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平成12年門審第22号
件名

貨物船蛭子丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年3月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(相田尚武、供田仁男、西山烝一)

理事官
中井 勤

受審人
A 職名:蛭子丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
R株式会社 業種名:船舶修理業

損害
機関室から船員居住区及び船橋に延焼

原因
主機燃料油主管空気抜き弁の点検不十分

主文

 本件火災は、主機燃料油主管空気抜き弁の点検が不十分で、同空気抜き弁付根部から噴出した燃料油がインジケータ弁に降りかかったことによって発生したものである。
 造船所が、機関メーカー規格指定外の空気抜き弁装着の適否を確認しないまま、オーバーサイズの同弁に取り替えたことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年1月16日21時45分
 鹿児島県奄美大島北方沖合

2 船舶の要目
船種船名 貨物船蛭子丸
総トン数 198トン
登録長 52.51メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 661キロワット
回転数 毎分385

3 事実の経過
 蛭子丸は、平成元年4月に竣工した、鋼材や木材などの輸送に従事する鋼製貨物船で、船尾に船橋、船員居住区、調理室及び食堂などを有する3層からなる甲板室を配置し、同室下は機関室となっていた。
 機関室は、上段と下段に分かれ、下段中央に主機を装備し、その左舷側に発電機駆動用原動機(以下「補機」という。)を備え、上段左舷船首側にA重油の入った燃料油サービスタンクを配置し、上段船尾側に船楼甲板の機関室出入口に通じる階段を設けていた。
 主機は、T株式会社が製造した6LUD26G形と呼称するディーゼル機関で、各シリンダに船首側を1番として6番までの順番号が付けられ、各シリンダヘッドの左舷側に燃料油主管が船首尾方向に取り付けられ、各シリンダヘッドの左舷下方にインジケータ弁及び安全弁が装着されており、機関室及び船橋のいずれからでも操縦と非常停止の操作が行えるようになっていた。
 主機燃料油主管は、呼び径32ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼管で、その前端に鋼製座金を溶接付けし、これに空気抜き弁として、TMVR形と呼称する黄銅製ミニチュア弁(以下「ミニチュア弁」という。)が、ねじの呼びが4分の1の管用テーパねじ部で直接ねじ込んで装着され、同弁出口に外径6ミリの銅管が水平に取り付けられていた。
 ところで、機関メーカーでは前示の空気抜き用のミニチュア弁について、昭和62年6月に設計上の標準として同メーカー規格を制定し、同弁の取替えに際しては同規格の適合品を使用すること、及び同規格指定以外のものを使用する場合は同メーカーに照会し、適否を確認したうえ使用することと規定していた。
 蛭子丸は、平成11年1月7日中間検査工事のために入渠し、指定海難関係人R株式会社(以下「R社」という。)において、主機の開放整備が行われた。
 R社は、同月11日主機シリンダヘッドの復旧工事を終えたころ、同社工務課職員が、A受審人から漏洩していた前示ミニチュア弁の取替えの要請を受け、機関メーカーに問い合わせしたところ、入渠工事終了予定日の13日までに同型弁を入手することが困難であったことから、代替品として、ねじの呼びが8分の3のオーバーサイズの青銅製ユニオン形弁(以下「ユニオン弁」という。)に取り替えることとしたが、その際、機関メーカーに照会するなどの同弁装着の適否を確認しないまま、A受審人の了解を得て、11日燃料油主管に鋼製ニップル継手と鋳鉄製異径ソケットを介して装着したうえ、同弁出口に外径10ミリの銅管を垂直に取り付けて復旧した。
 蛭子丸は、1月13日09時10分から海上試運転と効力試験が行われ、燃料油主管空気抜き弁取付部において、ユニオン弁と異径ソケットなどの重量増加により、同主管の振動に伴い同空気抜き弁の振動が増大する状況となったものの、気付かれないまま、同空気抜き弁から漏油のないことが確認され、14時30分入渠工事を終えて運航が再開された。
 A受審人は、同10年5月から機関長として乗り組み、航海中の機関室当直を1人で行い、同室当直中は2時間ごとに同室の見回りを行っていたもので、入渠工事直後の当直中、燃料油主管空気抜き弁の振動が増大する状況となったが、見回り時に一瞥(いちべつ)して同空気抜き弁のサイズ変更による影響はないものと思い、同空気抜き弁の点検を十分に行わなかったので、このことに気付かなかった。
 こうして、蛭子丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、空コンテナ約30個を積載し、船首1.20メートル船尾3.15メートルの喫水をもって、同11年1月16日13時30分鹿児島県古仁屋港を発し、主機を回転数毎分350の全速力前進として同県鹿児島港に向かい、燃料油主管空気抜き弁が激しく振動する状況で航行中、19時からの機関室当直を、入渠工事直後で疲労していたA受審人より依頼を受けた司厨員が、21時ごろ機関室を見回りしたのち調理室にいたところ、同空気抜き弁付根部のニップル継手に過大な繰返し曲げ応力が集中して亀裂を生じ、燃料油が噴出して1番シリンダインジケータ弁に降りかかって着火し、21時45分宝島荒木埼灯台から真方位078度17.7海里の地点において、機関室見回りのため同室上段出入口に赴いた司厨員により、同室に充満する煙と炎の立ち上っているのが発見された。
 当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、海上には白波があった。
 A受審人は、自室で就寝中、司厨員の通報により船橋から停止措置がとられ、主機運転音が変化したことから目を覚まし、司厨員から機関室火災の報告を受けて同室に赴き、主機1番、2番シリンダ付近から炎と煙が立ち上っていることを認め、消火器による消火作業を行ったが鎮火できず、同室と船員居住区を含めた密閉消火を行った。
 蛭子丸は、火災が機関室から船員居住区及び船橋に延焼し、通報を受けて来援した巡視艇による放水消火作業が行われたのち、僚船により18日鹿児島県山川港に引き付けられ、11時50分ごろ鎮火したが、主機、補機及び電気配線などが焼損したほか、船員居住区及び船橋などが延焼したものの、のち修理された。
 R社は、本件後、機関付属部品の取替えについて、メーカー規格適合品を使用するか、または応急的な同規格指定外の部品の使用に際しては、メーカーに照会することを同社内で申し合わせ、同種事故の再発防止対策を講じた。

(原因)
 本件火災は、主機燃料油主管空気抜き弁の点検が不十分で、同空気抜き弁の振動が増大したまま主機の運転が続けられ、同空気抜き弁付根部のニップル継手に過大な繰返し曲げ応力が集中して亀裂を生じ、噴出した燃料油がインジケータ弁に降りかかって着火したことによって発生したものである。
 造船所が、機関メーカー規格指定外の空気抜き弁装着の適否を確認しないまま、オーバーサイズの同弁に取り替えたことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、入渠工事直後の機関室当直にあたり、同室内の見回りを行う場合、入渠時にオーバーサイズのものに取り替えられた主機燃料油主管空気抜き弁取付部には、重量増加により、同主管の振動に伴う同空気抜き弁の振動が増大するおそれがあったから、同空気抜き弁の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、見回り時に一瞥して同空気抜き弁のサイズ変更による影響はないものと思い、同空気抜き弁の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、同空気抜き弁の振動の増大に気付かないまま、同空気抜き弁付根部のニップル継手に過大な繰返し曲げ応力が集中して亀裂を生じさせ、燃料油の噴出により機関室火災を生じさせる事態を招き、主機及び補機などを焼損させ、船員居住区及び船橋などを延焼させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 R社が、機関メーカー規格指定外の空気抜き弁装着の適否を確認しないまま、オーバーサイズの同弁に取り替えたことは、本件発生の原因となる。
 R社に対しては、本件後、メーカー規格指定外の部品の使用に際しては、メーカーに照会するなど、同種事故の再発防止対策を講じている点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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