(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成12年10月16日17時50分
鹿児島県奄美大島笠利湾
2 船舶の要目
船種船名 |
巡視船はやと |
総トン数 |
3,231.77トン |
全長 |
105.40メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
11,473キロワット |
3 事実の経過
はやとは、ヘリコプター搭載型巡視船で、可変ピッチプロペラを装備し、A、B両受審人ほか39人が乗り組み、曽津高埼灯台の支援及び環境事犯事前調査両業務に従事した後、鹿児島県奄美大島笠利湾においてヘリコプターによる降下員訓練を行う目的で、船首4.90メートル船尾5.15メートルの喫水をもって、平成12年10月16日07時50分同県名瀬港を発し、奄美大島南西沖に向かった。
A受審人は、前示業務に従事中、13時13分行方不明船があるとの情報を受けて同船の捜索を開始し、14時30分に離船して捜索に当たっていたヘリコプターを、洋上はうねりが大きかったことから、平穏な笠利湾において着船させることとして同湾に向かい、17時35分航空機着船部署を発動した。
これに先立ち、A受審人は、笠利湾に入湾するのは約30年ぶりで、午前中海図を見て、10メートル等深線を確かめ、浅礁が存在することを知ったが、いつものようにレーダーを使用して陸岸との距離を確認しながら航行すれば大丈夫と思い、入出湾時の避険線を設定しなかった。
一方、B受審人は、午前の船橋当直中、午後に行われる予定の降下員訓練に備えて海図を用意し、笠利湾に入湾するのは初めてであったが、海図を一瞥しただけで、地形及び立神岩西北西方から南西方に拡延する浅礁を把握しないまま、立神岩を船首少し右に見て航行すれば大丈夫と思い、水路調査を十分に行わなかった。
ところで、当時、航空機着船部署表の規定による船橋配置者は、A受審人、主任航海士G、航海士、航海士補、航空長及び業務管理官の6人であった。
G主任航海士は、16時00分から船橋当直に就き、17時37分少し過ぎ今井埼灯台から044度(真方位、以下同じ。)1,450メートルの地点に達したとき、針路を180度に定め、13.5ノットの対地速力で進行し、同時42分同灯台から130度1,300メートルの地点において、針路を200度に転じ、まもなく食事交替のため昇橋したB受審人に当直を引き継いだ。
A受審人は、食事交替について、入出港時には時間をずらすよう指示していたが、航空機着船部署発動時には同指示をしていなかったので、主任航海士は降橋し、また、同部署表の規定に反して、航海士補も交替者がいないまま降橋したのを知っていたが注意を与えなかった。
17時43分B受審人は、針路200度、プロペラピッチ20度、着船時の相対風速はそれほど必要ない、同時50分ごろヘリコプターが着船予定なので同時45分ごろから反転するようにとの引き継ぎを主任航海士から受けた。
B受審人は、17時44分少し前今井埼灯台から150度1,600メートルの地点において、プロペラピッチを20度から15度とし、左舵15度を命じて回頭を始めたところ、航空長から針路050度でどうかと言われ、このころ立神岩西北西方の10メートル等深線北西端が約040度方向となっていたが、このことに気付かないまま、同時46分同灯台から141度1.1海里の地点で、針路を050度とした。
船橋前部右舷側にいたA受審人は、050度の針路に疑念を持ったが、B受審人に対し、右舷船首方の水深は大丈夫かと言っただけで、船位を確認するよう明確に指示することなく、まもなくB受審人が針路を040度に転じたのでこの針路で大丈夫と思い、浅礁に向かっていることに気付かないまま、その後右舷ウイングに出てヘリコプターの着船状況を見ていた。
一方、B受審人は、A受審人から右舷船首方の水深は大丈夫かと言われ、立神岩が右舷船首方に見えていたので大丈夫と思っていたが、少し左に向けることとし、17時47分今井埼灯台から132度1.1海里の地点において、針路を040度に転じ、水路調査を十分に行っていなかったので、浅礁に向かっていることに気付かないまま、10.0ノットの速力で進行した。
はやとは、同じ針路、速力のまま続航中、17時48分ヘリコプターが着船し、同時50分少し前B受審人が右に寄っているように感じて左舵15度を命じたが効なく、17時50分今井埼灯台から107度1.2海里の地点において、乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船底外板全般に擦過傷を伴う凹損及びスケグに凹損を並びに両舷推進器翼及び両舷フインスタビライザに切損をそれぞれ生じ、他船によって引き下ろされ、えい航されて修理地に向かい、修理に2箇月近い期間を要した。
(原因)
本件乗揚は、奄美大島笠利湾において、ヘリコプター着船のため回頭して着船時の針路を設定する際、水路調査が十分でなかったことと、船位の確認が十分でなかったこととにより、浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、当直航海士に対し、船位の確認を十分に行うよう指示しなかったことによるものである。
(受審人の所為)
A受審人は、奄美大島笠利湾において、ヘリコプター着船のため回頭して着船時の針路を設定する場合、立神岩西北西方から南西方に拡延する浅礁の西側を航行できるよう、B受審人に対し、船位の確認を十分に行うよう明確に指示べき注意義務があった。しかるに、同人は、船位の確認を十分に行うよう明確に指示しなかった職務上の過失により、船位の確認が行われず、浅礁に向かっていることに気付かないまま進行して乗揚を招き、船底外板全般に擦過傷を伴う凹損及びスケグに凹損を並びに両舷推進器翼及び両舷フインスタビライザに切損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、奄美大島笠利湾において、ヘリコプター着船のため回頭して着船時の針路を設定する場合、立神岩西北西方から南西方に拡延する浅礁の西側を航行できるよう、事前に水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、浅礁に向かっていることに気付かないまま進行して乗揚を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。