気付かないまま運転を続け、長期間の使用で劣化の進行していた潤滑油の著しい温度上昇を招き、前・後進クラッチ、各歯車及び軸受などを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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