(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年4月13日16時08分
沖縄県那覇港
2 船舶の要目
船種船名 |
旅客船なは3 |
総トン数 |
17トン |
全長 |
13.45メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
235キロワット |
3 事実の経過
なは3は、水中観光に従事する2基2軸の鋼製旅客船で、上甲板の船首部に操舵室を配置し、その後方のデッキ上に旅客用のベンチを設け、上甲板下中央に水中展望室を、その両舷上部には浮力タンクを配置し、両舷とも同タンク区画の中央部が機関室に、その後方が操舵機室となっていた。また、各機関室は、操舵機室後方の連絡通路で両舷が通じていて、後方の上甲板に一辺が60センチメートルの正方形のハッチがそれぞれ設けられ、機関室及び操舵機室への出入口となっていて、鋼製のハッチカバーが取り付けられていた。
両舷主機は、それぞれ機関室の中央部に据え付けられ、いずれもJ株式会社製の4CH−ST型と称する逆転減速機(以下「減速機」という。)を付設したディーゼル機関で、左舷側主機(以下「左舷機」という。)が直流発電機及び操舵機用油圧ポンプを、また、右舷側主機(以下「右舷機」という。)が空気調和装置用圧縮機及び同装置用冷却海水ポンプを、それぞれ動力取出軸を介して駆動するようになっていて、各シリンダに船首側を1番として4番までの順番号が付され、軽油を燃料油としていた。また、主機は、間接冷却方式で、1番シリンダ船首側の架構上に清水膨張タンクに組み込まれた清水冷却器を装備していた。
主機の冷却海水系統は、主機直結冷却海水ポンプにより海水吸入弁から吸引加圧された海水が、清水冷却器から空気冷却器に至り、再び清水冷却器に導かれ、潤滑油冷却器、減速機用潤滑油冷却器(以下「減速機用冷却器」という。)を順次冷却した後、船外吐出弁から水線下に排出されるようになっており、同ポンプには吐出圧力計は装備されてなく、配管の随所にゴムホース(以下「ホース」という。)が用いられ、接続部がステンレス鋼製の固定用締付けバンド(以下「ホースバンド」という。)で締め付けられていた。また、冷却海水は、減速機用冷却器入口 手前から分岐して一部が船尾管軸封装置に供給されていた。
ところで、潤滑油冷却器の冷却海水入口管は、長さ約400ミリメートル(以下「ミリ」という。)内径38.1ミリ厚さ5ミリで4キログラム毎平方センチメートルの耐圧を有するホースが用いられ、主機右舷側船首方から船尾に向けて水平に配置され、船首側は清水冷却器出口管に接続され、船尾側は、約200ミリ後方で下方に曲げられ、さらにホースの端から約60ミリ上方で60度の角度まで左舷側に曲げられ、潤滑油冷却器に接続されていた。そして、潤滑油冷却器のホース接続部は、同冷却器海水入口側蓋に設けられた外径38.5ミリ内径29ミリで、外面を滑らかに加工し、先端部分の外径を39.5ミリとした短管に、ホースが約40ミリ差し込まれていて、容易に外れないようになっていたものの、海水の圧力が異状に高まると、ホースが膨張してホースバンドがホースの拡張する力に抗しきれずに滑りを生じ、短管からホースが外れるおそれがあった。
なは3が行う水中観光は、水中展望室の水面下の両舷にはめ込まれたガラス窓を通して海底のさんご礁を見るもので、観光を行う水域には、新港第1防波堤の外側及び内側のコースがあり、天候や海水の透明度により使い分けられ、1回の所要時間が約50分で、1日7便が9時から11時及び13時から16時の毎時に運航されていた。
A受審人は、平成12年1月から船長として乗り組み、操船のほか機関の運転管理にも当たり、翌々3月に右舷機が過熱運転の兆候があったことと、左舷機が排気に黒煙が混じることから両舷主機の開放整備を行うこととした。
なは3は、同月13日から27日まで琉球造船鉄工株式会社に入渠し、工事を請け負った指定海難関係人R株式会社(以下「R社」という。)によって両舷主機が陸揚げされて整備が行われた。
R社は、前示工事の仕様に減速機の整備は含まないことを船主から言われ、清水冷却器、空気冷却器及び潤滑油冷却器の各熱交換器の掃除を実施したが、減速機用冷却器の掃除は行わなかった。そして、R社は、潤滑油冷却器の掃除後、同冷却器の前示冷却海水入口管のホースを新替えし、ホースバンドは再使用が可能であったので、今まで使われていたものをそのまま使用して復旧した。
A受審人は、R社の施工する工事に立ち会い、右舷機が空気冷却器の冷却海水側に著しい汚れがあり、同じ冷却海水系統にある減速機用冷却器にも汚れがあったものの、減速機については、これまで運転に支障がなく、また、今回の工事の仕様にも含まれてなく、主機を整備するだけで大丈夫と思い、冷却海水入口管を取り外すなどして減速機用冷却器の海水側の汚れの有無を十分に点検することなく、減速機用冷却器の海水側が汚れて閉塞気味であったことに気付かないまま右舷機の運転を続け、冷却海水ポンプが作動中、海水の流れが阻害され、同ポンプ出口から減速機用冷却器入口までの系統の圧力が高くなっていたことを知らなかった。
なは3は、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客26人を乗せ、左舷側船首倉庫に索具を格納していて船体が同側にわずかに傾斜した状況で、船首1.20メートル船尾1.23メートルの喫水をもって、翌4月13日16時00分那覇港泊ふ頭を発し、新港第1防波堤内側に広がるさんご礁水域に向かった。
A受審人は、これより前、機関室のビルジ量の異状を示す警報装置を装備していないことから、発航前にはビルジの状況を点検することにしていて、両舷機関室のハッチカバーを開け、上から同室をのぞき込んでビルジ量の点検を行ったが、異状を認めなかったのでそのまま同カバーを閉鎖していた。
こうして、なは3は、両舷主機を全速力前進にかけて7.0ノットの対地速力で航行中、右舷機の減速機用冷却器の冷却海水側の閉塞が進行し、同海水系統の圧力が著しく上昇し始めた。そして、右舷機潤滑油冷却器の冷却海水入口のホースが膨張するとともに、同ホースを締め付けていたホースバンドがホースの拡張する力に抗しきれずに滑りを生じ、同ホースが接続部から抜けて外れ、多量の海水が噴き出し、右舷機関室から船尾方に流れて操舵機室後方の連絡通路を経て左舷側機関室に流入し始め、16時08分那覇港新港第1防波堤南灯台から真方位065度1,350メートルの地点において、左舷機関室がプロペラ軸に達するまで浸水し、船体が大きく左舷側に傾斜した。
当時、天候は曇で風力2の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
浸水の結果、なは3は、救助を要請し、来援の巡視艇に旅客を移乗させた後、巡視艇に搭載していた排水ポンプを使用して排水しながら、自力で航行を続けて造船所に回航し、のち精査したところ、前示減速機用冷却器の海水側の閉塞が判明し、掃除が行われた。
(原因)
本件遭難は、過熱運転の兆候のあった右舷機の整備にあたり、熱交換器の掃除を行った際、減速機用冷却器の海水側の汚れの有無の点検が不十分で、減速機用冷却器の海水側が汚れて閉塞したまま右舷機の運転が続けられ、海水の流れが阻害されて冷却海水圧力が上昇し、右舷機潤滑油冷却器冷却海水入口管が膨張して接続部で外れ、多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、過熱運転の兆候のあった右舷機の整備にあたり、熱交換器の掃除を行った場合、減速機用冷却器の掃除を行っていなかったのであるから、海水側の汚れを見落とすことのないよう、減速機用冷却器冷却海水入口管を取り外すなどして減速機用冷却器の海水側の汚れの有無を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷機について、減速機はこれまで運転に支障がなく、主機を整備するだけで大丈夫と思い、冷却海水入口管を取り外すなどして減速機用冷却器の海水側の汚れの有無を十分に点検しなかった職務上の過失により、減速機用冷却器の海水側が汚れて閉塞気味であったことに気付かないまま右舷機の運転を続け、海水の流れが阻害されて冷却海水圧力が上昇し、右舷機潤滑油冷却器冷却海水入口管が膨張して接続部で外れ、多量の海水が同管から噴き出し、機関室への浸水を招き、運航を中断して旅客を巡視艇に移乗させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
R社の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。