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平成12年神審第29号
件名

漁船第三十一朝日丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年2月15日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(西林 眞、阿部能正、西田克史)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:第三十一朝日丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
水線上の構造物を焼失、沈没

原因
集魚灯用安定器の点検不十分

主文

 本件火災は、集魚灯用安定器の点検が不十分で、絶縁材料が劣化していた同安定器の電路が短絡し、絶縁材料や電線被覆が過熱発火したことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年6月3日18時35分
 能登半島西方沖合

2 船舶の要目
船種船名 第三十一朝日丸
総トン数 14トン
登録長 16.40メートル
3.99メートル
深さ 1.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160

3 事実の経過
 第三十一朝日丸(以下「朝日丸」という。)は、平成2年2月に進水した、いか一本つり漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板下が船首から順に、4区画の魚倉、機関室、集魚灯用安定器室(以下「安定器室」という。)、操舵機室及び倉庫となっていて、上甲板上の中央から船尾寄りに機関室囲壁及び船員室兼賄室があり、機関室囲壁の前方上部に操舵室が位置し、漁労設備として、自動いかつり機11台及びメタルハライド灯72個とハロゲン灯12個の計84個の集魚灯を装備していた。
 集魚灯への給電経路は、主機動力取出軸から空気式クラッチを介して駆動される交流220ボルト300キロボルトアンペアの集魚灯用発電機から、機関室に設置の集魚灯配電盤に組み込まれた、12系統を有する電磁接触器及びノンヒューズブレーカー(以下「ブレーカー」という。)を順に経て給電され、このうち放電式のメタルハライド灯には、点灯時の放電を開始させるための始動電圧を確立するとともに放電後の電圧を一定に保つ必要があることから、ブレーカーと同灯との間に、変圧器及びコンデンサなどを内蔵した集魚灯用安定器(以下「安定器」という。)が接続されており、各電磁接触器は操舵室から遠隔開閉操作が行えるようになっていた。
 安定器室は、長さ2.5メートル幅1.8メートル高さ1.15メートルの、両舷を燃料油タンクに挟まれた区画で、両舷側壁に沿って木製3段式の安定器格納棚を据え、各段に6ないし7個、計37個の安定器が約10センチメートルの間隔をもってボルト締めで配列され、天井部には同室への唯一の出入口として船員室に通じる長さ1.0メートル幅1.2メートルの開口部を設け、常時蓋がかぶせられていた。また、同室は、換気装置として、後部仕切壁の左舷側上部に船尾甲板から外気を吸引する吸気通風機1台、機関室隔壁の両舷上部に排気通風機各1台を備え、集魚灯用発電機の運転と連動するようになっていたが、通風機の配置から換気の流路が限定され、右舷後部付近に設置された安定器の周辺温度が高くなる傾向があった。
 ところで、安定器は、周辺温度が高いまま通電を続けたり、長期間使用を続けていると、巻線、コンデンサ及び口出線などに用いられている絶縁材料の劣化が進行し、電路が短絡して異常発熱するおそれがあり、安全装置として過電流継電器及びブレーカーが給電経路に組み込まれていたが、同装置が作動しなかったり、作動時限に達するまでに、電線被覆が燃え上がることもあるので、点灯後に安定器の異常発熱の有無などを点検するとともに、定期的に絶縁抵抗測定を実施する必要があった。
 A受審人は、朝日丸の新造時から、自らが船長、弟のEが甲板員として2人で乗り組み、毎年3月中旬から10月にかけて山口県沖から北海道沖まで日本海を北上し、11月初めには再び石川県沖に南下して翌年2月末まで操業することを繰り返しているもので、安定器については、ブレーカーの作動やコンデンサの容量抜けなどによって、集魚灯が消えたり、明るさが落ちたものだけ点検を行い、基地である石川県飯田漁港に立ち寄った際、地元の電気業者に不良品の修理を依頼するとともに、新品又は整備済みの同器を受け取り、同5年以降は取替え作業をすべて自分で行っていた。
 また、A受審人は、朝日丸においてこれまでに2回ばかり安定器が異常発熱しているのを発見したことがあり、このうち同9年12月ごろには、安定器室からの異臭に気付いて同室に急行したところ、右舷側最下段中央部の安定器がブレーカーが作動しないまま後側が黒く焦げているのを認め、すぐに入力配線を外したので事なきを得たことがあり、同器が絶縁材料の劣化により、異常発熱して発火するおそれがあることを知っていた。
 ところが、A受審人は、その後も集魚灯が消えたときに点検すれば大事に至ることはあるまいと思い、点灯後に安定器の異常発熱の有無などを確認するほか、絶縁抵抗測定を電気業者に依頼するなどして、安定器の点検を十分に行うことなく、特に翌10年3月以降は安定器室に入ることもないまま操業を繰り返していたので、同室右舷側の最下段後部付近に設置していた安定器の絶縁材料の劣化が著しく進行していることに気付かなかった。
 こうして、朝日丸は、A受審人及び勉甲板員が乗り組み、操業の目的で、同11年6月3日13時30分石川県金沢港を発して能登半島西方沖合の漁場に向かい、18時30分同漁場に至ってパラシュート形シーアンカーを投入したのち、主機を回転数毎分1,800にかけて集魚灯用発電機を運転し、全数の集魚灯を点灯したところ、前示安定器の電路が短絡したがブレーカーが作動せず、短絡電流が流れて絶縁材料や電線被覆が瞬時に過熱発火するとともに、同器収納棚に燃え移り、18時35分猿山岬灯台から真方位273度30.4海里の地点において、火災となった。
 当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、自動いかつり機を運転して操業を開始し、しばらくして機関室に下りて操舵機油圧ポンプの作動油の補給作業を行っていたところ、ビニールが焦げる臭いを感じるとともに、同室後部隔壁の右舷側上部に貫通している安定器室排気ダクトから煙が出ていることに気付き、集魚灯のスイッチを切るために急ぎ操舵室に駆け付けたが、すでに賄室でプロパンガスを使用して夕食の準備中に火災に気付いた勉甲板員がスイッチを切っていたので、主機を停止回転の回転数毎分800に下げたのち、2人で船員室に向かった。
 そして、A受審人は、船員室床面の安定器室出入口蓋を開け、持運び式粉末消火器2本を右舷側安定器格納棚に向けて散布したが、効なく、煙と火勢が強まったために船員室から逃れ、続いて外側から海水ホースによる放水を試みたものの、ますます火勢が増したので付近の僚船に救援を求め、18時50分勉甲板員とともに船首部に避難して救援を待ち、19時00分来援した僚船に移乗した。
 その後、朝日丸は、巡視船による放水消火作業が続けられたが、水線上の構造物を焼失して沈没し、僚船が接舷する際、勉甲板員が僚船の船首部に押されて自船のたつに背中を強打し、外傷性頭頚症候群で1箇月間の入院加療を受けた。

(原因)
 本件火災は、安定器の点検が不十分で、絶縁材料が著しく劣化するまま使用が続けられ、集魚灯を点灯した際、電路が短絡して絶縁材料や電線被覆が瞬時に過熱発火し、付近の構造物に燃え移ったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、安定器の運転管理に当たる場合、絶縁材料の劣化が進行すると、異常発熱して発火するおそれがあることを知っていたのであるから、集魚灯を点灯後に安定器の異常発熱の有無などを確認するほか、定期的に絶縁抵抗測定を電気業者に依頼するなどして、安定器の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、集魚灯が消えたときに点検すれば大事に至ることはあるまいと思い、安定器の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、絶縁材料が著しく劣化するまま使用を続け、同灯を点灯した際、電路が短絡し、絶縁材料や電線被覆が瞬時に過熱発火して火災を招き、船体を全損させたほか、乗組員を負傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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