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平成12年神審第89号
件名

旅客船りつりん2火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年3月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(須貝壽榮、小須田 敏、西林 眞)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:りつりん2上席機関長 海技免状:三級海技士(機関)
B 職名:りつりん2機関長 海技免状:三級海技士(機関)
指定海難関係人
C 職名:りつりん2操機長
D 職名:G株式会社運航管理者

損害
右舷機弾性継手並びに機関室の照明及び各種計測機器への配線などが焼損、動弁装置用潤滑油ポンプなどの電動機とポンプが濡損、汚損、乗客1人が1週間の通院治療、B受審人とC指定海難関係人が気道熱傷及び皮膚熱傷を負って1週間の入院治療

原因
主機燃料油主管用固定板の取付け状態の点検不十分、機関室の火災防止措置不適切

主文

 本件火災は、主機燃料油主管用固定板の取付け状態の点検が不十分であったこと、及び主機燃料噴射ポンプの燃料油入口枝管に切損を生じて燃料油が漏れ出た際、機関室の火災防止措置が不適切で、同油が排気集合管に降りかかって着火したことによって発生したものである。
 運航管理者が、乗組員に対して機関室火災を想定した防火操練を定期的に実施するよう指導していなかったことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年2月28日22時20分
 播磨灘

2 船舶の要目
船種船名 旅客船りつりん2
総トン数 3,664トン
全長 115.91メートル
20.00メートル
深さ 11.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関
出力 8,826キロワット
回転数 毎分520

3 事実の経過
(1)運航概要
 りつりん2は、平成2年3月に進水した、航行区域を沿海区域とする最大搭載人員449人の、2基2軸を備えた全通船楼船首船橋型の鋼製旅客船兼自動車渡船で、僚船のこんぴら2及び神戸丸とともに、神戸港と香川県高松港との間を約4時間で結ぶ毎日上下各5便の定期運航に従事していた。
 G株式会社(以下「G社」という。)は、これら旅客船兼自動車渡船3隻のほか高速旅客船2隻を所有しており、乗組員については、一括公認を受けたうえで各船に配乗し、原則として4日乗船後2日休日の就労体制をとっていた。
(2)船体構造及び機関室機器配置
 りつりん2は、上甲板の前部が船首端の11メートル後方から船体中央部付近までの船楼、後部が車両積載用の暴露甲板となっており、上甲板上には、第1旅客甲板、第2旅客甲板、航海船橋甲板及び羅針儀甲板の4層の甲板を有し、上甲板下が車両甲板となっていた。
 車両甲板下は、船首から順に、フォアピークタンク、サイドスラスタ室、1番バラストタンク、空所、2番及び3番バラストタンク、3番バラストタンクの両側にはヒールタンクが設けられ、船体中央部から後方にかけて機関室があり、同室後方が燃料油タンク、4番ないし7番バラストタンク及び操舵機室などとなっていた。
 機関室は、幅約20メートル高さ約5メートルで、長さ約18メートルの主機室と、その後方にある長さ約9.6メートルの補機室とに区画され、主機室の左舷後方に車両甲板へ至る出入口階段を設けていた。
 主機室には、中央の左右両舷に各1基の主機(以下、右舷主機及び左舷主機を「右舷機」及び「左舷機」という。)を据え付け、その船首側に右舷方から左舷方にかけて集合始動器盤、機関監視装置のディスプレイを備えた電話室、主機冷却清水ポンプ、主機冷却海水ポンプ、燃料油加熱器、主空気槽及び主空気圧縮機を、右舷機の右舷側に燃料油清浄機、潤滑油清浄機及び主機燃料油供給ポンプなどを、左舷機の左舷側に造水装置、バラストポンプ、消防兼雑用水ポンプ及び油水分離器などを、両舷主機の船尾側に主機潤滑油ポンプ及び動弁装置潤滑油ポンプなどをそれぞれ配置し、同室と補機室との隔壁に油圧式水密滑り戸を設けていた。
 一方、補機室には、中央に交流電圧445ボルト容量1,025キロボルトアンペアの発電機をそれぞれ駆動する2基のディーゼル機関を備えていたほか、主配電盤、補助ボイラ及び工作機械庫などが配置されていた。
 ところで、機関室には、消防設備として、イオン式火災探知器、ハロン消火装置、海水消火装置並びに移動式及び持ち運び式泡消火器などを各所に配置しており、機関室入口の船首側側壁にハロン消火装置用の窒素ガス起動容器箱とともに、燃料油タンク遠隔遮断装置の作動空気ボンベを設置していた。また、火災警報装置、機関室通風機遠隔停止装置及び消火用海水ポンプ遠隔発停スイッチが操舵室に設けられていた。
(3)主機及び燃料油装置
 主機は、いずれもF株式会社が製造したNKK−SEMT−PIELSTICK8PC2−6L型と称する、通常燃料油としてC重油を使用する立型ディーゼル機関で、弾性継手及びクラッチ式逆転減速機を介してプロペラを駆動しており、各シリンダには船尾方から1番ないし8番の順番号が付され、シリンダジャケットの右舷側上部に燃料噴射ポンプ(以下「燃料ポンプ」という。)を、架構左舷の側上面には同ポンプより低い位置の船首尾方向に排気集合管をそれぞれ装備し、遠隔操縦装置、計器盤及び機関監視装置を設けた操舵室からすべての運転操作が可能であった。
 主機の排気系統は、各シリンダヘッドの排気弁から排出された排気ガスが、排気ベンド管及び伸縮継手を経て排気集合管に至り、1番シリンダの後部上方に設置された過給機を経たのち、上甲板左舷側に設けられた煙突から大気中に放出されるようになっていた。
 主機の燃料油系統は、C重油サービスタンクから1次こし器などを経た燃料油が、燃料油供給ポンプにより5ないし6キログラム毎平方センチメートルに加圧され、燃料油加熱器及び2次こし器を通って、両舷主機前方の床板下に設けられた各入口弁から、燃料ポンプ右舷側下方に付設され、1番シリンダ側が末端となる入口主管に導かれていた。
 そして、燃料油は、入口主管から各シリンダごとに分岐して遮断コック及び入口枝管を経て、燃料ポンプに供給される一方、同ポンプからの戻り油が出口枝管及び遮断コックから出口主管に合流し、主機ごとの圧力調整弁及び出口弁を経てセパレータに戻って環流するようになっており、主機の入口温度が、入口主管で摂氏115度になるよう自動温度調節器で制御され、同温度が摂氏100度に低下すると、機関監視装置に組み込まれた燃料油入口温度低下警報が作動するようになっていた。
 また、主機は、付設した燃料油管系の振動を防止するため、入口及び出口主管の各シリンダごとの枝管用ボスの間を、固定板とねじの呼び径12ミリメートル(以下「ミリ」という。)の取付けボルト2本とにより締め付けて固定するようになっていたが、いつのころからか、右舷機1番、8番及び左舷機3番シリンダにおいて、外側の取付けボルトに緩みが生じてめねじ部が損傷したため、同ボルトに代えてシージングワイヤで固縛されていた。
 ところで、燃料ポンプの入口及び出口枝管は、長さ約310ミリ外径17ミリ内径11.8ミリの、曲がり部を有する両端にニップルが溶接された鋼管で、燃料ポンプ本体と遮断コックとにユニオンナットでそれぞれ接続され、同ポンプ付漏油飛散防止カバーで覆われていたが、機関振動などの影響を受けて固定板に緩みを生じると、入口及び出口主管の振動が増大して過大な繰返し応力を受けるおそれがあった。
(4)受審人及び指定海難関係人
 A受審人は、昭和47年8月にG社に機関員として入社し、平成2年に一等機関士に昇任したのち、同10年4月からりつりん2の機関長として乗り組み、主機担当者となって同機及び関連機器の運転及び保守管理に当たっていたもので、乗船して数箇月経過したころ、左舷機3番シリンダの燃料油入口及び出口主管保温材が油で滲(にじ)んでいたことから、同シリンダの燃料ポンプ付漏油飛散防止カバーを開放し、遮断コックOリングからの漏油を認めて同コックを新替えした際、その下部の固定板の一方が取付けボルトに代えてシージングワイヤで固縛されていることを知った。
 ところが、A受審人は、それまで入口及び出口枝管に亀裂などを生じたことがなかったことから問題あるまいと思い、燃料ポンプ付漏油飛散防止カバーを開放して、定期的に固定板の取付け状態を点検していなかったので、右舷機1番シリンダの固定板にシージングワイヤが使用されていることも、同板に緩みが生じて両枝管に繰返し応力が作用し、それらが金属疲労により切損するおそれがあることにも気付かないまま、同12年2月27日午後高松港でB受審人と機関長を交代して休暇下船した。
 B受審人は、昭和48年3月にG社に機関員として入社し、その後機関士に昇任してりつりん2のほか、同社所有の各船に順次乗船後、平成12年1月からりつりん2の一等機関士兼機関長として乗り組んで補機担当者となり、機関長が休暇下船したときのみ機関長職を執っていたもので、それまで主機の燃料油管系に漏油などの異常は認めず、同年2月27日から機関長として機関の運転管理に当たっていた。
 C指定海難関係人は、昭和40年8月にG社に機関員として入社し、りつりん2の新造時に操機手として乗り組むなどしたのち、平成11年12月からりつりん2の操機長に昇格して機関の運転監視に当たっていた。
 D指定海難関係人は、昭和45年9月にG社に入社し、同54年12月からりつりん2などの船長を歴任し、平成3年6月から同社の運航管理者兼海務部長となって運航船舶の安全運航業務に当たり、同社が定めた運航管理規程に基づいて乗組員などに対して、輸送の安全を確保するための指導、安全教育を実施するようになっていたが、これまで機関室での火災事故がなかったことから、防火操練実施内容を各船に任せ、同室からの出火を想定した操練を定期的に実施するよう指導せず、また、防火に対する安全教育も行っていなかった。
(5)火災に至る経過
 りつりん2は、船長K、B受審人及びC指定海難関係人ほか11人が乗り組み、乗客57人及び車両50台を載せ、船首4.0メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平成12年2月28日20時03分高松港を発し、神戸港に向かった。
 C指定海難関係人は、20時10分操舵室で主機操縦ハンドルを操作していたB受審人と交代したのち、約30分かけて両舷主機の回転数を毎分465に増速し終え、21時ごろ機関室に赴いて前直の操機手と引継ぎのうえ機関当直を交代し、電話室内にある機関監視装置のディスプレイで機関の運転状況を確認するとともに、主機室及び補機室を見回って各部の点検を行い、その後補機室内において発航前に受け入れた機関部品の整理に取り掛かった。
 やがて、りつりん2は、播磨灘を東行中、かねてから右舷機1番シリンダの燃料油入口及び出口主管用固定板の緩みにより、両主管の振動が増大し、過大な繰返し応力が作用していた同シリンダの燃料油入口枝管において、同応力の集中した燃料ポンプ側のニップル付根部に金属疲労による亀裂を生じ、これが進展して切損し、燃料油が漏れ始めて1番及び2番のシリンダジャケット間を伝わって左舷側にも流れ出す状況となった。
 機関部品の整理を終えたC指定海難関係人は、両舷主機間の通路を通って電話室に戻ろうとしたとき、右舷機1番シリンダ付近の左舷側クランクケースに燃料油が流れ落ちているのを発見したが、直ちに機関長にその状況を報告しないまま、22時10分過ぎ電話室から操舵室に両舷主機の停止を要請した。
 このころ自室で休息していたB受審人は、船橋当直中の一等航海士から、機関当直者からの依頼により両舷主機のクラッチを中立にする旨の連絡を受け、急いで操舵室に赴いたところ、C指定海難関係人からの電話で「主機から燃料油が漏れ出ている。」との報告を受けたが、同指定海難関係人が経験豊富で主機の操作にも慣れているので大丈夫と思い、直ちに燃料油供給ポンプの停止や当該燃料油入口弁を閉弁するなどの、主機への燃料油供給を遮断する措置を的確に指示することなく、一等機関士を操舵室に呼んでおくよう一等航海士に指示して機関室に向かった。
 操舵室へ2度目の電話連絡を終えたC指定海難関係人は、両舷主機が中立運転となったので、右舷機の燃料油供給を遮断しようと、バルブハンドルを用意したところ、漏れ出た燃料油の一部が排気集合管にかかり、小さな炎となって落下し始めたことに気付き、気が動転して燃料油入口弁の位置を十分に確認しないまま、22時15分過ぎ右舷機の入口弁を閉弁するつもりで左舷機の同弁を閉弁したうえ、右舷機の出口弁を閉弁した。
 このため、右舷機では、前示入口枝管の切損部から多量の燃料油が流出するようになるとともに、通油量の急増で自動温度調節器の追従が遅れ、22時17分機関監視装置の燃料油入口温度低下警報が作動した。
 C指定海難関係人は、弁操作後、流出する燃料油量が著しく増加するようになり、流出油が排気集合管などの高温部に降りかかって床面に落下する火炎が多くなったのを認めたものの、直ちにその状況を操舵室に通報せず、1人で火炎に向け持ち運び式泡消火器(以下「消火器」という。)を使用して消火に当たった。
 こうして、りつりん2は、多量に流出した燃料油が排気集合管の上部まで燃え上がるようになり、機関室に降りたB受審人が、同室に黒煙が充満しているのを認めて手探りで電話室にたどり着き、22時20分江埼灯台から224度(真方位、以下同じ。)7.7海里の地点において、操舵室に機関室火災を通報した。
 当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、海上には少し白波があった。
 B受審人は、消火器を使用するも火勢が強まったので、燃料油を遮断するため車両甲板に上がったものの、燃料油タンク遠隔遮断装置を確実に操作しないで機関室に戻り、引き続き消火器や放水などで消火に努めたが、効なく、やがてタンクトップ上に流出した燃料油にも着火して火炎が一気に船尾方に走り、発煙もますます激しくなったことから、C指定海難関係人に密閉消火に備える旨を告げ、同人とともに22時40分少し前機関室から脱出した。
 この間、操舵室では、B受審人から通報を受けた直後、火災警報装置が機関室の火災を探知し、船橋当直者からの報告で操舵室に駆け付けたK船長が、乗組員を呼集して所定の消火部署配置に就かせ、乗客を安全な場所に避難させるとともに、海上保安部及びD指定海難関係人などに機関室からの火災発生を通報し、その後播磨灘の航路筋から離れ、22時35分江埼灯台から248度7.7海里の地点に投錨して右舷機を停止した。
 りつりん2は、乗組員全員の所在を確認したのち、主機室と補機室との水密滑り戸の閉鎖、すべての機関室通風機の停止及び同機ダンパーの閉鎖などの密閉作業を行い、一等機関士が燃料油タンク遠隔遮断装置を作動させて主機及び補機などへの燃料油供給を遮断するとともに、船長の指示により22時45分機関室にハロンガスを放出した。
 そして、りつりん2は、23時20分ごろ機関室の火災がほぼ鎮火し、第2旅客甲板の和室に集合していた乗客を来援した巡視艇などで兵庫県明石港に避難させるとともに、一酸化炭素中毒の乗客1人並びに消火作業で熱傷を負ったB受審人及びC指定海難関係人を病院に搬送し、翌29日04時40分引船による曳航が開始され、09時00分神戸港第1区にある新港第3突堤のフェリー乗場に引き付けられた。
(6)事後措置
 火災の結果、りつりん2は、右舷機弾性継手並びに機関室の照明及び各種計測機器への配線などが焼損し、両舷主機過給機、発電機、機関室後部に設置された主機潤滑油ポンプ及び動弁装置用潤滑油ポンプなどの電動機とポンプが濡損、汚損したが、のちいずれも損傷部品の取替え、内部洗浄、開放整備などが行われた。
 また、一酸化炭素中毒を負った乗客1人が1週間の通院治療を受け、B受審人及びC指定海難関係人は、いずれも気道熱傷及び皮膚熱傷を負って1週間の入院治療を受けた。
 本件発生後、D指定海難関係人は、乗組員から出火原因及び消火状況を聴取した結果、機関室火災における通報、消火体制の確立及び機関当直者の防火に対する認識がいずれも不十分であったことから、各船に対して今後同室からの出火を想定した防火操練を定期的に実施するよう指導するとともに、船長及び機関長などを召集して安全衛生会議を開催し、防火に対する安全教育を取り入れたほか、工務監督と協議して機関の定期点検及び機関部巡検要領を改善するなど、同種事故の再発防止策を講じた。

(原因)
 本件火災は、主機燃料油入口及び出口主管用固定板の取付け状態の点検が不十分で、右舷機1番シリンダの同固定板に緩みを生じたまま運転が続けられ、燃料ポンプの燃料油入口枝管が過大な繰返し応力の作用によって金属疲労したこと、及び播磨灘を東行中、同枝管が切損して燃料油が漏れ出た際、機関室の火災防止措置が不適切で、右舷機への燃料油供給が直ちに遮断されず、流出した燃料油が右舷機排気集合管などの高温部に降りかかって着火したことによって発生したものである。
 機関室の火災防止措置が適切でなかったのは、燃料油漏れの報告を受けた機関長が、機関当直者に対して、当該主機への燃料油供給を遮断する措置を的確に指示しなかったことと、同当直者が、右舷機の燃料油入口弁のつもりで左舷機の同入口弁を閉弁したばかりか、流出した燃料油が右舷機排気集合管などに降りかかって着火するのを認めた際、直ちに火災発生を操舵室に通報しなかったこととによるものである。
 運航管理者が、乗組員に対して機関室火災を想定した防火操練を定期的に実施するよう指導していなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の保守管理に当たり、主機燃料油入口及び出口主管用固定板の一部に、取付けボルトに代えてシージングワイヤで固縛していることを認めた場合、固定板に緩みを生じると両主管の振動が増大し、燃料ポンプ燃料油入口枝管が過大な繰返し応力を受けて金属疲労による切損を生じるおそれがあったから、同ポンプ付漏油飛散防止カバーを開放して、定期的に固定板の取付け状態を十分に点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで入口及び出口枝管に亀裂などを生じたことがなかったことから問題あるまいと思い、定期的に固定板の取付け状態を十分に点検しなかった職務上の過失により、右舷機1番シリンダの固定板に緩みが生じていることに気付かないまま運転を続け、金属疲労した同入口枝管が切損し、多量の燃料油を流出させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、機関当直者から主機から燃料油が漏れ出ているとの報告を受けた場合、機関室火災に至ることのないよう、同当直者に対して、直ちに当該燃料油入口弁を閉弁するなどの、燃料油供給を遮断する措置を的確に指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、同当直者が経験豊富で主機の操作に慣れているので大丈夫と思い、燃料油供給を遮断する措置を的確に指示しなかった職務上の過失により、依然同機に燃料油が供給されて流出し、同油が排気集合管などの高温部に降りかかって機関室火災を招き、右舷機弾性継手並びに機関室の照明及び各種計測機器への配線などを焼損させたほか、両舷主機過給機、発電機、機関室後部に設置された主機潤滑油ポンプ及び動弁装置用潤滑油ポンプなどの電動機とポンプを濡損、汚損させ、乗客1人に一酸化炭素中毒を、機関当直者に熱傷をそれぞれ負わせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、右舷機の燃料ポンプから燃料油が漏れ出ているのを認めた際、同機への燃料油供給を遮断しようとして、右舷機の燃料油入口弁のつもりで左舷機の同入口弁を閉弁したばかりか、同油が排気集合管などに降りかかって着火するのを認めた際、直ちに火災発生を操舵室に通報しなかったことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、燃料油の漏洩を認めた際の弁操作が適切でなかったことなどを深く反省している点に徴し、勧告しない。
 D指定海難関係人が、乗組員に対して、機関室火災を想定した防火操練を定期的に実施するよう指導していなかったことは、本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては、本件発生後、機関室火災を想定した防火操練を定期的に実施するよう指導するとともに、船長及び機関長などを招集して安全衛生会議を開き、防火に対する安全教育を取り入れるなど、同種事故の再発防止策を講じた点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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