(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年6月15日09時25分
石巻港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第七十佐賀丸 |
作業船とうか3 |
総トン数 |
64.54トン |
11.23トン |
全長 |
26.00メートル |
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登録長 |
9.15メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
257キロワット |
132キロワット |
3 事実の経過
第七十佐賀丸(以下「佐賀丸」という。)は、岩手県大船渡港を基地とし、主として台船の曳航業務に従事する鋼製引船で、A受審人及び機関長が乗り組み、曳航支援員のB受審人を甲板員として乗せ、石巻港に係留されているとうか3(以下「3号」という。)を大船渡港に曳航する目的で、平成11年6月14日06時00分同港の基地を発して石巻港に向かい、13時00分石巻港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から北方約1海里の、旧北上川沿いの岸壁に係留されている3号の北側に着岸し、翌日08時00分ごろ発航する予定にして係留した。
A受審人は、翌15日06時00分ごろ目覚めて沖合を見たところ、折からの下げ潮で旧北上川の流れが強く、河口付近に三角波が発生しているのを認めたので、B受審人を3号の操船に当たらせて同船を自力で航行させ、河口沖合の海域で同船と合流して曳航を開始することにした。
こうして、佐賀丸は、A受審人が機関長と2人で乗り組み、船首1.20メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、08時00分前示岸壁を発し、旧北上川を南下したのち東防波堤灯台南方約0.5海里の地点で漂泊して3号を待ち、同時20分同灯台から140度(真方位、以下同じ。)0.3海里の地点で3号と合流した。
また、3号は、B受審人が1人で乗り組み、船首1.00メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、08時10分前示岸壁を発して旧北上川を南下し、同時20分前示のとおり合流した。
ところで、3号は、まき網漁業に従事する網船の投網作業を支援する、通称レッコーボートとして昭和57年に進水した鋼製小型船で、船体中央部に機関室があり、甲板上には機関室囲壁があって同囲壁の船首方に機関操縦装置と舵輪とが設けられ、船首端から船尾方約80センチメートルにビットが設けられていた。
合流したのち、A受審人は、直径70ミリメートルの合成繊維索の先端に設けたアイを3号のビットにかけてB受審人を佐賀丸に乗り移らせ、同索を船尾から約80メートル伸出し、佐賀丸の船首端から3号の船尾までが約110メートルの曳航状態として自ら操舵操船に当たり、宮城県牡鹿半島の南西岸と田代島及び網地島との間の海域を航行する予定にし、08時30分針路を田代島北端に向首する140度に定め、機関を曳航速力4.0ノットの回転数毎分600(以下、回転数は毎分のものとする。)にかけて合流地点を発進し、無人となった3号を引いて周囲の見張りと同船の監視とを交互に行いながら大船渡港に向かった。
発進後、B受審人は、船橋で機関長と共に3号の見張りに当たり、同船が佐賀丸の航走波の影響などによって右舷船尾約10度方向に位置した状況で引かれるのを認めていたところ、やがて機関長が食事の準備のために降橋したのでその手伝いをすることを思い立ち、在橋して3号に対する監視を行う立場であることを承知していたが、A受審人が操舵操船の合間に3号の監視を行っているので大丈夫と思い、在橋して3号に対する監視を十分に行うことなく、09時05分渡波尾埼灯台(以下「尾埼灯台」という。)から290度2.1海里の地点で、A受審人にその旨を告げないまま降橋し、サロンで機関長と共に食事の準備を始めた。
A受審人は、09時15分尾埼灯台から190度1.4海里の地点に達したとき、機関の回転数を680に上げ6.0ノットの曳航速力として3号の状況を見たところ、同船が右舷側に5度ばかり変位して右舷船尾約15度方向で、右方に振れたその船首が曳航索の張力で自船の方向に引き戻される動作を緩やかに繰り返しながら引かれているのを認めて進行するうちに、牡鹿半島の南西岸と田代島及び網地島との間の海域を北上して来る数隻の他船を認めてその動静監視に当たり、その後も3号が舷側方向に変位を続け、その船首が曳航索によって自船の方向に引き戻される際の張力が増加する状況であったが、反航して来る他船の動静を監視することに気を奪われ、3号に対する監視を行っていなかったので、このことに気付かなかった。
こうして、A受審人は、3号が舷側方向に変位を続けてやがて右舷船尾約30度方向に位置し、右方に振れた船首が曳航索によって時折強く引き戻されるようになり、同船を横引きするおそれのある状況となったが、そのときの衝撃が曳航索のカテナリーに吸収されて自船に伝わらないまま、依然として反航して来る他船の動静監視に気を奪われ、3号に対する監視を行うことなく、同船を横引きするおそれのある状況に気付かず、速力を減じるとか、針路を変更するなどして横引きを避ける措置をとらないで続航中、09時25分尾埼灯台から170度2.2海里の地点において、3号は、その船首が右方に振れて155度を向いたとき、曳航索により左舷船首45度方向に強く横引きされて船体が左舷側に大傾斜し、復原力を喪失して左舷側から転覆した。
当時、天候は曇で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は、急に機関音が変わったので右舷後方を見て3号が転覆したことに気付き、事後の措置に当たった。
転覆の結果、3号は09時30分前示地点において沈没し、翌16日起重機船によって引き揚げられ、のち解撤処分された。
(原因)
本件転覆は、石巻港沖合において、佐賀丸が、無人の3号を曳航中、同船に対する監視が不十分で、舷側方向に変位した同船を横引きし、3号の船体が大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、石巻港沖合において、自ら操舵操船に当たって無人の3号を曳航する場合、同船の舷側方向への変位の状況に応じて速力を減じるとか、針路を変更するなどして横引きを避ける措置をとることができるよう、同船に対する監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前方から反航して来る他船の動静を監視することに気を奪われ、3号に対する監視を十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方から徐々に舷側方向に変位した同船を横引きするおそれのある状況となったことに気付かず、減速するなど横引きを避ける措置をとることができないまま曳航を続けて同船を横引きし、3号の船体を大傾斜させて同船の転覆を招き、全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、石巻港沖合において、曳航支援員として3号の曳航作業に従事する場合、無人のまま引かれる3号の舷側方向への変位の状況に応じて横引きを避ける措置をとることを船長に進言できるよう、在橋して同船に対する監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、船長が操舵操船の合間に3号に対する監視を行っているので大丈夫と思い、在橋して3号に対する監視を十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方から徐々に舷側方向に変位した3号を横引きするおそれのある状況となったことに気付き得ず、船長に対して横引きを避ける措置をとるよう進言できないで3号の転覆を招き、同船を全損させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。