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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 遭難事件一覧 >  事件





平成12年長審第66号
件名

引船第十八富津丸遭難事件
二審請求者〔補佐人村上誠〕

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成13年2月23日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(河本和夫、亀井龍雄、平野浩三)

理事官
弓田

指定海難関係人
R有限会社 業種名:海運業
S株式会社 業種名:造船業
A 職名:長崎エンジニアリング代表

損害
水没のち全損処理

原因
弁管装置点検不十分、浸水の有無点検措置不十分

主文

 本件遭難は、下架した際、補機海水吸入弁から海水が機関室に流入したことによって発生したものである。
 船舶用船者が、下架するにあたり、機関室浸水の有無点検の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 造船所が、下架するにあたり、機関室点検の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 機器整備業者が、上架中補機を陸揚げするにあたり、補機海水吸入弁の閉鎖確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月3日07時10分
 長崎県長崎港第2区(S社内浮き桟橋係留所)

2 船舶の要目
船種船名 引船第十八富津丸
総トン数 19トン
全長 16.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット

3 事実の経過
 第十八富津丸(以下「富津丸」という。)は、平成4年4月に進水した一層甲板型の鋼製引船で、指定海難関係人R有限会社(以下「R社」という。)が裸用船していた。
 R社は、富津丸ほか1隻を裸用船して引船業務を営み、富津丸の進水以来半年ごとに船体整備を指定海難関係人S株式会社(以下「S社」という。)に於いて実施し、機関整備は必要の都度A指定海難関係人に依頼して実施していた。
 S社は、所内に船台4基、浮き桟橋1基などを所有して船体整備のみを請け負っており、実務の責任者は専務取締役のFで、本工はクレーン係を含めて3人で機関担当者や保安要員はおらず、夜間は無人としており、台風避泊などで船首から浮き桟橋の使用依頼を受けることがあったが、その際は、サービス提供のつもりで無料で浮き桟橋に係留させていた。
 A指定海難関係人は、陸用及び舶用機械の整備、中古販売などの業務を営み、船主から依頼を受けてS社に上架中の船舶の機関整備を実施することもあり、平成9年ごろから富津丸の機器整備も請けていた。
 D代表者は、平成12年2月富津丸を上架のうえ船底洗い、船底塗装の船体整備をS社に於いて実施することとしたが、回航前に船長が辞職したため、自分も一級小型船舶操縦士免状を持っていたので、富津丸をS社に自ら回航することとした。
 富津丸は、D代表者が船長としてほか1人が乗り組み、船首1.2メートル船尾2.3メートルの喫水で、平成12年2月26日11時00分長崎市大波止の係留地を発して12時ごろ長崎港第2区にあるS社の船台に上架された。
 ところで富津丸は、中央部甲板下の機関室後部中央に発電機及び同機駆動原動機(以下「補機」という。)が据え付けられ、同室左舷中央部船底にシーチェストが備えられ、補機はシーチェストに取り付けられた補機海水吸入弁からの海水で冷却されるようになっており、同弁は呼び圧力5キログラム毎平方センチメートル呼び径25ミリメートルのねじ締めアングル弁で、常時開放のまま使用されていたところ、いつしか弁棒のねじ部が固着して閉鎖できない状態になっていた。
 D代表者は、富津丸上架後、F専務取締役と打ち合わせを行い、船底塗装のほか、上架後確認した船尾ボイドスペースの亀裂の溶接修理などの工事を決めたが、自分が入渠中の船主側の管理者及び責任者として工事中の諸点検に立ち会うつもりでいたので、乗組員を配置しなかった。そして、進水以来整備していなかった補機を入渠中に陸揚げ整備することとし、同機がなくても航海には支障がないので積込み時期は未定のまま、船主手配で補機を陸揚げすることをF専務取締役に連絡せずに、A指定海難関係人に補機の陸揚げ整備及び上架後発見したプロペラの曲り直し工事を依頼した。
 A指定海難関係人は、長崎エンジニアリングの従業員2人がプロペラ曲り直し工事を2月28日に終えたあと、翌29日従業員3人とともに補機陸揚げ工事の目的でS社を訪れたが、補機陸揚げのことが造船所側に伝わっていなかったことを知らないまま、上架中の富津丸機関室内で従業員とともに陸揚げのための補機分解工事にかかった。
 A指定海難関係人は、同工事にあたって呼び径25ミリメートルの補機冷却海水管の接続を外す際、従業員が補機海水吸入弁のハンドル車を回して閉鎖したように見え、確認のためパイプレンチを用いて閉鎖方向に回そうとしても回らなかったので、完全に閉鎖されているものと思って開放方向に回るか否かを試さず、同弁の状態を十分に確認しなかった。
 翌3月1日A指定海難関係人は、造船所のクレーン係に依頼して補機を陸揚げする際、通常上架中の船舶の機器整備を実施したときは、下架時に整備した機器の試運転に立ち会っており、今回は補機の積込み時期が未定であることから、下架時に補機海水吸入弁からの浸水がないことを確認するつもりで、造船所の工員に下架予定を聞いたが同工員から明確な返答が得られなかったにもかかわらず、D代表者やF専務取締役に下架予定を確かめず、また下架予定の連絡依頼もしないまま補機を自分の工場に持ち帰り、R社の事務所に補機陸揚げが終了した旨の電話連絡をして下架予定の連絡を待った。
 翌2日朝F専務取締役は、D代表者に同日午後の高潮時に富津丸を下架することを電話連絡したとき、D代表者から翌3日に受け取りたいのでそれまで浮き桟橋に係留しておいてほしい旨の依頼を受けたので、船主による船体工事完了の点検は船主側の都合で省略され、造船所側で下架後ボイドスペースの亀裂溶接修理部から漏水がないことを確認した時点で工事完了と同時に引渡し完了で、引渡し以後のことについては船主側の責任と解釈し、引渡し時期及び引渡し後の管理責任について船主側と互いに確認しなかった。
 D代表者は、富津丸の下架予定の連絡を受けたとき、都合で船体工事完了の点検に立ち会うことができなかったが、造船所側が翌3日まで浮き桟橋に係留することを承諾したのであるから、引渡しは自分が乗船後工事完了を確認した時点であり、それまでの管理責任はS社にあるものと解釈し、そのことを造船所側と互いに確認せず、下架及びその後の係留を夜間無人となるS社に任せ、下架するにあたり、A指定海難関係人または乗組員を手配するなど機関室内浸水の有無点検の措置をとらなかった。
 F専務取締役は、富津丸の下架及び係留を工員に指示したとき、クレーン係から外部の業者が機関室からなにかの機械を陸揚げしたことを聞いたが、船主側に機関室点検実施について確認するなど機関室点検の措置をとらなかった。
 富津丸は、2日15時30分下架されたところ、開放状態の補機海水吸入弁を経て補機との接続が外され、開口のままとなっていた冷却海水管から機関室に浸水し、機関室を一見すれば発見することができたが、気付く者がいないまま、浮き桟橋に左舷付けで係留された。
 こうして富津丸は、機関室への浸水が続いていたところ、3日07時10分長崎港旭町防波堤灯台から真方位193度2,600メートルの係留地点において、船体が右舷側に横転して水没しているのが出勤した工員によって発見された。
 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、海上は穏やかで、潮候は高潮時であった。
 遭難の結果、富津丸は、引き揚げられたが全損処理された。
 その後、D代表者は、下架する際は乗組員に機関室浸水の有無を点検させるよう、F専務取締役は、下架する際は船主または機器整備業者が機関室を点検することを確認するよう、A指定海難関係人は、下架する際は立会いを励行するようそれぞれ改善した。

(原因)
 本件遭難は、船体整備工事の目的で長崎県長崎港の造船所に入渠した富津丸を下架した際、開放状態の補機海水吸入弁を経て補機との接続が外され、開口のままとなっていた冷却海水管から機関室に海水が流入したことによって発生したものである。
 船舶用船者が、下架するにあたり、船主手配の工事を実施した機関室内浸水の有無点検の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 造船所が、下架するにあたり、機関室点検の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 機器整備業者が、補機を陸揚げするにあたって補機海水吸入弁の閉鎖確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。

(指定海難関係人の所為)
 R社が、S社から下架予定の連絡を受け、D代表者が船主側の管理者及び責任者として立ち会えない際、造船所側と引渡し時期及び引渡し後の管理責任を互いに確認しないまま、下架及びその後の係留を夜間無人となるS社に任せ、下架するにあたり、補機を陸揚げしたA指定海難関係人または乗組員を手配するなど機関室浸水の有無点検の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 R社に対しては、下架する際は乗組員に機関室を点検させるよう改善した点に徴し、勧告しない。
 S社が、下架するにあたり、船主側の管理者及び責任者が立ち会えない際、船主側と引渡し時期及び引渡し後の管理責任について互いに確認しないまま、機関室点検について船主側の機関室点検実施を確認するなど、機関室点検の措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
 S社に対しては、下架する際は船主または機器整備業者が機関室を点検することを確認するよう改善した点に徴し、勧告しない。
 A指定海難関係人が、補機を陸揚げした際、補機海水吸入弁の閉鎖確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、下架する際は立会いを励行するよう改善した点に徴し、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。 





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