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平成12年仙審第38号
件名

漁船第五稲取丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年2月15日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(根岸秀幸、上野延之、藤江哲三)

理事官
山本哲也

受審人
A 職名:第五稲取丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
船体外板が焼失、沈没

原因
主配電盤内部の配線の点検不十分

主文

 本件火災は、主配電盤内部の配線の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年4月18日10時35分
 宮城県金華山南東方沖合

2 船舶の要目
船種船名 漁船第五稲取丸
総トン数 19.23トン
登録長 14.98メートル
3.45メートル
深さ 1.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 573キロワット

3 事実の経過
 第五稲取丸(以下「稲取丸」という。)は、昭和47年10月に進水し、専ら突棒漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板上には、船体ほぼ中央を前壁とする機関室囲壁及びその後方に食堂があり、同囲壁天井の前部中央に操舵室が設置されていたほか、船首端から約6メートルにある前部マストの高さ約5.5メートルに見張り台が取り付けられており、また、上甲板下には、船首側から順に漁具庫、氷倉、魚倉、機関室及び船員室が設けられていて、食堂の後壁両舷及び前壁右舷側に上甲板上への出入口扉がそれぞれ取り付けられ、前壁右舷側出入口扉の左側に機関室への引き戸が設置されていた。
 機関室は、長さ約5.0メートル幅約3.5メートル高さ約2.0メートルの直方体を成していて、同室中央に主機が据え付けられ、同機の前部動力取出軸からベルト駆動される右舷発電機(以下「発電機」という。)及び同じくクラッチ駆動される左舷発電機が取り付けられており、また、同室両舷船尾側に合計の容量が約6.5キロリットルの船体付き燃料タンク4個が配置されていたほか、同室の前後隔壁及び左右外板の内壁部には厚さ約3ミリメートルのベニヤ板板製の化粧板が内張りされていた。
 発電機は、220ボルト20キロボルトアンペアの交流発電機で、機関室前部右舷側に設置した長さ約90センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約70センチ奥行約30センチのライブフロント型主配電盤(以下「配電盤」という。)を介し、機関室軸流通風機2台及び雑用海水ポンプなどの220ボルト動力系統並びに操舵室及び機関室などの110ボルト照明系統の電源となっていたほか、充電器を経由して直流24ボルト200アンペア時間の蓄電池を充電する電源となっていた。
 ところで、配電盤は、平成7年ごろから同盤内部の計器端子台の緩みによる焼損、各スイッチの接触不良による焼損、配線ベークライト板の絶縁不良及び配線被覆の劣化による焼損などが相次いで発生し、稲取丸の電気設備を艤装した地元の電気修理業者によってその都度修理されており、また、同9年4月定期検査を受検した際には、絶縁低下の計測が施行されていた。
 A受審人は、稲取丸の新造時に甲板員として乗船した経歴を有し、昭和53年から船長職を執っていたもので、機関員には操業中の機関室内の見回り程度を行わせ、機関の整備及び修理などについては自らの判断で決定し、実質的な機関管理者を兼務しており、平成10年4月に主機を新品と換装したりなどして、岩手県大槌漁港を基地とし、三陸沖合、日本海及びオホーツク海などの漁場で夜間は漂泊して昼間いるか漁を行い、一航海が長くて1週間程度の操業に従事していた。
 ところで、A受審人は、配電盤を含む電気機器類については、計器端子台の緩みによる焼損、配電盤ベークライト板の絶縁不良及び機関室照明用の配線被覆の劣化など、不具合が発生すると電気修理業者に整備及び修理を依頼していたものの、配電盤内部の配線については、絶縁低下の計測を3年毎の検査時に電気修理業者に行わせているから大丈夫であろうと思い、同修理業者に依頼するなどして同配線の点検を十分に行うことなく、同盤内部の絶縁が劣化した配線が短絡するおそれがあることに気付かず、前示の操業に従事していた。
 こうして、稲取丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、いるか生態の研究者1人を同乗させ、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同12年4月17日02時05分大槌漁港を発し、05時00分ごろ岩手県綾里埼沖合の漁場に至って操業を開始し、その後いるかの群れを追って漁場を移動しながら操業を継続していたところ、翌18日早朝A受審人が前部マストの見張り台に登り、発電機を船内電源とし、主機を回転数毎分1,500にかけて12ノットの速力で北上しながらいるかの群れを追尾中、配電盤内部の絶縁が劣化した配線が短絡して配線被覆に着火し、配電盤から機関室内壁に燃え移り、10時35分金華山灯台から真方位145度32海里の地点において、機関室が火災となった。
 当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 その後、稲取丸は、間もなく船内電源を喪失して機関室の通風機が停止し、空気不足となった主機が燃焼不良で煙突から黒煙を排出するようになり、10時45分ごろ前部甲板上で銛(もり)の手入れをしていた機関員が黒煙に気付き、その旨を見張り台にいるA受審人に告げたのち機関室へ向かい、食堂前壁右舷側の出入口扉を開けたところ、開放したままの機関室引き戸を通じて新鮮な外気が機関室内に流入し、同室内の火勢が一気に強まった。また、機関員から報告を受けたA受審人は、主機の異状と判断して操舵室で主機を停止したとき、同室床の機関室入口ハッチの隙間から煙が上がっているのを認め、蓄電池電源の無線機で僚船に救助を求めるなど、事後の措置に当たった。
 その結果、稲取丸は、11時55分ごろ到着した海上保安部の巡視船による消火作業が開始されたが、残存していた燃料油に引火するなどして船体外板が焼失し、13時36分浮力を喪失して付近の海域に沈没し、一方、乗組員等は、10時53分ごろ来援した僚船に全員が救助された。

(原因)
 本件火災は、突棒漁業に従事する船齢28年のFRP製漁船において、電気設備の運転管理に当たる際、配電盤内部の配線の点検が不十分で、絶縁が劣化した同配線が短絡して配線被覆に着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、突棒漁業に従事する船齢28年のFRP製漁船において、電気設備の運転管理に当たる場合、配電盤内部の配線の短絡のおそれの有無を確認できるよう、電気修理業者に依頼するなどして、配電盤内部の配線の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、絶縁低下の計測を3年毎の検査時に電気修理業者に行わせているから大丈夫であろうと思い、配電盤内部の配線の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、絶縁が劣化した配線が短絡するおそれがあることに気付かず、同配線が短絡して配線被覆に着火し、機関室内壁などに燃え移って同室の火災を招き、船体外板を焼失させて船体を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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