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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 火災事件一覧 >  事件





平成12年広審第32号
件名

漁船第十八共幸丸火災事件

事件区分
火災事件
言渡年月日
平成13年1月16日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(内山欽郎、工藤民雄、横須賀勇一)

理事官
安部雅生

受審人
A 職名:第十八共幸丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
過給機や機関室通風機、蓄電池や電気配線等を焼損

原因
機関室の点検不十分

主文

 本件火災は、機関室の点検が不十分で、遠心こし器から噴出・飛散した主機の潤滑油が、過給機に降りかかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成11年5月12日07時00分ごろ
 島根県隠岐郡浦郷港

2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八共幸丸
総トン数 11トン
登録長 14.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 102キロワット(計画出力)

3 事実の経過
 第十八共幸丸(以下「共幸丸」という。)は、昭和58年に進水した、船体のほぼ中央部に操舵室を有し、同室の船尾側に機関室囲壁を設けたFRP製の漁船で、機関室の中央船尾寄りに主機を、主機の右舷船尾部に船内電源用の蓄電池をそれぞれ装備し、主機の船首側に当たる機関室囲壁の天井には、左右両舷に各1台の機関室通風機を備えていた。
 主機は、S社製の6LAA−DT型と称する計画出力102キロワット同回転数毎分1,300(以下、回転数は毎分のものとする。)の過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、潤滑油系統は、直結駆動の潤滑油ポンプによって潤滑油だめから吸引・加圧された潤滑油が、潤滑油こし器及び潤滑油冷却器を経て主機に供給され、各部を潤滑したのち潤滑油だめに戻って循環するほか、潤滑油こし器の手前で分岐した潤滑油の一部が、遠心こし器で清浄されたのち潤滑油だめに戻って循環するようになっていた。また、同主機は、船尾側上方に冷却水タンクを、右舷側に冷却水で冷却される排気集合管を及び同集合管上方の中央から船首寄りに過給機をそれぞれ備え、冷却水タンクと排気集合管船尾端との間に遠心こし器を設置していた。
 ところで、遠心こし器は、潤滑油通路等を有する本体、円形の本体上面中心部に垂直に植え込まれたスピンドル、同スピンドルを軸として回転する円筒型の回転体及び本体上部を覆う飛散防止用の円筒型のカバーで構成され、回転体が、その下部に設けた直径1.8ミリメートルの孔を有する2個のノズルから潤滑油を噴出させることによって自ら回転し、遠心力によって潤滑油中の固形物を除去するようになっていた。また、飛散防止用のカバーは、その頂面をスピンドルの先端が貫通し、袋ナットで本体上面に締め付けられる構造で、本体上面とカバー間はゴムパッキンで油密が保たれるようになっていた。
 共幸丸は、現所有者が平成2年に購入以来、島根県隠岐郡の浦郷港を基地として、主に揚網中の引船として中型まき網漁業に従事し、夕方出漁して12時間ほど主機を連続運転したのち翌朝帰港するという操業を年間200回ほど繰り返していたところ、いつしか、遠心こし器スピンドル下部のねじ部に亀裂が発生し、同こし器のカバーを締め付けている袋ナットの締付け力が弱くなっていた。
 A受審人は、本船の購入以来、船長として乗り組んでいたもので、全速力前進時の主機の回転数を、購入時に負荷制限装置が取り外されていたものか1,850と定め、出漁前に冷却水量及び潤滑油量の点検を行い、6箇月ごとに潤滑油こし器を掃除して潤滑油を取替るなど、自ら機関の点検・整備も行いながら操業に従事していたが、同8年5月以来遠心こし器の開放・掃除を行っていなかった。
 同11年5月11日共幸丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、19時ごろ船団の僚船とともに浦郷港を発し、同港北方沖合の漁場に至って操業を行い、翌12日06時ごろ操業を終え、主機の回転数を1,850として帰港の途に就いた。
 ところで、A受審人は、出漁に先だって機関室の点検を行い、冷却水量を点検するとともに潤滑油を規定量まで補給したものの、出港後に主機を12時間も連続運転するのに、帰港するまでは問題あるまいと思い、定期的に機関室の点検を行わなかったので、主機の運転中に遠心こし器カバーの袋ナットの緩みが進行し、いつしか本体上面と同カバーの油密部から潤滑油が漏洩する状況となったが、このことに気付かなかった。
 こうして、共幸丸は、美田湾に通じる水路の手前で主機の回転数を約1,300に下げ、さらに600まで下げて同水路を通過したのち、再び回転数を1,300に上げて続航中、遠心こし器カバーの袋ナットが脱落するとともにカバーが回転体と接触するかして外れ、ノズルから噴出・飛散した潤滑油が過給機排気入口の断熱材が施されていなかった排気温度計周囲の高温部に降りかかって着火し、間もなく機関室内が火災となって煙が充満したことにより、07時00分ごろ浦郷港弁天防波堤灯台から真方位125度360メートルの地点において、主機が、煙を吸い込んで空気不足となり、回転が低下したのち自然に停止した。
 当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 操舵室で操船していたA受審人は、主機の異常に気付いて操舵室を出たところ、排気用として使用していた右舷側の通風筒から黒煙が出ているのを認めたので機関室で火災が発生したと判断し、機関室囲壁上部のスカイライトを開放して甲板員と2人で消火に当たり、07時10分ごろ火災を鎮火した。
 火災の結果、共幸丸は、過給機や機関室通風機及び蓄電池や電気配線等を焼損したほか安定器などに消火液による濡損を生じ、のち焼損機器を新替えするなどの修理を行った。

(原因)
 本件火災は、主機を運転して航行中、機関室の点検が不十分で、遠心こし器から噴出・飛散した主機の潤滑油が、過給機に降りかかり、断熱材が施されていなかった高温部で着火したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機を運転して航行する場合、無人の機関室で燃料油や潤滑油が噴出・飛散すると、同油が過給機等の高温部に降りかかって火災に発展するおそれがあるから、漏油の段階で早期に発見できるよう、定期的に機関室の点検を行うべき注意義務があった。ところが、同人は、出漁前に点検したので帰港するまでは問題あるまいと思い、出港後に一度も機関室を点検しなかった職務上の過失により、遠心こし器から潤滑油が漏洩していることに気付かないまま主機の運転を続け、同こし器のカバーが外れて噴出・飛散した潤滑油が過給機に降りかかる状況を生じさせて火災を招き、過給機や機関室通風機のほか蓄電池や電線類等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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