(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月14日08時00分
兵庫県家島港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第拾丸 |
総トン数 |
492トン |
全長 |
60.50メートル |
幅 |
13.00メートル |
深さ |
6.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,029キロワット |
3 事実の経過
第拾
丸(以下「
丸」という。)は、航行区域を沿海区域とし、昭和63年11月に進水した二層甲板船尾船橋機関室型の鋼製石材運搬船で、上甲板下は、船首から順に、甲板長倉庫、船首倉庫とその下部の空所、貨物倉、機関室及び操舵機室などにそれぞれ区画され、空所及び貨物倉の下方の二重底が1番から3番のバラストタンクとなり、機関室上方の船尾楼に居住区及び操舵室をそれぞれ配置していた。
機関室は、長さが約12メートルで、第2甲板によって上下2段に分けられ、下段には、中央付近に主機を、同機の両舷やや船首寄りに発電機用ディーゼル機関(以下、右舷機を「1号補機」、左舷機を「2号補機」という。)をそれぞれ据え付け、両補機の船首側にはいずれも電動の主機冷却海水ポンプ、ビルジ・バラストポンプ、消防兼雑用水ポンプ(以下「雑用水ポンプ」という。)及び海水サービスポンプなどを、右舷側後部に油水分離器用ビルジポンプを備え、船底から高さ約1.6メートルのところに床板が敷かれ、後部全体がビルジだめになっていてビルジ高位警報装置を設けていた。
また、機関室のシーチェストは、主機船首側の船底両舷に低位シーチェストが設けられ、右舷低位シーチェストには主機冷却海水ポンプ、1号補機、ビルジ・バラストポンプ、油水分離器用ビルジポンプの、左舷低位シーチェストには2号補機、雑用水ポンプ及び海水サービスポンプなどの海水吸入弁がそれぞれ取り付けられていたほか、主機及び両補機専用の高位シーチェストを1号補機の右舷側に備えていた。
雑用水ポンプは、運航中に甲板洗浄及び消火管系などに使用されるほか、補機の冷却海水系統に応急送水できる経路や、バラストタンクへの送・排水管系に接続しているもので、海水は、シーチェスト付きの海水吸入弁からこし器を経て、船底より1メートルの高さのところに、2号補機の左舷側を沿って船首方向に配管された呼び径125ミリメートルの海水吸入管から吸引加圧されており、左舷側に圧力調整弁を兼ねた船外吐出弁を設けていた。
A受審人は、
丸新造時から機関長として乗り組み、機関の運転と保守管理に当たり、早朝、ほかの乗組員とともに交通用伝馬船を使用して兵庫県家島港に係留中の
丸に赴き、補機次いで主機などを始動、運転するとともに、同県男鹿島で積み込んだ石材を阪神地区に輸送したのち、同島に戻って石材を積み込みのうえ、夕方ごろ同港に帰港し、すべての機器を停止して船内電源を遮断してから、船内を無人として帰宅する運航形態のもとで、1箇月に22ないし23日石材輸送に従事しており、離船する際、使用した海水吸入弁は閉弁するようにしていた。
そして、A受審人は、平成9年12月上旬ごろ、機関室のビルジ量が徐々に増加しているのを認めたが、急激に増加しなかったことから、床板を取り外すなどして、海水管系に漏洩箇所がないか十分に点検しなかったので、雑用水ポンプの海水吸入管が経年による腐食の進行により、いつしかその肉厚が衰耗して亀裂、破孔を生じ、これが次第に進展する状況であることに気付かないまま、運航を続けていた。
丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、同月13日午前中に大阪港への石材輸送を終えたのち、13時ごろ男鹿島に至って石材約1,400トンを積み込み、船首3.40メートル船尾4.60メートルの喫水をもって、15時ごろ同島を発して同時30分家島港に帰港し、尾崎鼻灯台から真方位147度900メートルの地点において、左舷錨を投錨し、船尾から係留索2本を岸壁にとり、船首を北東方に向けて係留した。
係留作業を終えたA受審人は、機関室に赴いて主機などを停止したのち、帰航の際に開放整備中であった2号補機潤滑油こし器などの復旧作業に1人で取り掛かり、これを16時少し前に終え、船内電源を遮断して離船することにしたが、すでにほかの乗組員が伝馬船で待っていることで気があせり、雑用水ポンプや2号補機などの左舷低位シーチェストの海水吸入弁を閉弁することなく、16時過ぎに急いで伝馬船に乗り移った。
こうして
丸は、船内を無人としたまま係留中、開弁されたままになっていた雑用水ポンプ海水吸入弁を経て、同ポンプの海水吸入管に生じていた前示亀裂、破孔部から海水が機関室に浸入し続け、翌14日08時00分、船体整備などを行うために帰船したA受審人が、前示係留地点において、機関室下段の床板から40ないし50センチメートルの高さまで浸水していることを発見した。
当時、天候は晴で風力1の北西風が吹き、港内は穏やかであった。
A受審人は、直ちに一緒に帰船した船長に機関室が浸水した旨を連絡し、来援した地元消防団によって排水作業が行われている間に、水位が低下した機関室に入り、雑用水ポンプや2号補機などの左舷低位シーチェストの海水吸入弁を閉弁した。
丸は、家島港内のドックへ回航されたのち、2号補機4番シリンダ横の雑用水ポンプ海水吸入管に、円周方向に進展した亀裂とともに破孔が生じているのが発見され、浸水の結果、主機、補機、発電機及び各種電気機器等に濡損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件遭難は、機関室のビルジ量が徐々に増加するようになった際、同室床板下の海水管系の点検が不十分で、雑用水ポンプ海水吸入管に亀裂、破孔が生じたまま放置されたことと、係留を終え船内を無人として離船するにあたり、海水吸入弁を閉弁する措置が不十分であったこととにより、開弁されたままの雑用水ポンプ海水吸入弁を経て、同亀裂、破孔部から多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、係留を終え船内を無人として離船する場合、機関室内の海水管系に破孔などが発生しても、同室に海水が浸入することのないよう、すべての海水吸入弁を閉弁すべき注意義務があった。ところが、同人は、係留後も開放整備中であった機器の復旧作業を続け、すでにほかの乗組員が伝馬船で待っていることで気があせり、すべての海水吸入弁を閉弁しなかった職務上の過失により、開弁されたままの雑用水ポンプ海水吸入弁を経て同ポンプ海水吸入管に生じた亀裂、破孔部から機関室に浸水を招き、主機、補機、発電機及び各種電気機器等に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。