(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成11年8月11日12時20分ごろ
島根県恵曇漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十一豊海丸 |
総トン数 |
4.87トン |
登録長 |
10.80メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
第二十一豊海丸(以下「豊海丸」という。)は、昭和55年4月に進水した後部機関室型のFRP製漁船で、島根県恵曇漁港を基地として操業に従事する中型まき網漁業船団に灯船として所属しており、機関室には、中央部に主機を、その船首側両舷に主機動力取出軸でベルト駆動される発電機各1基をそれぞれ装備し、船尾部に多数の集魚灯用安定器を配置していた。
主機の冷却海水系統は、海水が、機関室右舷船首船底の主機冷却海水入口コック(以下「海水入口コック」という。)から入り、同コック出口に直接取り付けられた主機冷却海水こし器(以下「海水こし器」という。)を経て主機直結の海水ポンプで吸引・加圧され、潤滑油冷却器及び清水冷却器を順に冷却したのち、機関室左舷側の排出口から船外に排出されるようになっていた。
ところで、海水こし器は、黄銅製のこし器本体上面に、直径約10センチメートル(以下「センチ」という。)高さ約15センチの内部にこし網を挿入した円筒形の筒(以下「カバー」という。)をねじの外径が約1センチで長さ約20センチの1本の黄銅製のボルト(以下「カバー取付ボルト」という。)で取り付けたもので、本体とカバーの合わせ面にゴム製パッキンを挿入し、船底からの高さが20センチほどの位置にカバーが水平になるように取り付けられていた。
A受審人は、就航時から船長として乗り組んで毎年5月初めから11月末までの漁期中にのみ操業に従事していたもので、機器の整備は鉄工所に依頼し、こし器掃除などの簡単な整備は自らが行うなどして各機器の運転管理に携わっており、船を無人とする際には海水入口コックを閉めなければならないことを承知していたものの、就航以来、海水こし器を掃除するなどの主機冷却海水系統の整備時以外は同コックを閉止していなかった。
平成11年4月末、A受審人は、翌月からの操業に備えて海水こし器を開放掃除したが、その際、各部の点検を十分に行わなかったので、同こし器本体側のカバー取付ボルト用ねじ部が経年による腐食で衰耗していることに気付かず、こし網を掃除後に各パッキンを新替えし、カバー取付ボルトを締め付けて同こし器を復旧した。
その後、豊海丸は、美保関沖から益田沖にかけての漁場でいわしやあじ等を漁獲対象とする操業に従事しているうち、海水こし器のカバー取付ボルトが、機関室の振動の影響を受けるなどして次第に緩み始め、本体ねじ部から抜け出す寸前の状態となっていた。
こうして、豊海丸は、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.1メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同年8月10日18時ごろ僚船と共に恵曇漁港を発し、19時ごろ漁場に至って操業に従事したのち、翌11日06時30分ごろ帰途に就き、08時00分ごろ同港内の恵曇港南防波堤灯台から真方位073度320メートルの係留岸壁に着岸した。
A受審人は、着岸後に主機を停止して蓄電池を電源とするビルジポンプで機関室内のビルジを船外に排出し、機関室内各部を点検して異常がないことを確認したのち、08時30分ごろ船を無人として帰宅したが、その際、長年の習慣から海水入口コックを閉止しなかった。
豊海丸は、A受審人が離船して間もなく、無人の機関室内で、海水こし器のカバー取付ボルトが脱落してカバーが外れ、開放されたままであった海水入口コックから海水が多量に機関室内に浸入し、12時20分ごろ恵曇漁業協同組合の組合員によって船尾が著しく沈下しているのが発見された。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、港内は穏やかであった。
船主から連絡を受けたA受審人は、直ちに帰船し、僚船の乗組員と共に機関室内の海水の排出作業に当たった。
豊海丸は、機関室内に多量の海水が浸入した結果、発電機や集魚灯用安定器等の電気機器に濡れ損を生じたが、のち修理され、同時に、海水こし器を取り外し、海水入口コックと海水ポンプを直接配管する工事が施行された。
(原因)
本件遭難は、海水こし器を開放掃除した際の点検が不十分であったことと、海水入口コックの取り扱いが不適切であったこととにより、島根県恵曇漁港の岸壁に無人で係留中、衰耗していた海水こし器本体ねじ部からカバー取付けボルトが脱落し、カバーが外れた同こし器から海水が多量に機関室内に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、岸壁係留中に船を無人として離船する場合、主機冷却海水系統に異常が生じても海水が機関室内に浸入することのないよう、海水入口コックを閉止すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、長年の習慣から、船を無人とするにあたって同コックを閉止しなかった職務上の過失により、カバーが外れた海水こし器から多量の海水が機関室内に浸入する事態を招き、発電機や集魚灯用安定器等の電気機器に濡れ損を生じさせるに至った。