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 海難審判庁裁決録 >  2001年度(平成13年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成12年長審第18号
件名

作業船第十一すみれ丸乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成13年3月8日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(亀井龍雄、森田秀彦、河本和夫)

理事官
弓田

受審人
A 職名:第十一すみれ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士

損害
推進器、舵等に損傷

原因
発航準備不十分

主文

 本件乗揚は、航海計画の立案が不十分であったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成10年9月29日18時00分
 熊本県本渡港

2 船舶の要目
船種船名 作業船第十一すみれ丸
総トン数 7.9トン
全長 15.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 250キロワット

3 事実の経過
 第十一すみれ丸(以下、「すみれ丸」という。)は、FRP製作業船で、長崎県壱岐島の郷ノ浦港で港湾作業に従事中、売船のため回航されることとなり、A受審人が1人で乗り組み、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年9月29日10時00分同港を発し、佐賀県大浦港に向かった。
 A受審人は、平成3年に一級小型船舶操縦士免状を取得して作業船に綱夫として乗り組み、同5年からは主として潜水夫として潜水作業につき、運航に従事することは少なく、郷ノ浦港から大浦港までの海域を船長として単独で航行した経験はなかったが、以前僚船に追随して同海域を航行したことがあり、漠然と早崎瀬戸を通れば島原湾に出ると思い、必要な海図を入手し、水路調査を十分に行い、航行経路を決定する等の航海計画を十分に立案しなかった。
 A受審人は、発航後機関を全速力前進にかけて20.0ノットの対地速力で、手動操舵によって進行し、平戸瀬戸を通過した後九州西岸を南下し、14時ころ野母埼沖を通過したところ、この頃から雨と風が強くなって陸岸が視認できなくなった。同人は、航海計画を立案していなかったので正確な進行方向が分からず、どう行けば良いのか僚船船長に携帯電話で聞こうとしたが、バッテリーがあがっていて使えず、他に通信手段がなかったことから不安を感じたが、とにかく東に向かえば早崎瀬戸に行く
 A受審人は、やがてレーダー画面に現れた、天草下島北西岸九州電力株式会社苓北発電所沖合に停泊中の船舶群の映像を橘湾で停泊中のタンカー群と思い込み、早崎瀬戸に向かうつもりで同船舶群の南方沖合に向かって進行し、15時ころ陸岸を視認したが、見覚えのない光景にとまどい、自分がどこにいるのか分からなくなった。
 A受審人は、15時20分ころ停船して付近の釣船に声をかけ、天草下島の牛深港西方付近にいることを教えてもらい、同港には何度か来たことがあってとにかく入港したところ、凪(な)いでおり、天草下島の東岸に沿って進行すれば島原湾に出ることは知っていたので、更に先に進むこととした。同人は、水路状況が全く分からないので、漁船等の他船に追随して長島海峡、八幡海峡をこれとは分からないまま、これら他船の速力にあわせて続航した。
 A受審人は、八幡海峡でたまたま自船の基地の近くで何度も見かけたガット船を視認し、同船について行けば基地近くに行けるものと思い、本渡瀬戸と分からないまま、同船に追随して同瀬戸に入航した。同人は、ガット船に追随して微速力で進行し、17時30分本渡港防砂堤灯台から225度(真方位、以下同じ。)530メートルの地点で水路の南東方に拡延する干出浜に乗り入れたが、その後通りかかった漁船に引き出され、このとき自分が本渡瀬戸にいることを教えられた。
 17時58分半A受審人は、機関を微速力前進にかけて前示乗り入れ地点付近を発進し、直ちに同干出浜から遠ざかるよう針路を022度に定め、5.5ノットの対地速力で手動操舵によって進行中、18時00分本渡港防砂堤灯台から241度320メートルの地点において、原針路、原速力のまま、潜堤に乗り揚げた。
 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果、推進器、舵等に損傷を生じたが、他船の支援で引き下ろされ、修理ののち売船された。

(原因)
 本件乗揚は、長崎県郷ノ浦港から佐賀県大浦港に向けて航行する際、航海計画の立案が不十分で、船位不明のまま他船に追随して本渡瀬戸に入航し、潜堤に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、長崎県郷ノ浦港から佐賀県大浦港にすみれ丸を回航する場合、船長として同海域を単独で航行するのは初めてであったから、必要な海図を入手し、水路調査を十分に行い、航行経路を決定する等の航海計画を十分に立案すべき注意義務があった。しかるに、同人は、漠然と早崎瀬戸経由で島原湾に向かえば良いものと思い、航海計画を十分に立案しなかった職務上の過失により、自船がどこにいるのかも分からないまま本渡瀬戸に入航し、潜堤に向かって進行して乗揚を招き、推進器、舵等に損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。 





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